宮本輝の小説「泥の河」を読まれた人は多いだろう。
「戦後は終った」と言われた昭和30年代の大阪の市井の人々を抒情豊かに描いている。
〝泥の川〟の古い橋の袂の小さなうどん屋の親子と、客との人情味あふれる日常風景。馴染み客の一人、未だに馬で運送業を営む男。戦争で死にかかった体験をした。だが結局、うどん屋の子の少年の目の前で、馬の事故で戦死のように体を砕いて死んでしまう。高度成長から落ちこぼれた「戦後の終わり」を象徴する死にざまである。
やっと中古の小さなトラックを買う算段をしたという、この馬方と、うどん屋の主人の会話が印象深い。
「もう戦争はこりごりや」「そのうちどこかのアホが、退屈しのぎにやり始めるで」。
そのまま、N国党といわれる政党の、やたら戦争をけしかける丸山穂高氏に聞かせたいストーリーだ。彼は当然「泥の河」は読んではいないだろう。
今の繁栄がどのような人々の屍の上に成り立っているのか、戦争体験議員さん、党派を超えて教えてやってほしい。
「泥の河」は映画もあるし語り聞かせのCDもある。丸山氏、心安らかに一度聞いてみてください。
主権者たちの生きる現場に一度身を置き、現代史をしっかり勉強して改めて議員の職についてほしいものだ。