春真っ盛りの4月の第一土曜日、同じ地元に住む会社勤務時代の先輩と、現役の後輩との3人で花見をした。
地元では一番の桜の名所。小高い丘に整備された桜並木の最上部に腰を降ろした。珍しく今年の桜は風雨に見舞われずに絶頂の咲きっぷりを見せてくれていた。
先輩は勤務時代のよき日々を私と掛け合いで話し、現役の後輩は仕事の面白さと大変さとを語ってくれた。
聞けば聞くほど、先輩の話は到底私にはかなわない働きっぷりのエピソードの数々。後輩は聞き役になりがちだったが、話し出せば苦労話に。謙虚な人柄で任務を乗りきっている。
桜吹雪はひっきりなしに私たちの頭上から膝上に花びらを散らし、その降りようは私たちの歓談の腰を折るほどだ。ふと見上げて「すごいな」「桜が一番」などと私たちは声を上げる。
花見は、桜の舞いに未練を残しながら切り上げる時間を迎えて酒食の後片づけ。シートを見ると花びらがいっぱいだ。
「きょうは花見にはちょうど良い日だった」と誰知れず感想が漏れた。
記念の写真を撮ろうとすると隣の学生グループの一人が「私が撮りましょうか」と買って出てくれた。人の気持ちを優しくする。これも花見のいいところだろう。
私たちは再開を約してひとまず解散となった。
さて帰宅後、玄関でレジャーシートを片づけようと広げたところ、桜花がヒラヒラヒラヒラとタイルを飾った。あっ、桜ってすごい、と思いながらシートを畳んで仕舞い込んだのだった。
玄関の花びらは翌日には掃き除かれていた。
そして2週間後の今日午前、起き出すと台所の床にゴミが散らばっているではないか。妻に、なんだこれは!と問いただすと、桜の花と。よく見ると、そうだ。シートを洗うために広げたという。きれい好きの妻が散らばったままにするとは思えない。ひょっとして気を聞かせて私に見せようと…。
明かりの陰に浮かぶ薄いピンク。さすがに少ししおれているが、春の残照を台所に再現して見せてくれる。さすが!日本の花、桜。寝ぼけナマコの私をしばし春の宴の思い出に浸らせてくれた。