クリント・イーストウッド監督・主演の新作映画「運び屋」を観た。

 演じるのは、些細なきっかけから、メキシコの麻薬密輸の運び屋となった善良な老ドライバー。アメ車での運び屋ぶりと、じわじわと迫る警察の追及がサスペンスタッチで描かれる。

 一方で親子間の葛藤、夫婦の愛憎を通奏低音のようにじっくりと描いている。

 家庭を顧みずに仕事に没頭、遊びに生きてきた男の人生。

今では夫婦、親子の関係を断絶され、家族から出入り禁止状態。

老いた妻も嫁ぐ娘も彼の回心をあきらめている。

 胸を病み死の床にある妻が見舞いに来た彼に最期の言葉を漏らす。

「あなたは人生最愛の人、そして最大の悩みの種」。心にズシンと来た。

イーストウッドお得意のテーマでありストーリーだ。

洋画の台詞には印象深く心に残る言葉が多い。

 そういえば教育者で映画評論でも活躍した故・平山進氏もやはり胸を病んで亡くなられたのだが、氏に「映画を読む」なる著書がある。その著書では家族を描くイーストウッド映画を高く評価していた。

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 今回、私はイーストウッドの最後の作品になるのではとの思いもあり、久しぶりに映画館に足を運んだのだった。

 忘れもしない中・高校生の時、私はイーストウッド演じるマカロニウエスタンの孤独なガンマンに魅せられ、映画音楽もドーナツ版で何度も聞いた。私の心身に浸み込んだイーストウッド。私は彼の映画を観る度に、あの時の彼の記憶の輪郭をなぞるように観賞する。

 このごろ、多感な時代に影響された雑多な物事の記憶がフラッシュバックするように思い出される。若い頃の記憶は、古希を迎えた私の行動や思索のエネルギーかもしれない。