ご来迎を拝もうと長崎・金比羅山に登った。例年の私の迎春行事である。
金比羅山は修験道の山。さらに、あの原爆で焼けただれた人々が逃れた山であり、長崎市東部の人々を衝立となって熱線と爆風から救った山。市民に親しまれている山だ。
自宅から登山口の県立図書館前まで1時間半、登山に1時間の計2時間半の行程。
日の出は午前7時20分前後だから、午前5時前には自宅をスタートせねばならない。
が、不覚をとってしまった。寝過ごしたのだ。これまでの記憶にない失敗。6時までぐっすり眠っていた。跳び起きて、バタバタと自転車を漕ぎだした。
だが、徐々に白みゆく長崎の街の空。初日の出との競争だ。
図書館前に自転車を施錠して、震える脚を休ませる暇もなく、タタタタタッと夜明けの静寂に雑音をたてながら登っていく。
山裾の立山公園辺りで万事休す。見下ろす町がすっかり姿を現し、新年の顔を見せた。
住宅が切れ、原生林の参道を入ったところで、下山の善男善女たちとすれ違いだした。
若いカップルやグループが目立つ。「おめでとうございます」とこちらから声を掛ける。
古い石段に耐えて、やっと中腹の金刀比羅神社拝殿に着いた。一礼して先を急ぐ。
すぐに長崎名物4月のハタ揚げで、かつて会場として知られた広場に着いた。
太鼓と笛の音が聞こえる。カエルの姿をしたドンク岩を依代として何やら演奏を奉納している。
2,3人の男女のグループ。昨年もやっていた。冷たい風に響く和楽器の音は気持ちがいい。
天気予報は曇りだったが、雲の切れ間から時折漏れる光が神聖な気を届けてくる。
もう、時間はどうでもよい。頂上に登るだけ。登山者はもちろん、下山者もいない。
震える膝と相談しながら、一人たんたんと上って午前8時半、頂上の鳥居をくぐり、金刀比羅神社奥の院に着いた。幼な子二人を連れた若い母親が下山の様子。未就学児のようだ。4、5歳の子も登るのか?
雲に覆われた空の明るみを眺め、東西南北の風景を見渡す。毎年、変わらぬ絶景。
軽装の男性が上って来た。
私は、白い雲海の背後に輝くご来光を見つめ、30分ほどで下山の途に着いた。
間もなく15日で69歳である。おっと、古希? 今気づいた。
この歳で、毎年欠かさず金毘羅山に登山できることをヨシとしよう。
1時間遅れてご来光に間に合わなかった今年。だが、上ることに意味がある。
参拝客でにぎわう鎮西大社諏訪神社と松森神社で孫のお守を授かり、今年も元旦の年始めの任務終了。しかし、この私が古希か……。