長崎県立長崎図書館が大村市への移転のため、図書貸し出しを10月30日で終了した。その日まで館内に、貸し出し予約図書の順位表が張り出されていた。
私はたまたまその張り出しを見たが、図書名や順位に何か世代的な違和感を持った。もちろん集計公表に問題はなく、良いサービスだ。予約図書の作品名、作家名と、この県立図書館のめぐり合わせが、私にはあまりに意外だったのだ。県立図書館に対する先入観なのだろうか。
メモを繰って紹介しよう。
牧田善治「医者の教える食事術」、下重暁子「極上の孤独」、吉野源三郎「漫画 君たちはどう生きるか」といった今人気の実用本や名作もあるにはあったが、ずらりと並ぶのは人気ミステリー作家の娯楽本。(「君たちはー」も漫画版だった)。トップの牧田善治の実用本に続き、下重、吉野の2作を含めて他の順位を見るとー①湊かなえ 予約27人②東野圭吾 22人③宮部みゆき 19人④恩田陸 18人⑤池井戸潤 15人⑥吉田修一 13人⑦群ようこ 12人⑧井坂幸太郎 12人、以下略ーーといった具合。
結局、私の違和感は長崎らしい歴史書や平和、原爆関連、それに純文学が見当たらなかったことに尽きるようだ。
私の県立図書館の利用は仕事がら、主に郷土史にかかわる参考資料の閲覧だった。上階の郷土資料室には、数々の郷土史や郷土文芸にかかわる書籍や新聞、絵図などが保管され、完璧ではないが資料の宝庫といえる。私はこの郷土資料室に度々お世話になった。一般図書の階にも、簡単には手に入らない高価図書や海外作家物、平和関連、稀覯本、文芸雑誌などを目当てに訪れていた。
私はミステリーなど娯楽図書を借りることはほとんどない。仕事に必要な書籍が書店や懇意にしている古書店に在庫がない場合、やみにやまれず、といった具合だった。
だが、この予約表を見ると、今の世の中、図書館はいわば読み捨てにされそうな娯楽本のオファーであふれているのだ。県立図書館がそうなのだ。古書店に行けば、108円で手に入る手軽な本だ。
さて、一方で書店の嘆きもよく聞く。新刊本が売れない。その背景の一端には図書館での貸し出しもあるように思える。さらに古書店になると嘆き節は一層深くなる。以前は大学や役所の関連部署の古文書や古書などのまとめ買いが普通のことだったとか。しかし昨今はインターネットで資料検索し、関連部分だけプリントアウトすることで完了という。
ミステリー作家全盛というこの傾向を炙り出した図書館の予約表。今の時代の図書館のあるべき姿とは、歴史の街長崎の県立図書館とは何? を問いかける順位表だった。
県立図書館はこれまでも郷土作家シリーズの資料展示を恒例行事にしてきたが、これは郷土資料室でのこと。この取り組みを一般図書貸し出し部署でも工夫してやりたい。一般の階に、どんな貴重な図書が埋もれているのか、市民に知られないまま、貸し出される機会のないまま書棚に眠った本があるのではなかろうか。
と言っているうちに、県立図書館の閲覧も今月末日で終わるという。どんな姿でサービスをするのか、大村市での再会を楽しみしている。