BSで中国雲南省の山岳地帯に生きる農民のルポを見た。

 世界一の棚田「世界農業遺産」を生きるハニ族の人々。

 先祖代々、棚田と水源の森を守り、宇宙の中心のように村落を根拠に生きる農民たちだ。

 農民というと、数ある職業のひとつのようだが、ここでは労働のすべて。時間的にも空間的にもすべてなのである。

 私たちの目から見ると、廃棄物、ゴミなのだが、ここでは暮らしに発生するすべての物が生きるかて、循環の中でコメや野菜、家畜の明日につながる大切なものだ。

 日本からルポのために住み着いた男性が棚田風景を眺めて「美しい」と感嘆したが、案内役の地元の若い男性は「私には愛しい」と。

 「美しい」は客観的な視線での感想を思わせるが、「愛しい」には内部からの思い、風景の中の人の声、生み出した当事者の声を感受する。

 芸術活動にも言える、この二つの心の在りよう。

文芸作品には、主題や人物の説明に力が入った問題意識の強い文章と、一方で筋書き、物語は二の次、内発する言葉が走る文章がある。

 芸術は後者だろう。人間を表現する作者は人間なのだから。

 雲南省の棚田を受け継ぐ若者はハニ族の長い長い歴史を生きた一人。「愛しい」は先祖の血から出た言葉でもあろう。芸術、文芸に私はこのような作品を求める。

作り物ではない、心から出た天与のなにものかの表現を。