長崎県西彼杵郡長与町は人口4万人余りの長崎市北部のベッドタウン。生活基盤が確立され、暮らしよい町と私は感じている。美術家や音楽家、大学の教員らも多く住み、文化的で穏やかな雰囲気が醸された土地でもある。
そんな町で昨晩、役場のある町中央部に近い住宅街で、畑地をステージにした野外ミニコンサートが開かれた。出演は地元管弦楽団などで活躍するクラリネット奏者・梶愛さん、キャンディーズなどのバックバンドを務めたギタリスト長岡純重さんのお二人。
ステージは、長岡さんの自宅に接した、樹齢350年ともいわれる柿の木のある10坪くらいの畑地の一部。梶さんの住まいは路地を挟んだ畑地の向かいにあり、その隣の画廊「Gallery SoRa」(画廊主・松本一十実さん)が照明部屋であり、その軒先が観客席。向こう三軒両隣の文化人たちの〝路地裏コンサート〟である。
観客約40人のうち6割が往年の若者たち70前後の地元の人たちだった。
すっかり日の落ちた午後7時に開演。「りんご追分」のクラリネット、「イエスタデー」のギターのソロ演奏や「ムーンリバー」「オンリーユー」などの合奏を聞き、「あの素晴らしい愛をもう一度」「花嫁」などヒット歌謡や「小さい秋みつけた」などの唱歌をギター演奏に合わせて合唱、「いいぞ」「アンコール」の声が掛かり、「上を向いて歩こう」を路地界隈に響かせた。時折、ステージ袖の路地を軽トラックが通る。ウオーキングの女性が何ごとかと、チラリと振り返り、足早に通り過ぎる。
プロジェクターを使った照明もしゃれていた。畑地のバックの古い石垣に、カラフルな波や枯葉が出現、イリュージョンでキラキラと演奏者を彩っていた。畑地と路地の境のブロック塀に歌詞を映し出すという工夫もよかった。
発案者はSoRaの松本さん。相談を受けた出演者らが企画。路地筋に店を構えるフェアトレード雑貨店の八木亮三さんも、コンサートを幻想的に飾る竹灯篭を準備した。
この路地裏には、蕎麦屋あり、魚屋あり、料理屋、居酒屋,あり、散髪屋あり、おコメ屋あり、菓子屋、パン屋あり、医院あり…。趣味でメダカ養殖に挑む男性や、新劇サークル公演のポスターをいつも掲げた家もあり、つい最近まで古い民家を利用したアクセサリー店もあった。昭和30年代の高度成長時代以降は町の中心商店街だったという。
この町に住んで30数年になる私は、会社勤めを辞めるまで通勤道にしていた。少年時代を育った遠くの故郷と同じ匂いを感じ、好きな界隈である。この夕べのコンサートが裏街道を再生するきっかけになりはしないか。
裏通り、路地裏ではあるが、昭和時代の名残をとどめる〝町〟。改めて「昭和通り」と私は名付けたい。長く眠っていた裏街道が目覚めたようなコンサートだった。