「山の吊り橋」は、あの「あざみの歌」の横井弘の作詞。可憐さ、純情では二つの詞に違いを感じるが、牧歌的、自然おう歌ということでは共通性を感じる。
彼の詞にもう一つ変わり種「俺ゃ炭坑夫」がある。詞を見てみよう。
俺らはナー
生まれながらの炭坑夫
身上はつるはし一本さ
でかいこの世の炭坑を
掘って掘ってまた掘って……
俺らはナー
行くは地の底 真っ暗だ……
これは昭和32年の歌だが、まるで労働歌ではないか。歌謡曲としては異質だ。
異質と言えば、夏目漱石の作品に「坑夫」がある。一人の青年が不祥事を起こし、都会から逃げ、隠れ場を求め山深い鉱山に入る。が、結局、耐えきれずに山を下りるといった話。明治時代に生まれた中間階級、インテリ層の「個」の確立の不安定、アイデンティティーの危うさ、弱さを描いたとされる変わり種小説だ。
労働歌といえば、昭和の30年代は各地の民謡が盛んだった。これも労働歌だ。
そういえば、「俺ゃ炭坑夫」は三橋美智也が歌った。美智也は元々民謡歌手だった。
労働が歌になる時代があった。
今はどうだろうか。