気持ちが塞いで落ち着かない。こんな時、現代美術が余計に身にしみ、慰めてくれるーということで、長崎市に見に行った。

東古川町の「インディーズ・アートクラブ」。やっていた。それも展示作品が今の気持ちに最適の黒色主体のインスタレーションだ。まるで、私を待ってくれていたよう。

展示場は8畳の板の間。溶暗の電球が天井に張り巡らされ、板壁には墨黒に白い球体。なんだか葬送の場のようで不気味さを漂わせている。それでいて私を迎え入れてくれる。

これは、いったい? と近づいてみると、板壁には、白い潰れたボールのような円球が無数に描かれた墨黒の紙。天井には、これも真っ黒に塗られた木綿布が張り込まれ、さらに垂らされている。身をそばに寄せて行くと「船体」の底に居ることに気付く。う~ん、海の底か……。では、長崎だから龍か? いえいえ、そんなありきたりな観念なんかつまらない。説明書の世話になり、「蛸」と知る。それも巨大な。

白い割れた球体は吸盤でした。もう一度、天井下に身を置いてみる。なんとなんと、船底には、きりで明けたという小さな小さな穴が天空いっぱいに電球の明かりをチカチカと漏らしている。蛸が見上げた夜空の星座だ。やっと正解に到った。「蛸の悲しみと願い」ということか。私は蛸なのだ。

作家は長崎市在住の女子高生という。スゴイなあ。それも「初めての個展だからタイトルを付けるほどの作品ではない」と。紙がビニールのような光沢を発するのは最初に墨を塗り、後にペンキを重ねる手法によるらしい。立派な現代美術作家だ。

展示はきょう午後5時まで。