不動産鑑定評価では、最有効使用主義を取っているが、最有効使用と更地価格をセットで考えると不整合が生じやすい。
例えば近隣地域の類似の土地には3階建て、5課建て、7階建て等のマンションが混在しているが、オーナーはいずれも相場で更地を買っているはずだ。建築時期によって最有効使用建物の内容が変わることがあるのかもしれないが、建物階数がこれだけばらつく現象を上手く説明できない。
不動産鑑定評価基準の最有効使用の原則は法で認められた容積率限度まで建築するだけの需要のあるエリアについてのみ成り立つものであり、多少、需給の緩和された地域や地方都市では成立しないものである。
上記の例で言うと、最も高い7階建てを最有効使用とすれば、5階建てや3階建ての土地は建付減価が発生していることになる。
だが実際、これらの敷地相当価格は7階建てとそれほど変わらない価格で取引されているではないか。不動産鑑定士だって建付減価を5%とか10%程度しか行わないのは、社会的実態に合わせている証拠である。
7階建て、5階建て、3階建てのマンション敷地価格を地域の相場である坪50万円だったとしよう。
とすれば、7階建ての敷地は相対的に高い収益性で、3階建ては反対に低い収益性、5階建ては平均的ということになる。
だが原価法で求める土地価格はいずれも坪50万円なので、
・7階建てのマンション 積算価格<収益価格
・5階建てのマンション 積算価格≒収益価格
・3階建てのマンション 積算価格>収益価格
と考えられる。土地価格をいずれも同じにしてしまうと、試算価格の一致の仮定が崩れますね。
対処方法として、次のようにしてはどうだろうか?7階建てマンションについてのみ例示する。
建物存続期間は最有効使用を超過した利益が得られ、取り壊し後に更地に復帰するとする。原価法では当該期間に対応した建付増価を行い、敷地価格を更地価格よりも高く査定する。収益還元法については、永久還元とせず、有期還元で計算する。
1.従来のやり方
<原価法>
土地=坪50万円×100坪=5000万円
建物=坪85万円×210坪×残存20年/耐用40年×主体割合0.75=6700万円
(設備部分は耐用年数経過につき0とした)
積算価格=1億1700万円
<収益還元法>
・総収益=家賃単価@8000円/坪×有効率0.8×210坪×12月=16128千円
・収益価格=総収益16128×(1-経費0.40)÷還元利回り0.0679=1億4300万円。
*経費には通常の運営費の他、大規模修繕工事の積み立て分を見込んだ。
*還元利回り=土地4%×価格比0.4425+建物(4%+1/残存20年)×価格比0.5575=6.79%。実務上は取引利回りが使われるが、ここでは下記修正計算との整合性を取るために按分した。
7階建てマンションの試算値は収益価格の方が予想通り高くなった。
2.従来のやり方の修正
<原価法>
残存期間20年間につき、建付増価が発生しているので、建付増価により土地価格を修正する。
5階建てと比べた場合の複合純収益の増加分=総収益16128×(1-経費率0.40)×2フロア/7フロア=270万円。実際は築年数と共に家賃の低下、修繕費の増加により、純収益は減少していくので、最終的に1/3の90万円になり、期間平均値を180万円とする。
建物帰属純収益の内、純収益の増加分=積算価格6700万円×2フロア/7フロア×元利均等償還率7.36%(土地利回り4%、残存20年)=141万円
土地の純収益の増加分=複合純収益の増加分160-建物純収益の増加分141=19万円
土地価格の増加分=土地純収益の増加分19万円×複利年金現価率(4%、20年)13.59=258万円
5階建て敷地の土地価格=坪50万円×100坪=5000万円。建付増価率=258/5000=5.2%。なおここでは建物取り壊し費用を割愛する。
積算価格の修正
土地価格=更地5000+建付増価258=5258
建物価格=6700
積算価格=1億1958万円。
<収益還元法の修正>
今の複合純収益14112千円。これが耐用年数満了後に1/3になったとすると、4704千円・
期中平均値を複合純収益とすれば、9408千円
複合純収益(16128×0.6)千円×複利年金現価率(利率6.78%、20年)10.94+更地5000万円×複利現価率(6.78%、20年)0.258=1億1874万円。
<結論>
修正前は
積算価格 1億1700万円
収益価格 1億4300万円
修正後は
積算価格 1億1958万円(+258万円)
収益価格 1億1874万円(-2426万円)
試算値の開差は2600万円から84万円と3%になった。各種の仮定、見積もりにより数字に曖昧さがあるものの、収益価格の過剰評価と積算価格の過少評価が修正されたことが分かる。