陸上の運輸業者といっても色々な種類がある。郵便、宅配便、バス、タクシー、トラック輸送などだ。
施設の仕様は各用途によって異なる為、運輸業営業所といっても代替性は小さい。即ち、特定事業用不動産の特徴を持つということだ。
それに企業の事業内容の差もあるだろう。例を挙げてみよう。
A社は老人ホーム・工場・幼稚園の送迎バス事業とタクシー事業を行っている。本社社屋、バスとタクシーの車庫、整備工場から成っている。
B社は郊外のタクシー営業所である。こちらはタクシー専門であり、事務所棟と車庫の2棟しかない。整備工場が付いていないのは自社の他施設を利用しているからであろう。
このような例を見ると、同業者が買収しようとしても制約条件があることが分かる。A社の場合は、単独事業には中途半端な施設だし、B社の場合は、他施設を利用できる企業でないと整備に支障をきたす。
事業が順調なら問題は出ないが、商況不振になり、不動産の売却が必要となった時に中々売れないのはこのような事情があるからだ。事業譲渡のように施設、従業員ごと売るならよいかもしれないが、施設のみを売るとなると、他社にとって使い道がない。その場合、建物を壊し、更地として売却することになる。
もう一つの特徴として敷地の位置の問題がある。住宅街に囲まれた場所に営業所があれば、夜間の車の出入りやエンジン音で苦情が入り、移転を余儀なくされる可能性がある。
だから居住環境に配慮していない施設は仮に黒字であっても事業が成立しなくなるリスクを抱えている。
勿論、ある程度改善することは可能である。例えば操業時間を短縮したり、トラックの空ぶかしを禁止したり、防音板を付けたりなど。それらに伴うコスト又は投資金額を計上したり、売上減少を見込んだりすれば、施設の価値を計算できる。
だが構造的にどうにもならない場合もあるので、その時は最悪、取り壊し前提の更地価格の価値しかなくなる。
騒音問題は住民の特性によって受け止め方が異なる。昔からの住工混在地域だと住民は比較的そこで事業を行っている人に対して寛容だが、新住民が増えてくると只の騒音にしか感じなかったりする。鈴虫の鳴き声を風情があると思うか、うるさいだけと思うかの違いと似ている。
他人への寛容さが失われている現代においては、騒音を放置すると深刻な問題を引き起こしやすく、用途混在地域を避けた方が良いだろう。
現在営業している施設は建築された時とは実情が異なってしまい、最有効使用ではなくなってしまっていることが多い。
Cタクシー営業所を例にとってみよう。こちらは築10年以内と新しい郊外の準幹線沿いの営業所だ。隣に大きな病院が建っている。タクシー営業所と病院とは相性が良いとは思えないが、両立している。
それは両者の敷地が広く、騒音の問題が出ないからであろう。病院はタクシー営業所に遅れて進出してきたので、騒音が心配ならそこに建築しないはずだ。
タクシー自体、荷下ろしの待ちのために路上で空ぶかしをするトラックと違い、騒音が小さいだろうし、入庫及び出庫時間がほぼ決まっていて、それ以外の時間は静かなので、病院と相性が悪い訳ではない。問題が出るとすれば、車の出入りの時に交通事故を起こすリスクだが、広幅員の道路沿いにあるため、その点も問題はない。