リリー・フランキーさんが別府で語ったこと | 東京夜時

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宇都宮秀男によるコラム。月木更新。

第3回BEPPUブルーバード映画祭が開催された。

映画ライター森田真帆さんが今年も頑張って、
岡村照(おかむらてる)館長を盛り立てながら開催した。

白石和彌監督とリリー・フランキーさんの対談を覗いてみた。

リリーさんは「東京タワー」でも書いていたが、
15才の頃に越境入学で別府に1人住んでいたらしい。

ブルーバードで「地獄の黙示録」を観ていたというから驚きだ。
15才の頃にポン引きのばあちゃんに誘われたが、
前夜久しぶりに別府の夜を散歩したら、
また同じようなポン引きのばあちゃんに誘われたらしい。

「あれ、たぶん、同じばあちゃんだと思う」と会場を沸かせていた。

別府は温泉も有名だが、近代文化産業遺産に認定されている
古き良き竹瓦温泉の周りには風俗店がいっぱいある。
カオスな世界観を受容するのがこの別府という町なのだ。

「別府という町、僕は好きですよ」

その言葉が嬉しかった。

彼が大分の高校に通いはじめた頃、
別府駅前通りを過ぎたところの北浜公園で好きな人に告白した。
駅前通りをララランドのように踊りながら歩いたと言ってた。
「周りにいるみんなが全員エキストラに見えた」って。
素敵じゃない。お相手がモルモン教徒の方で
一夏の恋で終わったということらしいが。

別府に住む多くの高校生にとってデートスポットは駅前一択である。僕もかつてそうだった。

別府タワーはいろんな人の恋を見届けてきたのだ。


(コスモピア駐車場からみた別府タワー)

「別府の混浴行ったことあります?」と司会の真帆さんにふられると、
リリーさんはすぐに湯布院でマガジンハウスの編集長と行った思い出を話した。

「混浴と思って入ってたら実は女湯だった。
 なんのまじりっ気もなしに女湯に入ると、
 女性も「私たちが間違ってるのかな」という雰囲気になる。
 その後、ちゃんと混浴に行ったらおっさんしかいなかった」
と答え会場を沸かせる。

頭の回転の速さに舌を巻くが、
キャッチーなつかみの笑いと1つの教訓めいたものを言ったあと、
最後にまた笑いで話をまとめるのが
リリーさんのスタイルなんだと途中で気づいた。

そして途中でリリーさんが真木よう子さんをサプライズで呼んだり、
すごくお客さんに気を遣う人なんだなと思った。
「足を運んでくれた人を楽しませたい」という真摯さを垣間見た。

       ✳︎



岡村照館長は今年で米寿を迎える。

昭和24年に創業された老舗の映画館。
岡村照館長のお父様が「子供にいい映画を観せたい」との思いから生まれた。

新しく改装して旦那さんと切り盛りを始めて
その10ヶ月後に心不全で旦那さんに先立たれた。
以来、1人でこの映画を切り盛りしてきた。
そのことを踏まえたうえでリリーさんが

「その事実がもう映画よりも何よりも映画ですよ」

と言って館長に惜しみない拍手が送られた。

主催の森田真帆さんや照館長とは以前、
音楽家の佐藤礼央くんと一緒に飲んだことある。
2人とも本当に裏表のない気さくな雰囲気だった。
人柄に人が集まるのだと思った。

映画祭は多くの観客で賑わっていた。
いつも僕が行くと、ほとんどが貸し切り状態で、
10分遅れようものなら、照館長が10分遅れで映画を流しだすくらいの映画館だ。
「ここまで人がきたのは渥美清が別府に来た時以来」らしい。

誰かが長い間、丁寧に静かに紡いできたことが
こうして陽の目を浴びるということが素敵だと思った。
自分からアピールするのではない。
周りが照らしてくれるのだ。