いやらしいって、美しい。 | 東京夜時

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宇都宮秀男によるコラム。月木更新。

午後にみなとみらいで人と会う約束があり、
少し早めについたので横浜美術館にふらり訪れてみた。

ヌード(NUDE)展というものをやっていた。
このNUDEという4文字の英語表記を並列するあたりが、
実にいやらしさを包み隠していて、いやしい感じがした。

おそらく美術館のスタッフが「ヌード展」の宣伝ポスターをつくったとき、
「ちょっといやらしい感じがするのでNUDEもつけときます?」
「そうだね、いやらしさが緩和されるね」
という、いやしい会話がなされたに違いない。

いやしいより、いやらしいほうがぼくは好きだ。



そして、そのいやらしさを惜しげもなく表現していたのが、
オーギュスト・ロダンの『接吻』という彫刻だった。

ロダンは理想的な男女の体型を彫ったらしいが、
19世紀における理想的な男性体型をみた後、
21世紀を生きる自分の贅肉をみて落ち込んだ。

そしてロダンは接吻という一瞬の「刹那」を、
大理石像という「永続性」に込めたらしい。
なんというナチュラルパラドクス的発想なのだ。

まさかの写真撮影OKという気前の良さに、
美術館に対する猜疑心は、惜しみない感謝の念に変わった。
人間なんてそんなものだ。

      *

夜、下北沢の古書屋「ビビビ」にて、
世田谷ピンポンズのLIVEが行われたので観に行った。



以前、この店内で世田谷ピンポンズの曲が流れていて、
思わず気になりCDを手に取ってみた。
まさかの「トロワシャンブル」という15年来通い詰めている
行きつけの喫茶店の名前が曲名になっており、
「ジャケ買い」ならぬ「曲名買い」というものを初めてやった。

そして今日はじめて彼の多くの曲に触れたのだが、
どれも粒ぞろいによくて、ライブは最高に良かった。

1つ1つの曲が肩肘張ってなくて、青臭くもなくて。
正直トロワシャンブルより、もう1つの喫茶店の曲のほうが好きだったが、
自分と同じように、下北と三茶をつなぐその道に
「東京」を見出していた彼の音楽は僕の心の深いところをくすぐった。

「ああ、いつかこの人と一緒に仕事をするときに、
 恥ずかしくない自分でいたい」って思った。
するかどうかもわからないけど。

1曲ごとに自虐と自惚れを往来するような軽妙なMCトークが繰り広げられ、
会場では1曲ごとに笑いが起きていた。ご多聞にもれず僕も笑った。

「僕はもう完成しているんで、
 あと僕が売れるかどうかは皆さん次第なんですよね」

と最後に世田谷ピンポンズが言ってて、みんな笑ってた。
いやらしいって、美しいなって思った。