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スティーブン・ジェラード【写真:Getty Images】 |
まさしく「男泣き」。90分の激闘を終えたアンフィールドのピッチでは、涙を流すスティーブン・ジェラードを仲間たちが囲んでいた。
地元マージーサイド州のウィストンに生まれ、9歳からリバプールのアカデミーで育ったジェラード。かつては血の気が多く、ピッチ内では良くも悪くも“暴れん坊”として猛威を振るっていたが、03-04シーズンに23歳にしてキャプテンに就任。それ以降は精神面での急成長を見せ、世界最高の「ボックス・トゥ・ボックス」と言われるまでになった。
05-06シーズンには、サッカー史に残る大逆転劇でACミランを下し欧州制覇。イングランド代表でもキャプテンを務め109試合に出場し21得点を記録。PFA年間最優秀若手選手賞、PFA年間最優秀選手賞、FWA年間最優秀選手賞、UEFA年間最優秀選手賞と、多くの個人タイトルも手にして来た。
「若きキャプテン」も理想的なキャリアを積みながら33歳というベテランの領域に入ったが、唯一足りなかったのはプレミアリーグのタイトル。それでも、強力かつ個性的な仲間を得た今シーズンは、ついに手の届くところまで来たのだ。
優勝を争う直接のライバル、マンチェスター・シティをホームに迎えた一戦。19歳のラヒーム・スターリングが前半6分に先制点を挙げ、21歳のコウチーニョが決勝点を決め、同じく21歳のジョン・フラナガンが左サイドで奮闘する。
才能に溢れる若者たちが最強の敵を打ち負かしたが、その中心にいたのはジェラードだった。事実、オプタ社による攻撃、守備、ポゼッションでの貢献度を示すパフォーマンス・スコアでは、両チームトップの63点を記録。
得点を挙げたスターリングの35点、シュクルテルの43点、コウチーニョの57点よりも高いスコアとなった。特にディフェンス・スコアが40点を記録するなど守備での貢献が目立っていた。
かつてはトップ下で起用されていた時期もあるように攻撃面での能力が際立っていたが、今シーズン途中からは中盤の底で起用。もともと守備面でも高い能力を持っていたが、長いキャリアによって培われた老練なプレーも相まってより守備での貢献度を高めている。
そして、何よりも感服すべきなのは、守備での貢献度も高めながら08-09シーズン以来の2ケタ得点となる13得点を決め、アシストでも11を記録するなど攻撃力も衰えていないということだ。
そういう意味では33歳となった今シーズン、ジェラードはキャリア最高のパフォーマンスを見せていると言って良いだろう。
41歳の青年監督であるブレンダン・ロジャースの就任2季目、リバプールは理想的なチーム造りに成功した。
シティ戦ではGKに26歳のミニョレ、DFラインには21歳のフラナガン、24歳のサコー、29歳のシュクルテルとジョンソン、中盤に21歳のコウチーニョと24歳のヘンダーソン、3トップには19歳のスターリング、24歳のスターリッジ、27歳のスアレスが先発。そしてこのチームを中央でまとめるのは33歳のジェラードだ。
まさに若手と中堅、ベテランが融合するチームとなった。開幕5戦未勝利でスタートし7位に終わった昨シーズンだが、それでもリバプールはロジャース監督を信頼し続けた。
チームに変化をもたらす最も簡単な手段は監督の交代と言われる昨今のサッカー界では珍しい例と言えるだろう。明確な目標と計画を持ち、結果よりも内容を見極めたクラブの判断は正解だった。
華麗なパスワークによる美しい攻撃を哲学とし、カリスマ性を感じさせる青年監督に、才能溢れる若手たち、世界最高のストライカー、そしてクラブにキャリアのすべてを捧げるキャプテンがいるリバプール。これほどに魅力的なクラブは他には見あたらないだろう。
このシティ戦の勝利で89-90シーズン以来のリーグ優勝に大きく近づいた。それでも残り4試合、残留を争うノリッチやクリスタル・パレスとのアウェー戦は簡単な試合にはならないだろう。そしてその間にある第36節ではチェルシーとの対戦も控えている。
ここまで全試合に先発していたジョーダン・ヘンダーソンが終了間際に一発退場を食らったのは痛い。3試合の出場停止となればチェルシー戦にも出場出来なくなってしまう。
しかし、それでもジェラードを信じたい。5月11日の最終節、「THIS IS ANFIELD」のプレートに触れ、ニューカッスルを相手にピッチで激闘を繰り広げ、「You’ll never walk alone」の合唱とともにプレミアリーグのトロフィーを掲げているはずだと。
そして再びあの「男泣き」を見せてもらいたい。最高の仲間に囲まれた世界一カッコいい男の涙を。
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