2013.6.29<その2>

 


 

 

劇団阿彌主宰 岡村洋次郎:以下、岡村

ラナースグループ主宰、演出家 フィリップ・ザリリ:以下、Z

           劇作家 ケイティ・オライリー:以下:K

 

 


 

 

ラナース・グループのメソッドについて

 

岡村:(台本のなかにある)脊髄を通して相手を感じるとは?

どのような訓練をしているのでしょうか?

 

Z:これはWSのときに実際に体験してもらいます。

  体現化された意識、と言えばいいのでしょうか、体全体に目を付けるという

  感じです。

  例えば、「耳を大きくする」、というより「耳に目を付ける」という意識の仕方をしています。

 

岡村:阿彌では「みないでみている」、という視覚の取り方をしています。ですが、視野の中に相手が入らないと相手を感じるのは難しいですよね。

 

Z:武術では360度敵を敏感に感知するのでそこからとっています。

  やらせるよりも環境を作るような感じです。

 

 


 

 

④「Told by the Wind」の創作過程について

Z:西洋の演劇は今、リアリズムではないポストドラマが主流です。

今まで強かったリアリズムがやっと壊れてきてポストドラマと対等になり、盛んになってきています。

Toldの台本も物語がない、キャラクターではなくフィギア、テキストでなくスコア(楽譜)という演劇的でない言葉をわざと使っているようにこれは今までの伝統的なドラマではありません。


 

岡村:今の日本では言葉を前提として成立している演劇はまだ確立していないのではないかと思います。日本の前衛は言葉が先にあるのではなく、パフォーマンス=体のアクションでの即興的なパフォーマンスという色合いが強いように見受けられます。

   その点、能は言葉と体を両方もっていると言えますね。

Toldは言葉が根底にあるので興味深いです。


 

Z:Toldは先に台本を書いたわけではありません。

 

  サイコフィジカル(心と体)トレーニング、(これは二元論打破の方法として2つをくっつけたのですが)を行ったり、お能の台本やイェイツのテキストをと私とダンサーの3人一緒に声に出して読んだりして、浮上してきたイメージを表現化していきます。そこからいらないものを振り落していき、そぎ落としていく作業を行うのです。

  

  例えば野々宮からとったいくつかのイメージをつなぎ合わせますが、「境界」

  などの言葉を使って、一連のイメージを動きにしていきます。

四角(結界)の中に入ってワイシャツを掘り出す、能の運びと似たようなすり足歩きをする――を実際に行う際、向かっていく足を感じる、背中の意識を広げる、立ち止まって周りに耳を開いていくなど感覚に刺激を与えていく指示を出していきます。この作業を「コーチング」といいます。

 

岡村:結界の中にシャツがあるというイメージは最初からあるのでしうか?

 

Z:一番最初にあるイメージは結界で、そこから「何か」が埋まっている、「何か」を掘り出すと段階的にしていきます。ですので具体的なイメージ(シャツ)が出てくるのはずっと先になります。


 

  結界に向かっていく→何かを掘り出す→布を掘り出す→私が着ているものと同じシャツを掘り出す、という一連の流れにケイティ(劇作家)が言葉を与えていくという長い作業を経ているのです。


 

この段階を経るにはシャツ=誰かが着ているものだという意識はなく、ただのモノとしての関係において深い物語性は作らず、役者の自由にさせています。


 

岡村:それはジョー(ダンサー)さんの無意識が出てきているのでしょうか?

 

Z:彼女には触覚を使って何を取り出すか、

  手の感覚を使ってモノとの関係性を作り出していく、連想させていくということを演出家としては指示しています。


 

岡村:無意識に落ちてしまうと演技できない状態になってしまいかねないので、ちょうどいいバランスでやってらっしゃるのでしょうね。


 

Z:そうですね。あまりにも無意識の世界、個人的な思い出(トラウマ)が浮上してしまうと役者の仕事ができなくなるので毎回タスクを与えて水面下に落ちないようにしています。

 

  ケイティーは最初から稽古場の様子をみており、蓄積していくイメージと動き

  に反応してシーンを書いていきます。「死んだ鳥を見る」シーンなどは自発的   

  に彼女が書いたものです。

私が中に入り込んでいき、ケイティーがそれを外からみて構成するという形で

すね。

 

すべてスタジオのリハーサルの中から編み出されたもので、ダンスはジョーが

担当していますので3人での共同制作的な側面があります。

Toldの制作期間は約6~7週間ですが、これ以外にもゆっくり時間をとりなが

ら作っていきました。