怒り
久々の投稿。昨日公開された「怒り」を観ました。以下、結末のネタバレ含みます。「悪人」の李監督作品とあり、予告からかなりの期待値上げてしまった映画だったけれど…どしーんと来た。そもそも出演した俳優が何人も、「実はあのシーンの記憶ないんです」っつってんだもの。どんだけの熱量だ。でもさすが、ものの見事に期待値を上回ってくれた。あっという間の2時間半。物語は、千葉、東京、沖縄に指名手配中の殺人犯によく似た男が現れる、という三重構成。そこをうまーく、ピエール瀧さん扮する警官達の現場が束ねていく。まずすごいのは、三人全員犯人に見える。顔の特徴。時折現れる犯人の後姿。危うい目つき。「こいつだ!」「いや、こいつじゃねえか?」「いやいや、こいつかも」え!誰?!誰なの!?て、見事に最後まで引っ張って行ってくれる。そしてどの人物にも信ぴょう性がある。どの役者も揃いも揃って芸達者だし。最終的に誰でもないってオチなのでは……と思いきや、案外あっさり犯人がいた。この誰でもありそうな信ぴょう性の裏側、実は作者の吉田さん自身が犯人決めずに書き進めていたらしく、そらー観てる方もわからんわ!と驚愕した。結果的には田中であったことの理由はちゃんとあるのだろうけど。しかし、作者自身も先を決めずに書く、というのはこういう時に有効なんだなあと感じた。ある程度誰が犯人かわかっていたら、無意識的にそういう方向にもっていくように書いてしまうものね。きっと。伏線の矛盾が出る等のリスクはあるんだろーけれど。テーマは「怒り」という観念。時々、社会でも日常生活でも、「何故そんなことで?」と周囲が目と耳を疑うような陰惨な事件や出来事が起こるけれど、周囲はその最後の表出された部分を見るだけで、当事者の中にはおそらくその爆発に至るまでに長きにわたって「怒り」という化け物が成長していく。その深く深くから増長した「怒り」は、誰とも共有し合えないものなのかもしれない。どんなに説明しようとも、本質的には他者には丸ごと理解してもらえない。だからこそ孤独に、肥大化していく。泉(広瀬すずちゃん(の「泣いたってわめいたって、誰にも理解してもらえない」という叫び(予告でめちゃくちゃ流れる)や、すずちゃんの事件後の、辰哉君の「人には伝わらないから」という言葉通り。「ムカつくよねえ!」で表出しきれない、根の深い「怒り」とは、誰とも共有し合えない化け物であり、ある種のエネルギーなのかも。田中はその怒りで、ある面自分を保っていたのかもしれない。それがあの事件の時に噴出されてしまった。もちろん田中のやったことは許されることじゃないけど。けど「怒り」が共有はし合えなくても、「他者が自分を信じてくれる」っていうのが、その化け物を静める可能性はある。だから最後の方で田中が辰哉に「お前の見方だよ」って言ったのは本心なんだろう。客の鞄を投げ、最後の台所を荒らし、壁文字に書いたのはおそらく自分への「怒り」だ。森山未來も言ってたけど。「信じる」ことで、自分のモンスターを一時でも静めてくれた泉に何も出来なかった自分への怒り。憤り。そして共有はしあえなくとも、愛子のように「受け止めようとする」ことで救うことも、同じ「怒り」で返して戦おうとすることも出来る。辰哉の最後の行動はあまりに哀しいけど。それが唯一怒りを抱えた周囲の人間に出来ることなのかな。しかし、広瀬すず。すごかったよ。正直「ここも広瀬すずなのかあ」感があったけど、彼女は全力でやろうとしてると思った。もう事件のシーンは観るのも辛かったもの。それと森山未來。泉に「田中さん!」と呼ばれて、反応せずに歩く表情、秀逸だった。あの感じでこいつなんかおかしい、と思わせる。そんで最後の涙。善と悪の行ったり来たりが見事に表現されてた。さすがだ。さすがイスラエルのダンス旅帰りだ。関係ないか。あと音楽。さすが坂本龍一。もうね、心のひだに触れる触れる!怒りと、哀しさと、希望が入り混じった素晴らしい音楽だった。長くなったけど、良い映画観ました。