鍼灸院の施術料金は数千円から数万円と幅広いが、実際にいくつもの鍼灸院を行脚した患者達の話を聞くと、治療効果と施術料金の相関関係は皆無に等しいことがわかる。1回2万円を超えたあたりで評価が明確に分かれ有効派と無効派の対立が目立つ。だが「高額=効果が高い」という患者の思い込みは未だ根強い。

 

メディアやSNS、YouTubeなどでの露出が多い、怪しげな鍼灸師らによる施術が1回数万円であっても、多くの患者は「きっと効果が高いはずだ」などと勝手に思い込み、その鍼灸師の施術を受けてみたものの、結果的には全く効果がみられなかったばかりか、刺鍼事故によって臓器を損傷した、という話も少なくない。

 

一般的にどの業種においても、サービスが良く、技術力の高い店舗は、その良さが口コミで広まり、自然と繁盛するものである。

 

実際、口コミなどで良い評判の多い店舗は、毎日の業務をこなすだけで手一杯で、芸能人や所謂インフルエンサーなどを使って、大々的かつ定期的に宣伝を打つヒマも必要性もない。特に動画編集に膨大な時間を費やすYouTubeなどは、時間がなくて手を付けられない。

 

もちろん、一概には断言できないが、評判の悪い店舗は資金の大半を定期的に広告宣伝費として投入しているケースが多く、ウェブ上でヤラセの口コミを増やし、真の姿を隠しながら、情弱の一見さんばかりを集め続けなければ、経営を維持できないのかもしれない。

 

鍼灸に関して言えば、一般的に、訪問施術や講習会、セミナー、講演などを主とした鍼灸院は技術力が低く、評判があまり良くないことが多い。

 

なぜなら、鍼灸師は免許取得後に開業しても、当初は患者が集まらないため、自ら営業をかけて患者宅へ定期的に訪問して施術をしたり、同業者を集めて講習会やセミナーを開催したり、鍼灸の専門家を装って講演などをしなければ、鍼灸院の経営を維持できないケースが非常に多いからである。

 

歯科医院と同様、鍼灸院もサービスと技術力が高く評判が良ければ、開業して1~2年もすれば経営が軌道に乗り、数年経つと患者があふれるようになる。だが、サービスも技術力も一向に向上しなければ、経営維持のために訪問施術や講習会開催、その他の副業を止めることができず、開業から何年経とうとも、臨床における実践性や専門性が高まらず、患者からの良い評判が集まることはない。それゆえ、「メディアに多数出演!」とか、「臨床経験20年!」とか、「これまで100万人治療した!」などの宣伝文句は、その鍼灸師の真の評判を示すものとは限らない。むしろ、このような文言は、その鍼灸師自身の程度の低さを露呈させているケースが少なくない。

 

結果的に、患者1人の単価をべらぼうに高くして、来院者数が少なくても稼げるようにするケースも珍しくない。

 

一方で、薄利多売的に競争店よりも大幅に料金を下げ、低価格帯を好む患者層を意図的に集めているケースもある。

 

したがって、鍼灸院においては、ウェブ上の口コミや、メディアでの知名度、料金の高低などから、そのサービスや技術力の高さを判断することは不可能に等しい。

 

もちろん、鍼灸は技術職であるから、毎日絶え間なく精進して技術が向上したのであれば、その技術に見合った分だけ料金は上げるべきだし、所謂名人や達人が適切に料金を上げれば後進のやる気を促し、結果的に多くの鍼灸師が経済的豊かさを享受し業界全体が負の循環から抜け出せる可能性がある。

 

上述したとおり、日本鍼灸界においては、その技量に見合わぬ料金設定が患者を混乱させている現状がある。本来はその技術レベルに応じた料金設定ができるような客観的評価が必要だが、結局、料金は毎月の固定費や鍼灸師本人の主観によるところが大きいから、患者が料金を見ただけでその技量を判断することは不可能に等しい。

 

かと言って、長年試行錯誤を繰り返し、苦労して積み上げてきた技術を安売りしてしまえば、消費者は安さに釣られ技術の価値を適切に判断できない様になる。結果的に、技術者は経済的にも精神的にも疲弊して、ベストな状態で良い技術を安定供給できなくなり、安かろう悪かろうで業界全体の質が低下するようになる。

 

日本鍼灸界の最大の問題点は、開業しても患者が一向に集まらぬがために、技術のない輩が講習会等を主な収入源としてしまう点である。実際、左様な輩の指導を受けた鍼灸師に高度な技術が身につくはずもなく、最終的にはみな講習会を主催して、鼠講の如く低レベルな指導者が増え続けるという、負の連鎖に至ることになる。