その場所とは、静岡県長泉町にあるクレマチスの丘・ヴァンジ彫刻庭園美術館です。
残念なことに、オープンから20年が経った昨年12月末より休館に入り、今年2023年9月末にて閉館となっています。
最初に訪れたきっかけは、コロナ禍の気分転換ドライブ、お花巡りの行き先を探していた時に、ネットで見つけたことが始まりです。クレマチスの花にも興味がありました。
さほど大きな期待感はなかったのですが、足を踏み入れてみたら、そこは実に素晴らしく洗練された、自然と人に優しい、とても素敵な美術館と庭園だったのです。
私も夫も、ジュリアーノ・ヴァンジについては何も知らずに、作品を鑑賞しました。
その後、何度か訪れる間に、ウクライナ戦争が勃発し、世界がきな臭い空気に包まれると、このヴァンジの作品が、現代に生きる人間の心を現しているかのように感じました。
人間の悲しい業、得体の知れない深い闇が、ヴァンジ作品から伝わってくるようです。
このような世界に光はあるのだろうか?…
ヴァンジはどう応えているのでしょうか。
美術館から一歩外に出ると、そこは打って変わり、青い空が広がる美しい庭園。
緑の芝の絨毯、スミレの花、色とりどりのクレマチスの花、風に揺れる木の葉、風に落ちる花弁、春には桜、秋にはバラが咲き誇り、その傍で手入れをする女性たちの爽やかな会釈とお花のご説明…
なんともゆったりとした時間が流れ、穏やかな散歩のひと時に心が癒されます。
私が最後に訪れたのは、2022年の夏。
今の子供たち、若い人たちは、ヴァンジ作品に共感し、それぞれの答えが見つかるのではないかしら…
そのようなことを思いながら、園内を歩きました。
そうこうしているうちに、休館になってしまい、現在は閉館中です。
コロナ禍により来館者が激減、エネルギーの高騰などで負担は増し、経営を圧迫したことが大きな要因であると察します。
それ以外は、ヴァンジ作品、庭園の樹木と花々、建物&インテリア、ショップの品々、レストラン、スッタフさん、それぞれの働きぶりなど、何もかも含めて、このヴァンジ庭園美術館は調和がとれているように見えます。
来館者・来園者のことを第一に考えて創られており、プロデュース力は高いです。
それゆえに、たくさんの来館者・来園者が癒され、楽しめるのでしょう。
ここには、お金には変えられない価値があります(文化財としての価値は高い)。
前向きに見れば、この庭園美術館の未来は明るい。
たとえ所有者という「箱」が変わったとしても、中身の宝物は変わらない。
文化財として価値は守られ、新たな喜びをもたらしてくれるはず。
静岡県長泉町に、ヴァンジ彫刻庭園美術館に、もっと大勢の人がやってくる日はそう遠くはないと思う。
オープンから20年、二十歳になってちょっとひと休み、
そして、再開という晴れの日を、私は楽しみに、心待ちにしています
また会いにくるわね。
末筆になりますが、一ファンとして感じた、このクレマチスの丘・ヴァンジ彫刻庭園美術館の魅力を補足いたします。
この美術館では、ヴァンジの作品展示だけではなく、企画展、子供たち向けのワークショップ、講演会などの教育の普及活動、視覚障害者にも優しい取り組みなどを行なっています。
クレマチスの丘フアンには嬉しい、一年間フリーパスのメンバーズ制度があります。
美術館・庭園ともに、女性スッタフさんたちがご活躍されており、女性らしい優しさが至る所で感じられます。
(皆さん私服で働いておられ、庭のスタッフさんはショートエプロン姿で可愛いです)
お花農家らしき男性がフラワーショップの花苗を観ていたり、運営に係るスタッフさんの姿からも、植物への愛情と思いやりが隅々に感じられます。
美術館の表にある長泉町の大通りでは、女性スタッフさんが歩道を大きな竹箒(たけぼうき)で掃いていたり、町の農家のおばあさん方が、植え込みのお花を静かにお手入れしている姿をお見かけします。
(来園者がいる時間帯に騒音を出さない気遣いが感じられます)
クレマチスの丘は、ゆったりとした空間で、長泉町の人の穏やかさ、植物への愛情が感じられ、ホッコリと優しい気分になります。都会にはない自然な時間の流れです。
併設のお店、NOHARA BOOKS、ブティッククレマチス、フラワーショップは、個性ある独自のおしゃれ感満載です。
日本食レストラン「テッセン」の窓辺には、桜、クレマチス、青葉、紅葉と、四季折々の風景が広がり、五感が満足する日本料理を味わえます。食が満たされる美術館はめずらしい。
「ピッツェリア&トラットリア CIAO CIAO(チャオチャオ)」は、店内はカジュアルでも、お料理は本格的な南イタリア料理で、ピザ、パスタ、アラカルトも、どれも地産の食材を使用し、新鮮で美味しく、ここの食事目当てに出向いたこともあるほど気に入っています。
「テッセン」から観える庭園の桜とクレマチス
フラワーショップには、グリーン、クレマチスの苗、可愛い置物やフラワーベースが並んでいます
また夫と一緒に ヴァンジ彫刻庭園美術館に行ける日を楽しみに!
See you soon
次回は、併設レストランの写真をアップいたします♪
『ヴァンジ彫刻庭園美術館は、イタリアの現代具象彫刻家ジュリアーノ・ヴァンジの、世界で唯一の個人美術館として、2002年4月28日、富士山に連なる愛鷹山麓の中腹にあるこの地に開館しました。1960年代から最近までのヴァンジの彫刻を常設コレクションとし、それらが展示棟並びに庭園のなかで風景と調和しながら点在しています。四季折々のクレマチスの花をお楽しみいただけるガーデン、現代の作家による企画展、各種文化的イベントなど、芸術表現の時代を超えた普遍性を縦軸に、移り変わる同時代性を横軸に、織りなされた複合的な文化空間となっています。』クレマチスの丘HPより抜粋
『ジュリアーノ・ヴァンジは、現代イタリアを代表する具象彫刻の巨匠です。1931年フィレンツェ近郊のバルベリーノ・ディ・ムジェロに生まれ、フィレンツェで学びました。ルネサンス以来の人間表現の伝統から逃れるため、1959年からブラジルにわたりますが、三年後イタリアに戻り、以来一貫して、人間の感情の複雑さを具体的なかたちによってあらわす、彼独自の彫刻の探求に専心します。1967年のストロッツィ宮殿の個展では、近代社会の人間が抱える閉塞感を鋭く表現し、同時代の人々の共感と喝采を得ました。
以後、イタリア国内で好評を博したヴァンジは、ヨーロッパのみならず日本やアメリカでも発表を重ねます。
2000年前後には、教会からの宗教彫刻の依頼が相次ぎ、2002年には高松宮殿下記念世界文化賞を受賞します。ヴァンジは、マルティーニ、マリーニ、マンズーといった戦後イタリア具象彫刻の流れの先端に位置する巨星といわれています。象嵌細工や色大理石など伝統的な技法を、現代の考えで蘇らせ、移ろいゆく時代のなかで変わるものと変わらぬものを見極め、自らのテーマとして取り入れてきました。当館では、文字通り彫刻に捧げられた、1965年から2009年までの、ひとりの彫刻家の歩みをご覧いただくことができます。』クレマチスの丘HPより抜粋
なお、建築設計は、京都大学の宗本順三氏とのことです。