今回は音楽の理論的な話になります。
もうだいぶ前にこの記事を書きました。↓
恐らく検索でHitしたのでしょうが、↑の記事へのアクセスが今でもほぼ毎日あり、一日に複数回アクセスがある日も珍しくなく、理論的な話に興味のある方もいらっしゃるんだなと思い、今回の記事を書く事にしました。
もし興味があれば、先ほどの過去記事と共に読んでやってください。
なお、理論は先人達が発見した事や気が付いた事を体系的にまとめた物だと思います。
だからと言って私達が100%理論通りに演奏する必要は無く、それは難しい事でもあります。
また時には理論から外れた音が素晴らしかったりします。
理論はあくまでも理論として読んで頂けたらと思います。
まずこの絵をご覧ください。
緑丸はソ、赤丸はシ、青丸はレで、ソシレの和音、ギターコードで言うところのGコードになります。
まずはこれをベースに話しをします。
メジャーコードは、根音、長三度、完全五度の3つの音が基本になりますが、上の絵で言いますと、緑丸のソが根音、赤丸のシが長三度、青丸のレが完全五度になります。
純正に調和する(ハモる)完全五度の音高差は約702セント(1セントは平均律の半音の1/100)なのですが、平均律では色々と不都合があり、700セントにして調律されます。
純正五度と僅か2セントの差ですから、人間の耳にはほぼ調和するように聴こえ、これはそれほど問題ではないのですが、問題は長三度です。
上の図で言いますと、ソシレの和音を弾いた時、ソとレは完全五度の関係なのでほぼ調和しますが、長三度のシが調和せずうねり(濁り)が出てしまうんです。
これは、平均律の長三度の音高差が大きいためですが、ではもし、ピアノのチューニングをギターのように自由に変えられるとして、ソの音をだんだんと高くしてシと同時に鳴らしたらどうでしょう?
そうしますとうねりがだんだんと小さくなり、14セントほど高くした時点でソとシは綺麗に調和します。
ところがそれでは今度はソとレが調和せず、うねりが出て濁ります。
しかも、ソはドとも調和するはずなのに、それすらも調和しなくなります。
では今度は、ソは元に戻し、シを14セント下げたらどうでしょう?
その場合、ソとシはもちろん、レも調和し、純正に調和するソシレの和音ができます。やったー!それでいいじゃん?
・・・と思われるかもしれませんが、では、調律師さんはなぜそのように調律しないのでしょうか?
実はそこには大きな落とし穴が2つあるんです。
まず、先ほどの純正に調和するいわゆる純正律で調律をしたとして、例えばその曲がGコードで始まるト長調の曲だったとします。
ト長調でそれぞれの和音が調和するように純正律で調律したとしても、他の調では和音が調和しないんです。
つまり、転調にも対応できないって事になります。
調によっていちいち調律を変えるだなんて、特にピアノの場合は現実的ではなく、転調に対応できないとなると尚更非現実的ですよね。
この時点で純正律での調律はあり得ないことになりますが、さらにもう一つ大きな落とし穴があり、純正律で調律した場合、上記の通り和音は綺麗に調和するのですが、メロディーを弾くとなんとも冴えない感じになるんです。
メロディーに限定すれば、長三度は逆に高目に取った方が綺麗なんです。
理論値では平均律より2セントほど高目で、それがバイオリンなどの弦楽器奏者や歌の上手な人が使う、いわゆるピタゴラス音律になるのですが、実際には2セント以上高く音程を取る人が多いです。
その方がメロディーが華やかになります。
ちなみに、短調の時の短三度は平均律より低目に取った方がより短調らしい寂しい感じを表現できます。
カラオケボックスの点数は平均律で評価しているようです。
最近の高性能な採点をする機械については分かりませんが、果たしてカラオケの採点が平均律から外れた音をキチンと評価しているのかは分かりません。もしかしたら、減点対象になるかもしれません。
さて、ここまで読んで頂けたらお分かりかもしれませんが、平均律で調律されるピアノなどの楽器において、長三度の音は、メロディーを弾くには低すぎて、和音を弾くには高過ぎるんです。
しかし、特にピアノは、メロディーも和音も弾かなくてはならないので、純正律でもピタゴラス音律でもない、平均律を受け入れざるを得ないんですね。
そこはピアノの弱点でもありますが、その妥協があるから、ピアノは10本の指を駆使して自分で伴奏しながらメロディーも弾ける訳です。
なお、ピアニストの中には、調和しない三度の音をわずかに遅らせて和音を弾く方もいらっしゃいます。その方が濁った感じが薄まるからです。
さて、次はギターですが、先ほどの鍵盤の絵のソシレの音は、Gコードの音ですが、青丸のレをオクターブ下の青三角のレにすると開放弦の4弦のレ、3弦のソ、2弦のシの音になります。
ギターは6弦~3弦までは隣りの弦との関係は完全4度の関係ですが、3弦と2弦は長三度の関係になります。
昔はここでギターの人は困った訳ですね。
電子チューナーなど無かった頃は、5弦のラを音叉などで合わせ、同音異弦つまり、5弦の5フレットのレと4弦の音を合わせ・・・
または、ハモ―ニクスを使ってうねりを無くすように合わせたり・・・
してました。
ある程度経験を積んだ人はハーモニクスで調弦する事が多かったと思うんですが、そこにもまた落とし穴があります。
5弦のラつまりAを音叉で合わせるとします。
5弦5フレットと4弦7フレットのハーモニクスでうねりが無くなるように4弦レ(D)を合わせると、5弦と4弦は純正の完全四度で綺麗に調和します。
ただし、そのレは平均律のレより2セント低目になります。
そして同様に4弦の5フレットと3弦の7フレットのハーモニクスで3弦のソ(G)を合わせるとその3弦のソは平均律のソに比べて4セント低くなります。
ま、4セントという音高差は、その2音を聴き比べるとその差が分かりますが、実際の演奏でそれが分かるのは、よほど音程感の良い人でないと気が付かないレベルです。
ま、そこまでは良いのですが、問題は2弦のシ(B)です。
3弦と2弦の関係は長三度なので、これ、ハーモニクスでは合わせようが無いんですね。
時々、3弦4フレットのハーモニクスと2弦の開放弦で2弦を合わせようとする人がいますが、それでは2弦がかなり低いシになります。
大抵は、5弦7フレットのハーモニクスと1弦の開放弦ミ(E)を合わせ、1弦のハーモニクスで2弦を合わせるか、または、6弦7フレットのハーモニクスと開放弦の2弦を合わせるかだと思いますが、いずれにしても、もしそれで正確に調弦したとしたら、2弦のシ(B)は平均律のシより4セント高くなります。
先ほども言いましたが、平均律と4セントぐらい違っても、実際の演奏ではそれほど大きな問題はないのですが、3弦のソが平均律のソより4セント低い訳で、つまり、3弦と2弦の音高差が本来の平均律の音高差より8セント広がってしまい、音程の段差ができます。
8セントという音高差は小さくないですよ。
ほとんどの方が違和感を覚えるはずです。
なので、昔のベテランは、意識してか無意識かの違いはあるかもしれませんが、5弦→4弦→3弦と少しずつ高目に、6弦はちょい低目にチューニングする人も多かったようです。
そして、『ギターはチューニングが合わない楽器』と言われていました。
近年になり(と言っても40年以上経ちますが)、電子チューナーが発明されて、いずれの弦も平均律で調弦できるようになりました。
チューナーの多少の精度の問題はあるとしても、電子チューナーが出回ったからこそ、『ギターはやっと正しくチューニングできる楽器になった』と言っても過言ではありません。
もちろん、平均律は前述のように、ハーモニーの問題とメロディーの問題の両方を抱えており、完璧ではありません。
でも、そこを何とかしようとすると、前述のようにあちらを立てればこちらが立たずの状態になってしまいます。
ギターはフレットからして平均律を基本に作られているのですから、平均律の楽器として割り切って演奏するのが良いのかな、と思います。
あと、オクターブ調整ですが、開放弦と12フレットの実音がオクターブ違いのドンピシャに調整するより、12フレットの実音を気持ち高目に調整した方が人間の感性に合うと思います。
ピアノの調律師さんも、高い音はより高目に調律します。
それとこの件は内緒だったのですが・・・(と言っても、ご存知の方も多いかと)
リードギターの人は、バッキングの人より少しピッチを高目にした方が華やかになります。
もしバッキングの人がA=440なら、A=441ぐらいで。
ただ、バッキングの人も、本能的に高目に調弦する場合も多々あるので、場合によってはA=442にする事もあります。
A=440とA=442では8セント近く違いますが、バッキングの人がやや高目にチューニングしてるなら5セント前後の違いになります。
ちなみに、奈良バンドフェスの時、私、チューナーをライブ会場に置き忘れてぴたさんに一時保管して頂いたのですが、その時にぴたさんに私のチューナーがA=442に設定されてる事がバレてしまいました。(^^ゞ
で、その奈良バンドフェスの時のフィナーレでアドリブで演奏した「歩いて帰ろう」のギターソロの部分を(以前もUPしましたが)下に貼るので、もう一度聴いてみてください。
これを予備知識なしで聴いて、私のギターのピッチが高いと分かる方はかなり音程感に敏感な人だと思います。
大抵の人は、「そう言われれば・・・」あるいは、「全然分かりません」ていうのが正直なところではないでしょうか?
あ、私の演奏がヘタだとか、そういう話しではないですからね。
あと、チョーキングやビブラートも多用していますが、そこでは無く、あくまでも調弦のピッチについてです。