こんにちは、清瀬の弁護士小池です。

 

ちょっと気になる記事がYahoo!に出ていたので取り上げたいと思います。

 

 

 

(以下引用)

 

「それは、僕が裁判ネタを探すのではなくて、弁護士さんの方から『これ、100パーセント勝てます』という裁判ネタを見つけてきてもらって、そこできちんと弁護士費用をお支払いして丁寧に訴えて、勝ってお金が入ったら、そのお金を子どもたちの支援に全額回すというものです」と、異例の試みを発表した。

 

(引用以上)

 

 西野さんはあくまで仮定の話をされていると思うのですが、

 

弁護士さんの方から『これ、100パーセント勝てます』という裁判ネタを見つけてきてもらって

 

 この部分はちょっと問題があると思います。西野さんではなく、弁護士が「これ、100パーセント勝てます」と他人に伝えることです。

 

 弁護士は、仕事をするうえで、「弁護士職務基本規程」(面倒なのでここからは「基本規程」といいます。)というものを守らなければならないとされています。弁護士倫理などと言われるものはこの基本規程のことを指します。基本規程は弁護士会の内部の決まりなので、破っても警察が飛んでくるわけではありません。しかし、基本規程に反する行為をしたと弁護士会に認定された場合、懲戒処分というものを食らい、業務停止や弁護士会からの除名(=弁護士としての活動不能)になることがあります。

 

 その基本規程の第29条第2項には、

 

「弁護士は、事件について、依頼者に有利な結果となることを請け合い、又は保証してはならない。」

 

 という規定があります。要するに、「〇〇さん、大丈夫ですよ。この裁判絶対勝てますから」と言ったり、「××さんが少なくとも200万円とれるのは間違いありません」などと請け合ってはいけないということです。

 弁護士に相談したことがある方は、勇気を出して相談したのに、「無理です」「できません」「ちょっと考えられないですね」と、自分のやりたいことにダメ出しを受けてガッカリしたという人がいるかもしれません。

 そうでなくても、「先生、勝てますか?」という質問をしたところ、どうですかねえという頼りない返答が返ってきたので、こんな弁護士には依頼をしたくなくなったという方はいるかもしれません(私も、相談者からそのような趣旨の言葉を言われたことがあります。)。

 しかし、裁判や訴訟というのはかなり専門的な技術が必要になる営みであり、弁護士と依頼者との間には圧倒的な知識の差があるのが普通です。そんなところにきて弁護士から結果を請け負う頼もしい言葉が出てきたら、不利な状況であったとしても前のめりになってしまってもおかしくありません。

 裁判は時間もお金もかかるものです。相手方との関係も決定的に悪化しますし、それ以降修復が不可能になるかもしれません。

 それにもかかわらず、訴訟を起こすというのは、起こす側にお金や時間だけでは割り切れない気持ちがあるからなのではないでしょうか。

 つまり、訴訟を起こしたい、あるいは、裁判にかけることを選択肢の一つとして持っているという方々は、ただでさえ前のめりになりやすい精神状態で相談に来ているのです。そのような状態の人をけしかけるような真似をしてしまえば、結果的に依頼者の皆さんの損失、失望につながってしまいかねません。

 だからこそ、基本規程は29条2項のような規定を置いて、弁護士側が相談に来た方の心の火に油を注ぐようなことをしてはいけないという戒めにしているのです。

 

 ほかにも、基本規程は「弁護士は、事件を受任するに当たり、依頼者から得た情報に基づき、事件の見通し、処理の方法並びに弁護士報酬及び費用について、適切な説明をしなければならない」(29条1項)とか、「弁護士は、依頼者の期待する結果が得られる見込みがないにもかかわらず、その見込みがあるように装って事件を受任 してはならない」(同条3項)とかいった定めを置いて、弁護士が一般市民をいい気にさせて自分の仕事を作ってしまうことを禁じています。

 

 弁護士は、親身になって相談を受けなければいけないと思いますが、それと同時に、裁判所という国家権力から見て、その要求がどのように捌かれるか(あえて「裁く」とはいいません)という視点を持ち、その視点から見た見通しも伝えるべきなのではないでしょうか。話がまとまらなければ最終的に裁判所に持ち込まれて解決が図られるのですから、そうしないのはかえって不親切だということもできます。 

 できれば、皆さんも弁護士に「勝てますか?」という質問をするのは避けたほうがいいです。それよりも、「裁判(調停などを含む)まで行くとどうなりますか」とたずねて、その弁護士の見立てを開示してもらうほうがよいでしょう。

 

 冒頭の記事に戻っていえば、私は誹謗中傷と思われるSNSのスクリーンショットを持って有名人のところに「これ、100パーセント勝てます」などと伝えに行くようなことは絶対にしません。

 弁護士が倫理違反をすることを前提にしたチャリティというものには、疑問符を付けざるを得ないというのが正直な感想です。