貸金業の金利規制緩和は、違法金利を合法化して借金被害者を増やすだけの愚策です。 | 騰奔静想~司法書士とくたけさとこの「つれづれ日記」

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大阪の柏原市で司法書士をやってる徳武聡子といいます。
仕事のかたわら、あっちこっち走り回ったり、もの思いにふけったり。
いろいろお伝えしていきます。

(4月に連ツイしたものに加筆しました)

 平成18年の貸金業法等の改正によりグレーゾーン金利が廃止され、高金利が引き下げられました。いま、これをまた、高金利に引き戻そうという動きが出ています。

報道 貸金業の金利規制緩和 自民が法改正検討(4月19日 日経)
報道 貸金業者の金利規制緩和、自民が議論着手(5月22日 日経)

 これらの報道によると、金利規制緩和は、中小企業が銀行から融資を受けられないので高金利で借金しやすくしよう、ということが主眼におかれているようです。
 しかし、それは高金利のサラ金地獄へ逆戻りをさせるものです。中小企業が年利29.2%という高金利で借金しても、一時的に延命するだけのことで、すぐさま、さらなる苦境に陥るのは目に見えています。

 平成18年の貸金業者に対する高金利規制は、30年も前から法律家・支援者・多重債務の当事者が続けてきた金利規制の運動の末に、ようやく勝ち取ったものでした。
 それまでにも高金利を認めない判決が各地の裁判所で下されていましたが、平成18年に貸金業法43条(当時)のみなし弁済:グレーゾーン金利の適用にとどめを刺す最高裁判決があり、一気に高金利規制に弾みがつきました。

 この金利規制ですが、金利について定めた法律である利息制限法の法的金利は変わっていません。変わったのは貸金業法と出資法です。この2つの法律がいわゆるグレーゾーン金利という高金利を規定していましたが、このグレーゾーン金利が撤廃されたのが、平成18年の高金利規制でした。

 どういうことか、説明します。

 貸金業法43条は、いくつかの条件を満たした場合に29.2%という高金利を認める規定でした。しかし、貸金業者のほとんどが、この条件を守っていなかったのです。
 したがって、法律家が介入したり、裁判所で手続をする場合には、貸金業法43条の適用は、ほとんど認められず、利息制限法に定められた金利(10万未満20%、10万~100万未満18%、100万以上15%)で借金の残額を計算するのが常でした。
 つまり、グレーゾーン金利(高金利)は、平成18年の貸金業法等改正より前の時点でも、法的にはほとんど認められていなかったのです。貸金業法等改正は、そういった実態に法律を合わせたものでもありました。

 しかし、昔は法律家が債務整理手続をすること自体が知られていません。そうすると、貸金業法43条(高金利)が実際には法的に認められにくいことを知らない多重債務者は、サラ金業者に言われるままに高い金利を払い続けてきました。まさか、それが違法金利とは思いも及びません。それに加えて、「破産したら何もかも失う」「人生終わり」といったような誤解があって、破産手続にも踏み切れない人も少なくありませんでした。私の事務所にも、10年も20も年返済に苦しんできた多重債務者が何人も来ていました。

 そういう風に違法な高金利でも合法なものであるかのように、まかり通っていました。今回の金利規制緩和は、そのような違法金利を合法化させるものでもあります。

 高金利のサラ金は、無担保無保証で審査も甘く、借りやすくなっていました。それは目の前の現金を求める人からすれば、”そのときは”助かるという、いわば麻薬のようなものです。しかし、一時的な安逸を得ても、すぐに過酷な状況がやってきます。もともと生活費が足りなくて借りていたので、どこにも余分な金はない、しかし返済は増えるという事態になります。

 だから、多重債務者の多くが自転車操業に陥りました。借入先も増えていって、自死や犯罪に至ってしまう人もいます。高金利問題は社会問題でもあったのです。そうして、長年にわたる運動と最高裁判決の結果、ようやく貸43条が撤廃され、高金利は規制されました。
 当時は与野党が全会一致で金利規制に動き、自民党内部でも若手議員が中心に金利規制に動いていたというのに、今の自民党はまったく違う政党になっています。

 金利規制が実施された結果、多重債務者は減少の一途をたどっています。法改正前は230万人もいた「5社以上から借入」の人は、平成24年には44万人にまで減少しました。そして、サラ金から借りにくくなったのでヤミ金が増えたということもありません。
 高金利規制は、多重債務被害の減少にめざましい効果をあげたといえます。

 今回、自民党は「中小企業のため」などと嘯いていますが、本当に金利規制緩和が中小企業のためなのでしょうか。
 むしろ、銀行が中小企業に対して貸し渋るというのなら、低利の公的融資を充実させるべきではないでしょうか。 しかも、中小企業の経営の強化策や支援策は聞こえてきません。借金で中小企業の経営が改善するわけがありません。

 金利規制緩和は、端的に言えば「子どもが泣くので飴玉あたえておとなしくさせよう」レベルの愚策です。飴玉を与えるときに、それに伴う虫歯や糖尿病、肥満の危険性はまったく考慮されていません。あまりにも安直で、なおかつ副作用は甚大です。
 クレサラ運動の中で、とある税理士さんが「企業が倒産せずに返済可能な金利の上限」を試算していました。その利率は年10%です。高金利で中小企業に資金を貸し付けることは、その企業を倒産に追い込むことということでもあります。

 社会保障、特に生活保護が利用しにくかったために、低所得者は借金で生活費を賄わなければならなくなり、数百万人がサラ金地獄に陥りました。
 いままた政府は同じことをしようとしています。

 時代を逆行させ、高金利がもたらす被害を顧みないこのような施策は、断じて許してはなりません。
 このような拙劣な議論がなされることに、心底から怒りを禁じ得ません。