蟹工船の時代(23/30) | いささめ

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 人が亡くなっている。

 生きて助け出された者も重傷を負っている。

 革命の論理ではどうだか知らないが、これは紛れもなく事件であり、犯罪である。

 逮捕された共産党員はあくまで無罪を主張し、事件そのものを警察のでっち上げであるとした。また、小畑も大泉も警察のスパイであるとされ、そこに加えられた暴力も正当な行為であったとしている。

 赤旗の『極刑』という表現についても、それはあくまで比喩的なものであり、スパイに対しての最高の処分は本名を明らかにしての除名であると主張、すなわち、スパイの除名はしたがそれ以上のことはしていないとした。

 だが、現実に死者は出ている。それは赤旗に記されている『極刑』の結果以外のなにものでもないか。

 それについて、共産党は、小畑の死は認めたもののそれは殺害ではないと主張し、殺害ではないと断じて認めなかった。小畑は特異体質であり、その死もショック死なのだと主張しただけでなく、生き返らせようとして人工呼吸したが生き返らなかったと主張した。さらに、小畑の特異体質ゆえの死は事実であるが、それ以外の暴力、変色した顔、潰れた片目、無数の切り傷などは全て警察の捏造だと主張した。

 拳銃を突きつけていたことについてはどうか。

 拳銃についてもそれは大泉の暴力に抵抗するためであるとした上で、あくまでも護身用であるとした。

 小畑や大泉の自由を奪い監禁したことについてはどうか。

 小畑や大泉の自由を拘束したのも部下に対する仕打ちが厳しく党規を乱すために行ったやむを得ぬ対処であり、違法性はないと主張した。

 共産党は徹頭徹尾無罪を主張し、自分たちの犯罪を決して認めなかった。

 だが、そんなわけのわからぬ論理など無意味であった。彼らには犯罪に応じた刑が裁判で下された。


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