前回、「【トピック】いよいよ年金財政検証作業が本格的に始まるみたいですよ。」で財政検証の「基本的枠組み」のことを書きました。(①成長実現ケース、②長期安定ケース、③現状投影ケース、④1人当たりゼロ成長ケースの4つが設定されたという内容等。)

 今回は、「基本的枠組み」のほかに示された「オプション試算(案)」について書きます。(詳しい内容は社会保障審議会の資料のコチラで参照)

 

 この「オプション試算」というものは、あくまで制度改正議論の参考として実施するもので、このオプション試算を実施したから必ずその制度改正を実施するわけではなく、逆にオプション試算の対象外となったからその制度を改正しないというものでもなく第3号被保険者制度など、意見が多種多様で改正後の姿が想定できないような項目は、試算の前提を置けないため、オプション試算の実施は困難なため現時点で対象外としているもので、今後の制度改正の議論の中で意見が集約され、財政影響の確認が必要となった場合には追加試算もありえるようです。真顔

 つまり、現時点で、制度改正の項目の案として取り上げてあり、一定の条件が決められる項目で年金財政にどのような影響を与えるのかを試算したものと言えます。

 

 この「オプション試算(案)」として示されたのが、❶被用者保険の更なる適用拡大、❷基礎年金の拠出期間延長・給付増額、❸マクロ経済スライドの調整期間の一致、❹在職老齢年金制度の見直し、❺標準報酬月額の上限の引上げ、の5項目です。

  ❶被用者保険の更なる適用拡大

 現行の短時間労働者の被用者保険の適用範囲は、1⃣週所定労働時間20時間以上、2⃣月額賃金(標準報酬月額)8万8千円以上、3⃣学生を除く、4⃣従業員51人以上(今年10月から)となっているところ、試算案では、企業規模要件、賃金要件、労働時間要件等について見直しを加え、一定程度働く被用者を全て被用者保険の加入対象とした場合の将来の所得代替率がどの程度上昇するかなどを試算し、厚生年金保険の適用を受けない業種の個人事業所の適用範囲を見直した場合についても影響をみるようです。(5人未満の個人事業所は業種に関わらず厚生年金保険の適用を受けません。)

委員の意見

●5人未満の個人事業所にも(厚生年金保険を)適用拡大した場合の試算もお願いしたい。

●賃金要件を5万8千円以上に引き下げた場合と賃金要件を撤廃した場合の試算をご検討いただきたい。

●今国会で議論されている「雇用保険の加入対象を週労働時間10時間以上に拡大した場合と労働時間を撤廃した場合の試算をご検討いただきたい。

  ❷基礎年金の拠出期間延長・給付増額

 現行「20歳~60歳」の40年を「20歳~65歳」の45年に延長し、基礎年金が増額した場合の試算を行うもので、前回令和元年財政検証でも同様の試算を行ったが国庫負担の追加財源の確保の必要があるとのことでした。

❸マクロ経済スライド調整期間の一致 

 前回の財政検証でも示されていたもので、実施した場合、報酬比例部分の所得代替率は低下するものの、基礎年金部分の所得代替率が上昇し、トータルでの所得代替率が上昇する結果が示されていました。

 また、マクロ経済スライドによる調整の完全な仕組みとした(名目下限措置の撤廃)場合等の効果も調べるようです。(今のキャリーオーバー(マイナス改定の場合にマクロ経済スライド分を翌年度に持ち越すこと)を止めるということ)

委員の意見

●不確実な将来に向けたリスクマネジメントの観点からもマクロ経済スライドのキャリーオーバー実行時のショックを緩和するためにも、インフレを経験している今だからこそ名目下限措置の撤廃を行うべきで、支給開始年齢の引き上げを主張する人に隙を与えないためにも、来年の年金改革の中で優先順位が最も高いと思っている。

  ❹在職老齢年金制度の見直し

 就労し、一定以上の賃金を得ている65歳以上の老齢厚生年金受給者を対象に、賃金月額と老齢厚生年金月額の合計額が50万円以上の場合に50万円を超えた額の1/2を支給停止するという制度の見直しのこと。

  ❺標準報酬月額の上限の引上げ

 賃金(標準報酬月額)が増加すると保険料が増加するが、年金給付は報酬比例年金のみ増加し、厚生年金保険料収入が増加し、給付に反映されるまで積立金の運用益が増加することになり、厚生年金財政にプラスの影響があることにより、報酬比例部分のマクロ経済スライドによる調整期間が短縮、スライド調整後の報酬比例部分の所得代替率が上昇し、厚生年金受給者全体の将来の給付水準が上昇することになるというもの。

委員の意見

●現時点では具体的な引き上げ幅のイメージがよく分からない。健康保険の上限がよく引用されるが厚生年金よりも2倍も高いので、このような大幅な引き上げが現実的な選択肢になるのかは疑問。

  その他

第3号被保険者制度への意見として

委員の意見

●廃止した場合のオプション試算をしたらどうか。3号制度は女性の就労意欲を阻む原因となっているとともに、時代にあっていない。議論を深めるためにも試算をしたほうがいい。

●3号制度を廃止し、3号がすべて1号に移動した場合の財政への影響のシュミレーションをご検討いただきたい。

●可能ならばオプション試算にいれていただきたい。一方で、その効果は数字で表しにくい要素もあるように思う。したがって、オプション試算に最終的に入れる入れないに関わらず改革メニューとして検討していくべき。

 

 

 ここからは個人的な思いです。

 年金の財政検証は、前回の財政検証が事実とどう違ってきたかを検証し、将来の現役世代との所得代替率が50%を下回らないかを検証するもので、その検証結果を受けてどう軌道を修正する措置をとるかを論議する基になるものですが、前回の財政検証の内容と現在の状況との乖離の原因をどう捉えているのか、よく見えてきません。マクロ経済スライドの名目下限の撤廃は、経済界も要望しているもので、調整期間の一致は、基礎年金の所得代替率の下降を押さえるための手段、基礎年金拠出期間の延長、厚生年金加入者の適用拡大、標準報酬月額上限の引上げと在職老齢年金制度の見直しは、厚生年金保険料の増収と低報酬者への年金給付増額による第3号被保険者の大幅な縮小を図るための手段ように思えてきますが、皆さんの眼にはどのように見えているでしょうか?びっくり音譜

 委員の意見には特に大きな異論はなかったそうですから、第3号被保険者は廃止する方向のように聞こえますし、雇用保険を週10時間以上までの労働者に適用する改正をしていることからすると、週10時間以上の労働者まで厚生年金保険に加入する方向に?もし、このまま進んで行けば、国民年金制度は厚生年金保険制度に飲み込まれるようになっていきそうですね。ガーン

 実際、現在の国民年金の保険料月額は、現在の標準報酬月額8万8千円の事業主負担額と被保険者負担額の保険料の合計額とほぼ同額です。国民年金保険料納付者の皆様はお気づきでしたか?なので、第3号被保険者制度が廃止されて第1号被保険者になった場合、低賃金の被用者は、厚生年金保険に自ずと加入していくことになりそうですね。びっくり

 極論かもしれませんが、自営業者も事業主兼労働者とも言えますから、もういっそのこと、国民年金を廃止して自営業者を含めて厚生年金保険に統合してはどうでしょうかね?

 

 今後も年金改正に関する情報を入手したら書いていきます。ウインク