厚生労働省年金局が、4月12日に開催された「年金財政における経済前提に関する専門委員会」での長期の経済前提の検討結果の報告を受け、4月16日に第14回社会保障審議会年金部会において、令和6年財政検証の基本的枠組み一定の制度改正を仮定したオプション試算(案)を示しました。メモ(詳しくは厚生労働省のホームページのコチラで参照ください。)

 これを受けて、年金部会の委員からは大きな異論はなく、今後年金局は財政検証作業を本格化させ、検証結果は、早ければ夏頃に公表される見通しだそうです。目

 

 『財政検証』は、公的年金の「定期健康診断」とも言われ法律の規定で5年に1度行われるもので、この財政検証の結果を踏まえて、安定かつ持続可能な年金制度維持のための年金制度の改正などが行われます。なので、経済に詳しくはなくても概要程度は知っておくことが必要だと思いますので、私も分かる範囲で書いてみようと思います。

 詳しい方がおられたら、皆さんに分かりやすく教えていただけないでしょうか。

 

 さて、この年金財政検証を行うにあたって、重要となる前提は何だと思いますか?

 それは「人口」・「労働力」・「経済の3つだそうです。

人口の前提は、・・・令和5年4月に国立社会保障・人口問題研究所が公表した「日本の将来推計人口」で、出生率、死亡率をそれぞれに「高位」「中位」「低位」の3通りが設定されているほか、国際人口移動に係る「条件付き推計」も参考に示しています。

労働力の前提は、・・・令和6年3月に独立行政法人労働政策研究所・研修機構が公表した「労働力需給推計」で、成長分野の市場拡大が進み、女性及び高齢者等の労働市場への参加が進展する「成長実現・労働参加伸展シナリオ」、経済成長と女性及び高齢者等の労働市場への参加が一定程度進む「成長率ベースライン」、1人あたり実質ゼロ成長の経済状況を想定し、労働参加が進まない「一人当たりゼロ成長・労働参加現状シナリオ」の3つが設定されているそうです。

経済の前提では、・・・2033年度までの経済前提は、令和6年1月に内閣府が経済財政諮問会議で公表した「中長期の経済財政に関する試算(中長期試算)」に準拠し、2034年度以降の経済前提は、今回「年金財政における経済前提に関する専門委員会」が取りまとめた検討結果の報告に基づき設定されます。びっくり音譜

 

 今回、❶~❸のうちの最後の2034年度以降の経済前提が決まったようですが、この報告によれば、将来の社会・経済状況は不確実であり、長期の予測には限界があるため、人口や経済等に関して現時点で得られるデータを一定のシナリオに基づき将来の年金財政へ投影するものという性格に留意が必要」であるとし、長期的に妥当と考えられる複数のシナリオを幅広く想定した上で、長期の平均的な姿として複数の前提を設定すべきとし、財政検証の結果についても「幅を持って解釈する必要がある」との見方を示しているようです。えー

 

 公的年金は、収入・支出ともに長期的には賃金上昇率に従って変動する仕組みであるため、年金財政にとっては名目値ではなく(物価上昇率を上回る)「実質賃金上昇率」と(賃金上昇率を上回る)「実質的な運用利回りが重要で、この2つの要素を、令和元年財政検証時と2001年度~2022年度の実績平均と比較、令和元年度財政検証では、実質賃金上昇率が実績(▲0.3%)より高い0.4%~1.6%に設定され、実質的な運用利回りは、実績(3.7%)より低い0.4%~1.7%に設定されていたという結果になっていたようです。指差しベル

 この解離の要因を検討した結果実質賃金上昇率は「労働生産性向上に伴い実質賃金も上昇する仮定を置いていたが、バブル崩壊後、労働生産性は向上する一方で実質賃金上昇率(対物価)は概ね横ばいで推移し、実績が前提を下回る一因となっていた。」(※後段個人的感想)と、実質的な運用利回りは「実質賃金上昇率(対物価)の低迷が、実質的な運用利回り(対賃金)の上昇に寄与し、実績が前提を上回る一因となった。」と分析しているようです。びっくりキューン

 

 その上で、今回の実質賃金上昇率の設定にあたっては、労働生産性向上と実質賃金の関係を日本以外の先進諸国でみると、労働生産性向上に伴い実質賃金も上昇していて、日本とは異なる状況が確認されたものの、先進諸国での実質賃金の伸びの要因分析では労働生産性の向上が大きく寄与していること、実質的な運用利回りについても先進諸国も同様に財政検証の前提を上回っていることを考慮する必要があるとして、長期の経済前提の設定に用いるマクロ経済に関する試算の枠組みについては、令和元年度財政検証と同様に、過去の実績(新型コロナ感染症の影響を除外しない過去30年のデータ)を基礎として、経済の潜在的な成長力の見通しや労働力需給の見通しを踏まえた引数を設定して潜在的な経済成長率等の推計を行ったようです。グラサンあせる

 ただ、日本と先進諸国との違いから(?)経済成長率の計算上、一部の計算式を見直すことで、整合性の取れた労働生産性上昇率などの値を推計でき、これらの推計値を基礎に、実質賃金上昇率や実質運用利回りを設定することで、マクロ経済の観点から整合性のとれた経済前提を設定することができるみたいです。

 

 そこから、財政検証の基本的な枠組みとして、長期的な経済状況を見通す上で重要な「全要素生産性(TFP)上昇率」を軸として

成長実現コース・・・2034年度以降の実質経済成長率1.6%、実質賃金上昇率2.0%、実質運用利回り1.4%、物価上昇率2.0%

長期安定ケース・・・2034年度以降の実質経済成長率1.1%、実質賃金上昇率1.5%、実質運用利回り1.7%、物価上昇率2.0%

現状投影ケース・・・2034年度以降の実質経済成長率▲0.1%、実質賃金上昇率0.5%、実質運用利回り1.7%、物価上昇率0.8%

一人当たりゼロ成長ケース・・・2034年度以降の実質経済成長率▲0.7%、実質賃金上昇率0.1%、実質運用利回り1.3%、物価上昇率0.4%

 と、令和元年度財政検証では6つのケースを示しましたが、TFP上昇率を令和元年度は1.3%~0.3%としていたものを、今回の財政検証では1.4%~0.2%と幅広い設定とした4つのケースを設定しているようです。(令和元年度財政検証の6つのケースのうちⅢとⅣのケースを外しているように見えます。)

 

 この❶~❹のケースに「人口の前提」や「労働力の前提」を加えて将来の年金財政を検証していくという流れになりそうです。ポーンNEW

 次は、同時に示された「オプション試算」の内容(案)について書こうと思います。

 

個人的感想

 上にも書いてますが、労働生産性向上と実質賃金上昇の関係についてですが、審議会資料によれば、新型コロナ感染症発生前の過去25年間を先進諸国の状況と比べていて、日本以外は労働生産性の向上と実質賃金上昇が連動しているように見受けられますが、日本は労働生産性は向上しているのに実質賃金は上昇せずに横ばいで推移しているように見受けられます。

 これまで、バブル崩壊によるデフレにより平成時代は不況だったと言われ、企業が成長するためには生産性を向上させることが必要だと言われ、色々な政策や金利策が取られていたわけですが、先進諸国と比べて、労働者の労働生産性は向上していた事実があるのに、それに見合う賃金が支払われていなかったということでしょうか?このことと企業の内部留保が増大していたのは何か関係があるのでしょうか?

 ここへきて、円安による諸物価高騰を受け、政府の要請もあり、人材不足や2024年問題も相まって、企業が賃金を引き上げているようですが、物価上昇の範囲内の賃金引き上げで、実質賃金は低下していて、平成の時代に企業はもっと人への投資をすべきだったという反省はないのでしょうか?高い内部留保があったから、コロナや円安を乗り切れているとも言えるのでしょうが、甚だ疑問を感じますね。皆さんも、この審議会資料から過去の状況を知ることができ、これからどうしていくべきか考えることもできますし、自分なりの対策を考える参考になるのではないかと思います。

 今後も、自分なりに分かる範囲で年金制度を軸に将来を考えられるよう書いていきたいと考えています。パー