公益財団法人の日本財団が選挙権年齢の引き下げをきっかけに18歳の意識を継続的に調査している中で、全国の17歳~19歳の男女を対象に昨年10月にインターネットによる「社会保障」に関する調査を行い、1,000件の回答を受け、その結果を昨年11月1日に公表しました。

 調査は、「世代間扶養」など年金制度の仕組みについて文章を掲示し説明を行った上で、年金に対する意識を探っています。

❶「あなたは、自身が高齢者になったとき、現在の年金制度はどのようになっていると思いますか?」に対する回答

☞「存続していると思うが、維持が難しくなっている」「維持できていない(破綻している)」と回答したのが男性で約7割、女性で約8割だったそうです。

❷「あなたが支払う保険料に対して、(あなたが平均寿命まで生きると仮定して)あなたが受け取る年金額は、どのようになると思いますか?」に対する回答

☞「支払額より少なくなる」「支払額よりずっと少なくなる」との回答が男性で約6割、女性で約7割が回答

❸「仮にあなたが20歳から規定通り保険料を支払ったと仮定し、あなたが高齢者(65歳以上)になったとき、あなたは受給する年金でどの程度生活できると思いますか?」に対する回答

☞「年金だけではほとんど生活できない」との回答が男女とも約3割、「生活費の1割程度又は3割程度の生活費をまかなえる」との回答とあわせると、男女とも約6割が年金では生活費の半分も賄えないと予想しているようです。ちなみに、「年金だけで5割程度の生活費がまかなえると思う」との回答は男女とも25%程度、「年金だけで7割程度の生活基金がまかなえると思う」との回答は男性13%、女性7.4%だそうです。

❹「支払う年金保険料が上昇傾向にある事実などを踏まえ、世代によって不公平が生じているとの議論があるが、人口構造の変化を背景とする世代間格差について、あなたはどのように考えますか?」に対する回答

☞「容認できない」との回答が男性で約4割、女性で約3割あるそうです。

❺「現在の公的年金制度について、あなたの考えを教えてください」に対する回答

☞「改革が必要」との回答が男女とも約6割で、「現在のままでよい」との回答を大きく上回っているそうです。

 

 皆さんは、若い方がこのように思っていることをどう考えますか?

 厚生労働省は、高校生や大学生に対して近年「年金セミナー」を開催して、公的年金制度の仕組みを理解してもらうよう努めているようですが、このような回答があることを踏まえると、「何をやっているんだ!」とも思えますよね。

 厚生労働省は、公的年金制度は100年安心だと言い、金融庁は、老後は年金以外に2000万円の資産を持っておかないと生活苦しくなると不安を煽る、政府の中で矛盾した政策があるようにも思えます。将来を担う若い世代に不安を煽って自分で対応しろっていうのかと、調査の項目に対して、このように考えるのも分かります。

 

 この公表の少し前になりますが、厚生労働省は8月22日に、年金等の社会保障制度の給付と負担、税負担が所得の再分配にどう影響を与えているかをみる令和3年所得再分配調査の結果を公表しています。この調査はおおむね3年に一度実施するそうですが、コロナの影響で今回は1年遅れで実施されたそうです。

 調査結果は、所得等の分布均等度を表す指標(0から1までの値をとり、0に近いほど所得格差が小さく、1に近いほど所得格差が大きいことを示す「ジニ係数」でみると、再分配前の「当初所得(公的年金などの社会保障給付を含まない給与所得、事業所得、企業年金や生命保険金などの合計)」では「0.5700」に対して、社会保障や税による再分配後の再分配所得(当初所得から税金、社会保険料を控除し公的年金や医療介護保育の給付を加えた社会保障給付では「0.3813」となっていて、年金等の社会保障制度等により格差の拡大が防止されているかたちになっており、高齢者世帯の当初所得(平均124.7万円)に対して再配分所得(364.1万円)となって、再配分係数は192.0%と大きくなるのは、社会保障給付の受給によるもので、受給額の内訳では「年金・恩給」73.1%と7割を占めていて、所得の再分配に貢献している姿が見えますね。

 つまり、年金等の社会保障給付がないと、所得格差が今よりもっと拡大するということになるようですね。極論かもしれませんが、年金制度などの社会保障給付が無くなると、弱肉強食の世界に向かって行く世の中になるということであり、社会保障制度は、人間が人間であるための助け合いの制度であると言えそうです。

 

ここから先は、私個人の私見です。不快の思われる方がおられましたら、あらかじめお詫び申し上げます。

 私も資産運用には興味がありますが、最近は、老後2000万円不足問題を発端に、公的年金だけでは老後の生活費の当てにならないから、確定給付年金やiDeCoなど確定拠出年金、新NISAの制度の改正を行い、自助努力で備えてという流れを作って、一気に貯蓄から投資へと国民を向かわせているように見えますが、今現在の足元の生活をキチンと把握した上で、余裕資金で何を自助努力するかを考えないと、物価上昇傾向が続く中では現在の生活を犠牲にしてしまいかねないと不安を覚えるのは私だけでしょうか。

 巷では、証券会社などの資産運用機関などが事業所に、「賃金規定を変更してベアを給与ではなく、確定拠出年金の掛け金として支払えば、事業所の社会保険料(賃金ではないので算入しない)や税金(掛金は損金計上)の負担が軽減されますよ。」、従業員にも「将来の年金額がその分減り、傷病手当金などもその分少ない金額になりますが、今の手取り額は変わらずに、将来の資金を形成できますよ。」とデメリットもきちん説明しつつ、確定拠出企業年金への加入を勧奨しているとの話しを聞きました。

 老後生活資金の設計を踏まえたものでしょうが、「ベア」とは物価上昇に伴う賃金の実質価値を維持するための給与のアップであって、ベアを今現金で受けられないとすれば、消費を控えざるを得なくなります。(消費意欲が削がれ景気は良くなりませんよね。資産運用機関は、またデフレに戻りたいのでしょうか?)

 このようなやり方は、確定給付年金法や確定拠出年金法の目的をも逸脱していると思います。貯蓄から投資へという流れを否定するつもりはありませんが、結果的に制度の抜け穴を創ってまで投資を煽ることができるようにしたのは、厚生労働省が認めた合法的な「社会保険料逃れ」とも言えそうです。(掛金を運用するのは個人であり、元本保証をしなくていいのですから、私には、資産運用機関などが手数料などで儲けるためにしているとしか見えませんけど。)私的年金の改正も次期年金制度改正で検討されると思いますが、若い方が言うように、このような抜け穴を塞ぎ、公的年金制度もそうですが、企業年金や個人年金も国民が安心して正しい制度設計・生活設計を行うことができるような年金制度改革を求めたいと思います。