これまで障害年金の認定基準を書いてきて、記念すべき100回になりました。随分と長く書いたものだなと、我ながら感心している次第です。

 さて今回は、血液・造血器疾患による障害の認定基準の改正を少し書いておこうと思います。

 改正は平成29年に行われたと思いますが、改正前に行われた障害年金の認定に関する専門家会合の議事録(詳細はコチラから)から要約して書きます。

  改正までの経過

 この認定基準の前回の改正は、平成14年に行われており、すでに10年以上経過し、認定を行う現場からも盛り込まれている検査内容が古くなっていないかというような指摘があったことから、近年の医学的知見を踏まえて基準の見直しが行われたようです。(その改正から現在まで、もう6年以上経過していますが。えー

 改正前は、研究者の見解によって多少異なる分類法がなされていて、主要症状や検査成績について示し、免疫学的検査を中心とした様々な特殊検査があり、検査項目や異常値をまとめたものを列記して、この疾患の病態は、各疾患による差異に加え、個人差も大きく現れ、病態も様々で、診断、治療法は日々進歩していることから、検査成績のみをもって障害の程度を認定することなく、認定時の具体的な日常生活状況等を把握して、総合的に認定するとされていたようです。びっくりあせる

 それを踏まえて、認定要領は、大きく難治性貧血群、出血傾向群、造血器腫瘍群の3つに分類して例示し、各群それぞれに障害等級が規定され、その等級に沿うよう「A表」Ⅰ、Ⅱ、Ⅲの臨床所見、と「B表」Ⅰ、Ⅱ、Ⅲの検査所見列記されていました。この内容について、認定医などからは、認定基準が分かりにくいとの意見が出され、認定基準の明確化や具体的な例示が求められたそうです。

 そこで、検討課題としては、主に主要症状及び検査の定義を見直す必要はあるか、❶~❸各群の臨床所見や検査所見を見直す必要はあるか、造血幹細胞移植の取扱いを規定すべきか、をあげ、血液・造血器疾患の分類例示の分類区分や名称を見直す必要があるかとされました。また、自覚症状や他覚所見を見直す必要があるかや診断書の記載と整合していないところ、検査の名称や追加または削除すべき検査があるかなどが検討されたとあります。指差しドキドキ

  各検討について

⑴ 3つの分類と例示について・・・名称を変更へ

 委員らの意見から「分類区分は現行のままとする。」で異論はなく、名称を次のとおり変更する方向になったそうです。

  ❶「難治性貧血群」⇒「赤血球系・造血不全疾患」 

  ❷「出血傾向群」 ⇒「血栓・止血疾患

  ❸「造血器腫瘍群」⇒「白血球系・造血器腫瘍疾患

 次に、「A表」(臨床所見)と「B表」(検査所見)について

 ❶の「A表」では、「治療により貧血改善はやや(少し)認められるが、なお」は削除、「易感染症」は「易感染性」に変更し、貧血の程度は輸血の頻度で定義すればとの意見があったが、従来どうりとする方向が確認され、「高度、中度、軽度」の重症度の表現、輸血の頻度を表す「ひんぱん、時々、必要に応じて」は変更せず、「B表」では、貧血の程度の把握を「ヘモグロビン濃度、赤血球数」の両方を使っているが、関係団体からはそのままにとの意見もあったが、貧血症状は、「ヘモグロビン濃度」が下がっていれば貧血で赤血球数は必要ないのではとの意見もあったみたいです。

 白血球に関しては、易感染性の把握として「顆粒球」だったが顆粒球の分類の1つである「好中球を用いる方向とされ、「骨髄像」は削除する方向となったようです。第1回の会合で、造血器不全の評価として「網赤血球」を評価すべきか、評価する場合の検査数値をどうすべきか、また、溶血性貧血は4つのうち1つ以上だが、再生不良性貧血は3つ以上と見直しの必要との意見があったみたいです。

 ❷の「A表」では、「凝固因子製剤を輸注している」を「補充療法を行っている」に変更し、重症度を示す「高度、中度、軽度」や「ひんぱん、時々、必要に応じ」は変更せず、「B表」では、「PT(プロトロンビン時間)」を加え、「凝固因子活性」は血友病医療のガイドラインの出血症状の重症度と良く相関しており、加えた場合の検査数値は、WFH(世界血友病連盟)の重症度の基準と同じで良いと考えるが、血友病以外の「凝固因子活性」の検査数値をどうすべきかがあったみたいです。

 ❸の「A表」では、「易感染症」を「易感染性」へ変更し、重症度に「治療に反応しないもの」「治療にある程度反応するもの」「治療によく反応するもの」の重症度に関する規定を加えるべきか、「B表」では、「好中球」へ変更する、「造血幹細胞移植」を受けたものについては、「術後の症状、GVHDの有無及び程度、治療経過、検査成績及び予後等を十分に考慮して総合的に認定する。」を加えるべきか、「移植片が生着し、安定的に機能するまでの間を考慮して術後1年間は従前の等級とする。」を加えるべきかなどが検討されたみたいです。

  見直し案が決まる

 分類区分の変更はなく、❶赤血球系・造血不全疾患(再生不良性貧血、溶血性貧血等)、❷血栓・止血疾患(血小板減少性紫斑病・凝固因子欠乏症等)、❸白血球系・造血器腫瘍疾患(白血病、悪性リンパ腫、多発性骨髄腫等)に変更されました。

 そして、3つの疾患群ごとに、障害等級に見合うように「A表」(臨床所見)と「B表」(検査所見)で「Ⅰ、Ⅱ、Ⅲ」を区分しています。これまでの「B表」に「3つ以上の所見に該当するもの」が「1つ以上に該当するもの」でよいとされたため、各疾患での各等級が一本化された。そして、「A表」「B表」の評価のほか様々なことを参考として評価するとして「総合評価」について規定しました。びっくり

 主要症状に、診断書との整合をとるため、「発熱」を自覚症状に追加し、「易感染性」「出血傾向」「リンパ節腫脹」「肝腫」を他覚所見に追加し、女性特有の「月経過多」や血栓疾患の症状を表す「血栓傾向」等を入れ、検査については、画像検査を追加し、総合認定の内容を入れています。目

 ❶では、貧血の程度の把握では「赤血球数」を削除し「ヘモグロビン濃度」のみとされ、造血器不全の評価に「網赤血球」を加え、数値には再生不良性貧血・重症度分類も参考に定められました。白血球は「好中球」を用い、検査数値はJCCLS(日本臨床検査標準協議会)の共用基準範囲に合わせ変更されました。

 ❷では、「A表」に「血栓傾向」を追加し「凝固製剤因子を輸注」を「補充療法を行っている」へ変更し注意書きを入れ、ITP(特発性血小板減少性紫斑病)に関する評価項目は「出血傾向」、「B表」の「出血時間」「血小板数」を評価項目にすると、「B表」では、凝固因子欠乏は「APTT」に「PT(プロトロンビン時間)」を加え、先天性血液凝固因子異常症の評価項目に「凝固因子活性」を追加、検査数値はWFHの重症度基準とし、補足で「因子のうち最も数値の低い因子を対象とする」とし、凝固因子欠乏症で「インヒビター」が出現している状態及び凝固第Ⅰ因子(フィブリノゲン)が欠乏している状態の場合は、「B表」によらず「A表」、治療及び病状の経過、具体的な日常生活状況等を十分考慮し総合的に認定するを追記し、関係団体からの意見を反映させたものとしました。

 ❸では、「A表」の「易感染症」を「易感染性」に変更し、評価項目を「治療に反応せず進行するもの」など治療を視点とするものに変え、補足事項に「治療」とは疾病に対する治療と定義、その副作用による障害がある場合、CTCAEのグレード2以上の程度を参考とすることを追記し、認定基準にCTCAEを抜粋して掲載している。「B表」では、Ⅰ、Ⅱ、Ⅲに重症度を示す検査数値をあげています。

 最後に❹「造血幹細胞移植」を行った場合の規定を入れ、慢性GVHDの認定は「日本造血細胞移植学会」作成の「造血細胞移植ガイドライン」の臓器別スコア及び重症度分類を参考にして、併合(加重)認定の取扱いは行わず、総合的に認定するとして、「造血細胞移植ガイドライン」の抜粋を付けています。また、経過観察期間については腎臓や肝臓移植を参考に術後1年間は従前の等級とする規定を加えたものとなっています。本ラブラブ

 

次回は、このような改正経過を踏まえて、実際の社会保険審査会の裁決から障害認定について書いていこうと思います。バイバイ