前回、その他の疾患による障害(認定基準はコチラを参照。)の社会保険審査会の裁決から「人口肛門造設と尿路変更術の施行」に関係する再審査請求事件について書きましたが、今日も社会保険審査会の裁決から具体的な認定の内容を見ていこうと思います。ウインクOK

 今回は、「遷延性植物状態」の認定要領に絡む再審査請求事件を書きます。この事件は、同一傷病で障害認定日による裁定請求を4回行い、1回目の請求は「障害認定日が未到来」との処分で最後は社会保険審査会が「棄却」の決定をして処分が確定し、2回目は障害認定日(1回目とは別日)による請求で1級の障害給付の支給決定を受けたものだが、3回目はまた障害認定日の請求を行ったものの「認定日未到来」として再度支給しないとの処分が出て、4回目は、同じ傷病で再び障害認定日による請求を行い、この請求は「重複請求」に当たるとして裁定請求却下の処分を受けて、社会保険審査官に対する審査請求を経て再審査請求された事件です。(裁決の内容はコチラを参照してください。)

 この方の傷病は「もやもや病、脳梗塞及び脳出血」です。

 この事件での視点は❶重複請求にあたるのか?❷3回目の処分後に認定基準の改正があった。❸遷延性植物状態とは?の3つです。これについて以下見ていきましょう。

  ❶重複請求に当たるのか?

 社会保険審査会は、傷病により障害の状態にあることを理由とする障害給付の請求につき、既に処分がされ、これが確定している場合に、同一の傷病により障害の状態にあることを理由に、同一の内容の裁定を繰り返し請求することは、処分の形式的確定力に反する上、裁定請求の濫用とも考えられることから、原則として許されないものと解されるが、既になされた処分について実質的に再検討を要すると認めるに足る新たな事実や資料に基づいて裁定請求がなされ、裁定請求の濫用とも言うべき事情も存しない場合には、従前に行われた処分に裁判におけるような既判力が認められているわけではないことから、その請求は例外的に許されるものと解するのが相当であるとしています。口笛

⇒つまり、「認定日未到来」として1回目と3回目の請求で処分は確定しているにもかかわらず、4回目も同じ障害認定日で裁定請求しているので、保険者は「重複請求」であるとして裁定請求を却下しているのですから、一見妥当な決定のようにも思われます。えーむかっ

  ❷認定基準の改正があった。

 しかし、3回目の請求後の支給しないとした処分の後の平成26年6月1日に認定基準の改正が行われ、「その他の疾患による障害」に「遷延性植物状態」の認定要領が新たに加えられました。社会保険審査会は、4回目の請求は、この改正後、同じ現症日の診断書だが平成〇年〇月〇日付けの診断書が提出され、さらに、平成〇年〇月以降、平成〇年〇月まで「遷延性意識障害が続き、有意な反応がない。ずっと入院中。」とする代理人作成の書面が提出されるなど、3回目の処分後の事情に関する資料が提出されていることもあり、これらは、障害の程度を認定すべき時期を判断する上で検討に値するものと評価できるとして、「重複する請求であるとして却下するのは相当でないと考える。」としています。びっくりキューン

(ここで1つ疑問はあります。それは、認定基準が改正される前の障害認定日の認定を改正後の認定基準で認定できるのかという疑問です。法令は基本的に法改正前に遡及して適用されないのが通常で施行日を規定しています。しかし、認定基準は法令ではなく通知ですから、この通知には「別紙3(遷延性植物状態)は、平成26年4月1日より適用する。」とありますが、この点については触れられていません。平成26年4月1日以降の障害認定日から適用するとは書かれていないので、新たな認定基準により認定できると解されたのかな?)キョロキョロあせる

  ❸遷延性植物状態とは?

 また、認定基準には遷延性植物状態について、「障害の程度を認定する時期は、その障害の状態に至った日から起算して3月を経過した日以後に、医学的観点から、機能回復がほとんど望めないと認められるとき(初診日から起算して1年6月以内の日に限る。)」とされているだけで、遷延性植物状態について具体的に書かれていません。本

 遷延性植物状態については厚生年金法施行規則第47条の2の2第1項第10号及び国民年金法施行規則第33条の2の2第1項第10号に遷延性植物状態とは、意識障害により昏睡した状態にあることをいい、当該状態が3月を超えて継続している場合に限る。」と定められています。メモ(これでもよく分かりませんよね?)

 社会保険審査会は、平成〇年〇月〇日に両側脳室ドレーンを抜去したが、脳室は拡大した状態にあり、同年〇月〇日において、両上下肢の各関節の筋力は全て消失し、上下肢の動作は「一人で全くできない」とされ、遷延性意識障害、四肢麻痺の状態にあって、医学的観点から、これ以上の機能回復はほとんど望めず、根本的治療方法がない疾病であり、今後回復は期待できないと診断されて、その後も遷延性意識障害が続き、有意な反応がない状態であると認められるとして、初診日から1年6月以内で重度意識障害となった日から3か月以上経過した後の平成〇年〇月〇日の時点において、遷延性植物状態にあり、医学的観点から、機能回復がほとんど望めないと認められる状態であったというべきとして、同日を障害認定日と認めるのが相当と判断しています。照れ音譜

なお、障害等級は保険者が1級と認めています。

遷延性植物状態について注意

もっと具体的に書きますと、「遷延性植物状態」は、次の①~⑥に該当し、かつ、それが3月以上継続しほぼ固定している状態のことを言い、遷延性植物状態(障害認定日)の起算日は、診断基準の6項目に該当した日になるそうです。

 <遷延性植物状態の診断基準の6項目

①自力で移動できない 

②自力で食物を摂取できない 

③糞尿失禁をみる 

④目で物を追うが認識できない 

⑤簡単な命令には応ずることもあるが、それ以上の意思の疎通ができない 

⑥声は出るが意味のある発語ではない

 

※障害年金を請求される場合は、この点を主治医と相談してみてはいかがでしょうか?

 次回は、「難病」の裁決から書いてみます。ニコニコOK