境内の春 8M  油彩画

Spring in the Temple Ground  45.5x27cm  oil on canvas

 

 

 

 

 

 

さくら さくら

弥生の空は 見渡すかぎり

霞か雲か 匂いぞいずる

いざや いざや 見にゆかん

 

 

 

昔小学校で習った歌はこのような歌詞であったように覚えているが、この歌は一度昭和十六年に文部省によって「うたのほん」(下)で次のように改訂された。

 

さくら さくら

野山も里も 見渡すかぎり

霞か雲か 朝日に匂う

さくら さくら 花ざかり

 

私はどっちで習ったか実のところよくは覚えていないが、今は改訂後の方を学校教育では採用しているらしい。

 

何となくではあるが、私は最初の方が格調高いように思える。たしかに

 

匂いぞ出ずる

 

 

いざやいざや 見にゆかん

 

は小学生には難しいかもしれないが、ほんの数年たてばこれぐらい理解できるようになるだろうし、元の方が音楽的であるように思えるのだ。ローマ字表記して比較してみると

 

A. NIOIZO IZURU

B. ASAHININIOU

 

また、

 

A. IZAYA IZAYA MINIYUKAN

B. SAKURA SAKURA HANAZAKARI

 

母音を意識して口を動かしてみると、これはもう感覚の世界であるが、なんとなく元の歌詞の方が流れやリズムが良いように思えるのだ。

 

またいざや、いざやの方が

 

「さあ、これからあの美しいさくらを見にゆくぞ」

 

といったニュアンスが感じられ、劇的である。

 

 

 

 

 

同じように改訂されている春の歌がある。

 

<春の小川> 高野辰之:文部省唱歌

 

春の小川はさらさらゆくよ、

岸のすみれや、れんげの花に、

すがたやさしく、色うつくしく、

さいているねと、ささやきながら。

 

 

この歌はたしかこのように教えられたように思う。しかしこれも元歌があって、そちらは、

 

 

春の小川は さらさら流る

岸のすみれや れんげの花に

においめでたく 色うつくしく

咲けよ咲けよと ささやく如く

 

 

 

なるほど、さらさら流る、や ささやく如く は語感的に硬いし小学生にとっては難しいかもしれない。しかしこの改訂版には致命的な欠点がある。意味が通っていないのだ。

 

 春の小川は、岸のすみれやれんげの花に「すがたやさしく色うつくしく、さいているね。」とささやきながら(どこかへ)ゆく

 

一瞬落語の「頭山」のようなナンセンスでシュールな光景を想像してしまう。言うまでもなく、小川の水がさらさらと流れるのであって、小川はどこへも行かない。

 

 

 春の小川は、岸のすみれやれんげの花に「匂いめでたく色美しく、咲けよ咲けよ」とささやくように、さらさらと流れる。

 

 

改訂版かオリジナルか、どちらが良いかは聴く人が判断すればよい。私は、少々難しくてもできれば元の歌詞のまま小学生に教えてほしいと思っている。

 

 

<参考文献:日本の唱歌(金田一春彦:安西愛子)、教科書から消えた唱歌、童謡(横田憲一郎)>