ちょっとした冒険② | 鼻たれ小僧とタイツ足

鼻たれ小僧とタイツ足

懐かしき小学校時代

男の子がタイツを穿いてても当たり前だった

突然‼ あの頃の事を思い出してみたくなった

地元駅に着いて、大切なものを守るように袋を抱きかかえたまま、M君の家の前で別れた。

母に「何買ってきたの?」と訊かれても「模型の部品だよ」と受け流して、そそくさと親のいない部屋へ入りタイツのパッケージを開けた。なぜか誰にも見られちゃまずいと思い、紙の部分と外側のビニール袋を分けてゴミ箱に捨てた。表記されている内容を覚えていたり、もし可能なら、今まで保存してたとしたら、本当の宝物になっているはずだ。

そしたら、やっぱり足を通してみたくなる。ハイソックスを脱ぎ、半ズボンも脱ぎ、タイツを穿いた。爪先から踵までのサイズもちょうどいい、長さも、あのダブルのマチ線が、半ズボンの裾に隠れるくらいだし、厚ぼったい生地が両足を包み、立ち上がると膝に皺が少しだけ寄る(新しいので少しだけ)。充実した気分とでも言うか、今としてはそれしか思い出せない。

 

鎮守様の秋祭りには、M君も、かつてのタイツ団の連中もみんな、模様こそ違えど白のハイソックスを穿いていた。当時の男の子は、黒白長短様々な靴下を穿いていた。でも、4年1学期までタイツを穿いていた我々の仲間は、夏の暑い時期以外、ほとんどの場合白ハイソックスを穿いていた。少しでも足にまとわりつく物を欲していたのだろうか? (ライダー少年隊の感じだ

次の日曜、天気が良ければ決行、午前中の電車に間に合うよう、黒タイツを穿いたM君が、僕んちに誘いに来たら、僕もさも当たり前のようにタイツを穿いて出かける。そんな約束をした。

 

3~4日開けて日曜が来る。そんな感じだったか?

駅まで自転車で行くとして、道すがら誰かと会わないかな?日曜だし同じ電車に知ってるヤツらが乗ってこないかな?動物園で家族釣れで来てる誰かと会わないかな?長靴下なら、サッとずらせれば誤魔化すこともできるんだがな、タイツじゃそうもいかないし。

僕は心配した。

それでも、別に悪い事してるわけじゃない、付属校の子らも、冬は黒タイツだし、誰と会っても堂々と、「よそ行き用だから、別にいいだろう」と言い返してやる。

そういう強気の部分も頭の半分を占めていた。

 

土曜日M君が言った。「お前も色々と考えただろう?僕も同じだよ。今日家に来ないかい?どうせ帰りは暗くなるしお前んち近いし、肌色タイツ穿いて靴下も履いて来いよ。予行演習だ」

半ドンで終わって、肌色タイツに紺の靴下を穿いて、ゆっくり目に家を出た。

母に「誰かに嫌がらせ言われたんじゃないの、大丈夫?」と聞かれたが、大丈夫だと答え、家を出た。

M君のお母さんには「まあPolo君、いいわよ子供らしくて、まだ4年生だもんねえ」と褒められたのやらどうやら複雑なお言葉を頂戴した。M君も肌色タイツに紺靴下を三つ折りにしていた。

あーだこうだ言ってても時間は過ぎていく。

取り留めのないお喋りしかできなかった。上級生や知ってるヤツに会ったら、よそ行き用だからと答える事で押し通すと決めて、翌日曜09時代の電車で行く約束をし、M君ちを後にした。

駆け足で家まで帰った。途中同級生U君に会ったが手を挙げて”おう”と挨拶しただけで、そのまま走った。薄暗くなっていたせいもあり、何も気づかれはしなかった。

 

興奮してなかなか寝付けなかったんだったか、遠い昔の記憶だが、子供である。朝は8時には目が覚めた。駅までは5分とかからないが、朝ごはんを食べトイレも済ませて、少し待ってるとM君がやって来た。紺の半ズボンに黒タイツ、白いズック靴だ。「すぐ用意するから」と、僕も同じくタイツを穿き、紺の半ズボンに青いズック靴を穿いた。二人並んだ黒タイツ少年を見た母も「気を付けて行くのよ」とだけ言った。

M君が自転車で来てたので、僕も自転車を出し、時間には余裕があったのだが、駅までほとんど達漕ぎで走った。自転車置き場に突っ込み、待合で切符を買う間、ホームに出て電車が来るまでの間、すごく緊張してたんだっけ。ホームには、大人のミニスカートのお姉さんや、下級生を連れたお母さんやら5~6人はいたんだったか、上級生及び同級生はいなかった。まずはセーフだ。電車で7駅目で中心都市に着く。僕は、約30分の間に、何も起こらないように祈る気持ちでいたが、M君は意外に開き直った感じでいた。すいている電車のシートに、靴を脱いで片膝を抱えるようにして爪先を見せている。僕も同じ物を穿いているのだから同じなのだが、つい目が行ってしまう。M君は何度も爪先の部分を引っ張ったり、踵の部分を摘まんだりしていた。降りる駅に着くまで、嫌な事は無かった。途中駅から乗ってきたよその学校の上級生もいたが、チラッと見ただけで、何か言ってくる訳でもない。自分たちの世界に没入したまま、降りる駅に着いた。

 

駅からはバスに乗り換え、2つ先がもう遊園地&動物園である。バス停で待っている時、ふと声を掛けられた。「あなた達、付属の子なの?」と同い年くらいの女子3人がいた。「君たちはどっから来たの?」とM君。「私たちは〇〇市だよ」「で、何かよう?」「ううん、黒タイツでいるから、付属の子かと思ったの、付属って制服が半ズボンに決まってるから寒くなると、タイツ穿くんだって近所の子が言ってたから、ちょっと聞いてみただけよ、私たちの同級の男子はもうタイツ穿いて来なくなったし、そうかなぁと思って、ごめんなさいね」別の子が「ねえ、付属の子だよねえ?」と言った。「まあそうだけどな」とM君は答えた。彼女たちは3人とも肌色タイツに白いソックスだった。「じゃあね」「おう、気を付けてね」彼女たちは、デパートの方へ去っていった。

 

遊園地と動物園でいる間、何も起こらなかった。全然違う学区なのだ。”よそ行きだから”と言い張る必要もなかった。家族連れで来ているよその学校の同い年くらいの男子もいくらかはいたが、遊具の順番待ちで後ろにいても、なんの反応も示さなかった。段々と度胸が出てきたと言うか、夢中になって遊ぶことができた。気付けばお互い、タイツ膝にいっぱい皺を寄せ、靴を脱げば、爪先はびろろーんになっていた。ベンチに座り、爪先を直し、太ももの部分を引っ張り上げ、園を出、バスに乗って駅まで行った。

 

これから、家に帰るまで、まだ緊張は解けない。切符を買って、時間まで待っていると、「あれ!」と声がする。振り向くと、同級のU君と6年になる彼の兄さんと母親がいた。

「え、二人とも黒の”うソックス”じゃん、カッコ悪かないか?」とU君。「そんな事言うんじゃないよ、子供らしくていいじゃないよ」と、母親がたしなめる。

「いやまあ、これはよそ行きだと思って穿いてるんで、しょうがないんですよ」と僕が答える。

「人が着てる物とか、言ってもしょうがないだろ、まだ4年だし別にどうってことないよ」

と彼の兄。U君も「ハハハ」なんて苦笑いを始めて、帰りの電車は4人掛けのボックス席に片側に彼の母親と兄、片側には、U君、僕、M君と3人で座って地元駅まで、帰ることとなった。

 

よくあること事だか?シートに座っていても、U君は、隣に座っている僕のタイツに興味深々だった。

「新しいやつか?ちょっといいか?」と嘗め回すように見ている。何度も膝のあたりを触ったり、足が蒸れると嫌で、靴を脱ぐと爪先や踵のずれを見つけて指摘したりした。

「けっこうタイツもいいもんだよ、今頃の季節はちょうどいいんだぜ」M君が言ってやった。

「でもな、みんなが”うソックス”ってからかうだろ?」

まあそのとうりで、僕らも希望を絶たれたのには違いないのだ。

 

U君親子と会った事が結局いい出来事になり、さほどの緊張も地元駅まで帰ってこられた。

かくしてM君と僕の小さな冒険は無事終える事ができた。

今思えば、それ以後、よほどの理由が無ければ、あからさまにはタイツを穿いて外出できなくなってしまった事が、悔やまれる。