「夏はいいけどね」
しおんは椅子に腰掛けて、外を見た。
ウォーターバイク、水上スキー、ヨット……。
北に行けば福井に原発、逆の方向に天橋立があるし。
そこまで言うと、ケタケタ笑った。
「あいつ、麻里に声かけてきた?」
「誰?」
「福山」
「私が声かけた」
「あのさ、福山って、麻里とアヴァンチュールってやつじゃないよね」
麻里はすぐに頷いた。
ふと、高志の背中が交錯した。
「遠鉄の写真のこと覚えてる?」
しおんは言った。
「うん」
淡い思い出が麻里の胸のなかでわきおこる。
そういうぶきっちょなところが懐かしい。
「あいつ、もっとズルくならなきゃダメよ」
麻里は壁にもたれてロッカーの上を見ていた。
「……あのさ、しおん」
「ん?」
「あいつ、充分ズルいと思うわよ」
麻里はアゴでジッポーライターとメンソールのタバコの方をしゃくる。
浅子さんが持ってたヤツだ。
麻里はまた浅子に腹を立てていた。
しおんはこのことは知らない。
「どういうこと?」
「私、関係ないし、でも、なんかムカつく」
多分、二人はできてるんだろう。
素直に祝福する気には到底なれない。
あいつ、告ったんだ……。
浅子さんに。
「私、今日で探検部やめるわ」
麻里は机の上に集めた思い出の品をダンボールに放り込んでいった。
「何怒ってるのよ」
しおんは仰天していた。
麻里はそのまんま、ダンボールを担いで焼却炉にそれを放り込んだ。
「ざまあみろ」
麻里は笑い始める。
彼女の隣でボケっと突っ立っていたしおんが「あっ、福山だ」と声をあげた。
「二人とも何してるの?」
12月の寒さのなかでも焼却炉の炎は勢いよく燃え盛っていた。
「あのさ、福山っ!」
「小寺っ、今度は何?」
「何で部室にジッポー持ち込むかなあ」
「あれは」
福山は麻里から目をそらした。
「浅子さんとデート、楽しかった?」
麻里は不敵な笑いを見せていた。
「いや、してないし」
「いや、したよ」
「俺、高志じゃないし」
「そんなの関係ないっ!何で私の前で悔しがらなかったワケ?」
「は?」
すでに麻里の空想力は勢いよく燃え盛っていた。
しおんはあたかもモニュメントの如く硬直していた。
「どういう……?」
「あんな女がいいの?福山っ!たぶらかされてるのよっ!」
福山は仰天していた。
「えっ!」
麻里は突然、手にしていた国土地理院の25万分の1スケールの地図を手にして、目を閉じていた。
「あの女の策略に引っかかってどうするの?」
「いや、先週の小寺は、浅子さんとどうなったの、とか……」
麻里は地図で福山の胸を叩いて、
「言ってない!」
「おいっ、これ高いんだぞ、勝手に燃やすなよっ!」
「しおん……」
麻里は乾いた声で言った。
「ダンボールの中の地図、全部出して……」
「えっ?」