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それがプラトニックな友情であれ、

福山と麻里の関係が進むことを何故か毛嫌いしていた。

しおんはある時期からそれを自覚していた。


なぜだろう、なぜかしら。


おぼろげに抱いていた福山司郎に対する、小さくて黒い嫌悪。


それは初期段階でジョークのあたりを行ったり来たりしていたミジンコのごとき存在だった。

やがて水たまりのミジンコが、情念とか嫉妬の熱量を得た時、そいつは巨大なモンスターと化す。


しかし、麻里が高志と半同棲の形になると、ふとした拍子に福山司郎自身の存在を、地上から抹殺してしまいたい……といった、エゲツない感情が高ぶるのだ。

高志と福山はすこぶる仲がよい。

麻里を偏愛するしおんの絶妙な自己欺瞞が、この関係のない第三者への嫉妬が関係しているのかも知れない。


しおんの、心の中のミジンコはやがて成長するのである。


福山はそんなしおんの感情を見透かしているのを、彼女は薄々感じていた。


……ふてぶてしい男だ。しおんはいつも思う。

しおんの抱く、福山の存在に対するサディズムとでも言おうか。

しおんは自分こそが麻里の真の理解者だと思っていた。

だが、今、福山は麻里の心をなぜかしらとらえている。

しおんはプラトニックに福山に嫉妬していた。

麻里の心を一番理解しているのはこの私だ。

しおんはそう思っていた。


       ★


麻里はコンクールのその日、会場にいた。

スケジュールの前半が終わり、既に高志は帰途についていた。

控え室に麻里が顔を出したのはその直前だ。

途中、海外からと思われる関係者と顔を合わせた。

彼女が高志を、見つけた時、彼はウインクした。

麻里は頷いた。

二人はそのまま、人の渦にのまれて離れ離れになった。

麻里は仕方なく会場を出た。

ロビーで福山の姿を見た。

一瞬、バツの悪い気分になった。