変身


東野圭吾著 講談社文庫


彼が変わっていく。少しずつ、でも確実に、変わっていく。


平凡な青年・成瀬純一をある日突然、不慮の事故が襲った。そして彼の頭に世界初の脳移植手術が行われた。それまで画家を夢見て、優しい恋人を愛していた純一は、手術後徐々に性格が変わっていくのを、自分ではどうしようもない。自己崩壊の恐怖に駆られた純一は自分に移植された脳の持ち主(ドナー)の正体を突き止める。


  人間の精神構造の中に’意識’というパートがあり、これは氷山に例えると海の上に出ている部分を指す。海の浅い部分に隠れているパートは無意識(潜在意識)と呼ばれる部分であるが、さらに深い部分には阿頼耶識というパートがある。そして人が自分自身を意識しているのはその海面から突き出た10%程度に過ぎず、実はその何十倍もの潜在している意識が、海面下に存在している。そして人間はいつも理性により自己の精神をコントロールしている。

  文中にある問いかけだが、人間の脳を完全移植した場合にはその人間は’誰’になるのだろう。肉体を持った人なのか?脳を提供した人なのか? それではその割合については?他人の脳の一部を移植された人は100%、その人本人と言えるのかどうか?

  

  殺人犯の脳の一部を移植された主人公の無意識の中に存在する幼児時代のストレスと殺人犯の凶暴性が共鳴して徐々に人格が変化して、凶暴性を帯びてくる。 一般人でも時に、自己の中の凶暴性を感じることがあると思う。それを理性でコントロールしていれば常人であり、コントロールできない人間が犯罪者となる。自分にある潜在意識の波長をあらためて感じ、若干ではあるが冷や汗が出た、人の精神構造と自己の人間性を考えさせられる作品。


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少し表現が怖い記述もある。