容疑者Xの献身

東野 圭吾  文芸春秋

  東野の最終学歴は大阪府立大学電気工学科卒。エンジニアとしてサラリーマン生活も送ったようだ。理科系の学生はこれほど優秀なのか?’容疑者X(エックス)の献身’に登場するいくつかの数学理論は雲の上どころか大気圏を超えるような衝撃を受ける。 
  
  文中で数学教師石神が微分・積分が何の役に立つという生徒の抗議に対して、石神(東野)はこう答えている。
  「お前はバイクが好きだそうだな。オートレースを見たことがあるか?」
  「レーサーたちは一定速度でバイクを走らせるわけじゃない。地形や風向きに応じてだけでなく、戦略的な事情から、たえず速度を変えている。どこで我慢し、どこでどう加速するか、一瞬の判断が勝負を分ける。」
  「この、加速する度合いというのが、その時点での速度の微分だ。さらにいえば、走行距離というのは、刻々と変化する速度を積分したものだ。レースの場合は当然、どのバイクも同じ距離を走るわけだから、勝つには速度の微分をどうするか、というのが重要な要素になってくる。」
  「レーサーは経験と勘で勝負しているだろうが、レーサーをバックアップしているスタッフはそうじゃない。どこでどう加速すれば勝てるか、綿密にシュミュレーションを繰り返し、戦略を練り上げる。そのときに微分・積分を使う。」
  そして、生徒に対して
  「俺が君たちに教えているのは、数学という世界のほんの入り口にすぎない。そこがどこにあるのかわからないんじゃ、中に入ることもできないからな。もちろん、嫌な者は中に入らなくてもいい。俺が試験するのは、入り口の場所ぐらいはわかったかどうかを確認したからだ。」
  少なくとも自分は入り口には立てなかったか?これでも理科系志望だったが。 思い起こせば、株式を短期売買で運用した方がいいのか?、長期運用したほうが儲かるのか?を数学て証明した経済学者がいた。どうやって証明したのかね。まずは、東野の数学ワールドを堪能しよう。
 
 舞台は森下や清澄白河や篠崎、瑞江。自宅にも近くてこれほどの臨場感は土地のものしかわからない。健気に生きる花岡母娘に忍び寄り、纏わりつく、前夫富樫。ようやく手に入れたちっぽけな幸せな母娘の家庭をハイエナのような富樫が舌なめずりをしながら探し当てた。追い詰められた母娘の衝動的な殺人。その殺人に隣人の数学教師石神が助け舟を出す。論理的なアリバイづくりが石神の頭の中で構成され、迷宮入りに入ると思われたときに、同じ大学の同級生ー物理学助教授湯川が石神のシナリオを少しづつ狂わせていく。それはあたかも事件を通して、石神と湯川のトリックの仕掛けと解明の頭脳競争だ。それは ’P=/NP問題 自分で考えて答えを出すのと、他人から聞いた答えが正しいかどうかを確かめるのとでは、どちらが簡単か?’という命題のようだ。
 花岡母娘の殺人に至った背景を考えれば、永遠に警察が犯人を特定できなければと思うが、東野への挑戦として自分も刑事の側にたって、花岡母娘と石神のトリックを解明すべくのめりこんでいく。



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ますます面白い東野ワールド