自然観察の指導者向けの研修会をやっていて、いつも思うことがある。それは「観察力」とは何かということ。
たとえば、参加者に自由にフィールドを歩いてもらい、そこで自分が「面白いな」と思った事柄について話してもらうという場面があるとする。
そういうとき、いろいろなことに気づいてフィールドの中から多くの情報を拾える人と、反対に、ほとんど気づきがなくて、情報を拾うことができない人がいるのだ。
それは、ひとつにはその人の自然や生き物についての知識の量に関係している部分もあるだろう。しかしそうとばかりも言えない。知識がなくても、その人の目の付け所の良さで、いくらでも面白い情報を拾ってくる人だっているのだ。
「何かに気づく能力」というのは、映像や音声を知覚する能力とは別物のようだ。そして「気づく力」のことを、なんとなく「センス」とか「感性」とか「視点」というような言葉で表現してきた。
こんな素人の経験則に対して、しっかりとした解説をしてくれたのが標題の本だ。
この本は、神経内科が専門の著者が、脳梗塞などで脳に損傷をきたしてしまい認知障害を起こした人の治療やリハビリを行ってきた立場から、人が何かを「わかる(認識する)」ということはどういうことなのかについて、専門用語を使わず優しく解き明かしてくれている。
そして、気づく能力だけでなく、「整理してわかる」「筋道だててわかる」「空間がわかる」「関係性がわかる」「仕組みがわかる」など様々なタイプの分かり方について解説してくれている。
直接自然について書かれた内容ではないが、人が何かを学習するときのメカニズムが、豊富な例を交えてわかりやすく紹介されているので興味深い。
「生物多様性のような概念がどうしたら伝えられるか」
「ひとつの土地をわかるとはどういうことなのか」
「自然学習や環境学習の中で体験の意義はどんなところにあるのか」
など、教育に関心のある自然観察のリーダーには興味深い内容になっていると思う。