娘の小さな異変に気づき、近所の森を娘と散歩することから始めたぼくのトコロジスト生活は、その後畑を耕すことを通して場所とのかかわりが深くなり、幼稚園を拠点にした活動を通して、次第に地域社会とのつながりを濃くしていった。

その経験から、フィールドを持つことは、もしかすると家庭、地域、仕事と、それまでバラバラだったことをつなげていくきっかけになるのではないかと感じた。

  ボクは、幼稚園を活動場所にしたことで、パパ友のネットワークが一気に広がった。仕事帰りに近所のパパ友たちと一緒に飲みに行ったりすることも多くなり、趣味の話、子育てや地域の話、仕事や社会のことなどなど、話題はいろいろな方向に飛んだ。

それまでボクは、比較的同業者の人たちとの付き合いが多かったのだが、パパ友を通じて異業種の人たちと付き合うようになってみて、その面白さに驚いた。


仕事の中だけの人間関係にどっぷりつかっていると、同種の人との付き合いが多くなるので、お互いの意思疎通はしやすいが、その反面煮詰まることも多い。


ところがまったく違う業種の人たちと親しく付き合っていると、今まで思いもしなかった考え方が見えてきたりして、自分の中に幅が生まれてくるような気がした。

ちなみにボクがよく付き合っていた人たちは、自動車メーカーや自動車部品、家電メーカー、半導体、薬品業界、補聴器メーカー、ホテル業、水質調査、教師、整体師、庭師、カメラマンなどなど、実に多彩だ。

でもやはりその中でも一番変わっている職業だったのはボク自身かもしれない。自然保護NGOなどという職業自体、彼らにとっては未知のものだったに違いない。


パパ友たちとの付き合いは、次第にボクにとってなくてはならない、得難いものとなっていった。


さて、膨らんでいくボクのプライベートの生活は、巡り巡って今度は仕事に帰ってくるようになった。


大きかったことは、異業種のパパたちとの交流や地域の人たちとの交流で得た感覚は、そのままボクの生活者としての感覚となり、仕事の中で新しい企画を提案することもでてきた。


特に、自分と同じ立場の子育てに熱心なお父さんを意識した企画は仕事上でもボクの大切なテーマになった。


逆に仕事の中で考えたことが今度は地域活動の中に還元されるといったこともあった。また、プライベートで付き合っていたパパ友が仕事上の付き合いになっていった例もある。こうなると、いったいどこからが仕事でどこからがプライベートなのか線を引くのが難しい状況になってきた。


プライベートと仕事をはっきり線引きしろという人が多いが、ボクはこの線引きがあいまいな状況がとても気にいっている。


しょせん1人の人間の時間なんて限られている。それだったら、フィールドを介して、仕事も子育ても地域活動も生涯学習もすべてつながっていた方が効率はいいはずだ。フィールドを軸に自分の生活と仕事をデザインし直すことで、思ってもみなかった人生が開けてくるものだと思う。


もちろんボクの場合は仕事が特殊といえば特殊だったので、たまたまラッキーだった部分があったかもしれない。しかし、それを差し引いたとしても、どんな仕事であれ仕事とは違った人間関係をもつことは視野を広げてくれるはずだし、それは必ず仕事にも反映されるものだと思う。


そうした人間関係をどのような方法でもよいので広げていけばいいのだが、できれば自分が住んでいる地域のフィールドを軸にすることができれば、そこに家族や子どもも巻き込みやすいはずだ。


このようにして、フィールドを介して仕事もプライベートも充実させていくことがトコロジスト生活のよいところだと思う。