去年一年、コロナにさんざ振り回された大衆演劇界。

ようやく落ち着いたかと思いきや、年明け早々、首都圏近辺は再度の緊急事態宣言にて

公演の短縮や中止に追い込まれる所も・・・

 

ただの観客である私も、勤務先がいろいろシャレにならん状態になり、

正直、あんまし観劇どころではない身の上になってしまい(泣)

 

そんな中の2月16日。浅井正二郎様のお父様・浅井清さんのご命日に

お父様がよく演っておられたという珍しい芝居を、一日限りで復活上演するとの知らせが!

しかも昼の部は正二郎様が主演!!!

このチャンスを逃したらもう二度と観られないのではないか!?と思い、

大変な中、万障繰り合わせ、どうにかこうにか大阪の地へと旅立ったのでした。

 

久しぶりに降り立った大阪の地。久しぶりの堺東羅い舞座。

座席は最前列がつぶされ、一席とばしの配置。珍しい演目のせいか、平日のわりには予約が埋まっていて

なんとか5列目あたりに席を確保。

やがて幕が開き「悲恋片羽鳥」の開幕となったのでした。

 

ストーリーはこんな感じ。

(※再演の可能性もあるので一応ラストは伏せてありますが、ある程度ネタばれがあるのでご承知の上でお読みください。

また、役名等は、耳で聞いた記憶のみなので間違っている可能性があります。ご了承のほどを)

 

<第一幕>

舞台は明治~昭和初期頃?

ある裕福な家庭の主・吉岡(春道)は、足の不自由な妹・妙(陽子)と二人暮らし。

馴染みの按摩を頼むと、いつもとは違う新人の陽気な按摩・吉造(正二郎)がやってくる。

まだ仕事に不慣れな吉造を見かねた吉岡は、あんまの代わりに身の上話をしてくれと吉造に頼む。

吉造は自分の不幸な生い立ち、両親に死に別れて栄養失調から盲目になってしまった事、お金があれば手術で目が治る事などを話す。

普段は人に心を閉ざしている妙が吉造の話に涙を流すのを見た吉岡は、吉造に妙と付き合ってやってくれと頼む。

盲ゆえにからかわれたと誤解した吉造は怒るが、吉岡の真剣な態度、眼を治すためのお金を出してくれるという言葉にほだされ、

妙と一緒になることを承知する。

<第二幕>

手術で眼が治った吉造はすっかり放蕩三昧となり、今日も今日とて馴染みの芸者・花千代(ゲスト・辰巳花)の手を引いて家に連れ込む。

出迎えた妻・妙に対して、吉造は殴る蹴る、髪を掴んで引きずり回す酷い暴力を振るい、花千代と一緒になるから出て行けと罵る。

見かねた兄・吉岡が妙を迎えに来るが、妙は吉造と一緒にいたいと兄の助けを拒む。

出て行かぬ妙をさらにさんざん打ちのめした吉造は、花千代の後を追って出て行ってしまう・・・

 

<第三幕>

なにやら怪しい風体の男たち(海斗、大空海ほか)。実は花千代は美人局の手先で、男たちはその元締めだった。

花千代の後を追ってやってきた吉造は、男たちにコテンパンに打ちのめされてしまい・・・

 

お父様・清さんの時代にかつてよく演じられていたそうですが、

女性に対する暴力描写がえぐ過ぎるなどの理由により、数十年間?ずっと封印していたそう。

実際に観て「いやー、こりゃ確かにえぐいわ」と思ったし(たぶん、センターで演ったらほぼ確実に客席から皿とか飛んで来そうなレベル)

現代ではちょっと引っかかるような差別的表現も多いのだけど

そんなことを吹っ飛ばしてしまうほど、吉造役・正二郎様の演技が凄まじく、ただただ圧倒されてしまったのでした。

 

この芝居の吉造は、第一幕はいわゆる「弱者」のキャラとして登場し、

社会から虐げられながらそれなりに頑張って生きているけれど、言葉や行動の端々にチラッと卑屈さがのぞく・・

そんな肌合いがなんともリアルで、

それが二幕、眼が見えるようになった途端「強者」として一気に調子こき、弱者である妻・妙をさんざんいたぶる様は

まるで今までのうっぷん晴らしのようでもあり、「もう俺はかつての弱者の側じゃないんだぞ」と確認する行為のようにも見え・・

 

そしてラスト、再び弱者に転落してしまった瞬間の、吉造の表情の凄まじさたるや!!!

説明的なせりふは一切ないのに、あの表情だけで、吉造のさまざまな激しい感情の渦が客席に一気になだれ込んでくる。

前の幕で「これ、こんなしつこくやらんでも・・」と内心思っていた暴力シーンは、この一瞬への長い前振りだったのか!!!

と思えるほど、それまでのすべてを納得させられてしまうものすごい芝居的オーラ。

 

幕切れ、引っ込みに浪曲の「壺坂霊験記」が流れるという、ある意味皮肉な演出もすごい。

 

演出のある種のどぎつさ等から「色々アバウトだった昔ならではの芝居」と思う人もいるかもしれないけれど、

私はむしろ「こんなに力量の要るお芝居をやってたなんて、昔の役者さんはすごかったんだなあ」と思ってしまいました。

あれだけのえぐい演出を客に納得させるって、相当の芝居の力とオーラがないとできないと思うので・・

かつての浅井清さんについては、私は残念ながら晩年の映像をチラッと見たことしかないのですが

おそらく非常にパワフルで力強い役者さんだったであろう事は、この芝居からなんとなく想像できたような・・

 

いわゆるコンプライアンス的には色々引っかかりまくりの芝居なので、今後上演されるかは全く不明ですが

あの正二郎様の芝居の凄さは、ぜひとももっと多くの方々に観ていただきたい!!

・・と、願ってやまない気持ちです。


 

 

正二郎様、終演後の口上。
カツラなしの地頭、ほぼ素顔に近いメイクで熱演。
役者魂をヒシヒシと感じた舞台でした・・👏👏👏👏👏👏👏👏👏👏👏👏👏

 

舞踊ショー「裏通り」
か、かっこいい・・・・

 

 大変な時期だけど来てよかった!と思いながら、大阪を後にしました。



 浅井グループ、3月は大阪府・梅田呉服座にて

たつみ演劇BOXとの合同公演です。

21日には故・浅井雷三座長の三回忌公演も。


まだまだコロナが収束したとは言えない状況ですが、

3月公演のご無事とご盛況を、心からお祈り申し上げております。