すっかりのご無沙汰でございます。

 

7月・浅草木馬館からスタートした浅井グループの関東5か月公演、8月・柏みのりの湯、9月・川越湯遊ランド・・・とすでに半ばをすぎ

現在は立川けやき座にて公演中です。

 

3月の浅井雷三座長の突然の逝去から、わずか数か月で乗る事となった関東の地。

劇団の皆さん、癒えぬ悲しみと複雑な思いを抱えて来られたであろう事を強く感じつつ、

関東ファンのほんの端くれですが、自分なりにできる限り応援をしようと決め

この三か月余りを観続けてきました。

 

劇団の皆さんの明るく楽しさに溢れた舞台に、

関東では新しいファンも順調に増えてきた印象でしたが

ただ一つずっと気がかりなのが、

雷三さんのお父様である総責任者・浅井正二郎様のご体調でした。

本当に素晴らしい役者さんでありますが、元々ご持病を抱えておられる上、ご子息・雷三さんのあまりに若すぎる急逝。

一時は引退までも口にされた状況だったので

果たして関東に来てくださるのか・・・?

舞台には立ってくださるのか・・・?

初日を見るまでは正直、なんともわからない状況でした。

 

しかし、木馬では初日から千穐楽までほぼ無事にご出演され、

次の柏では、誕生日公演で昼夜とも主役を務められました。

しかし新盆の明けた頃から、心身のご様子が目に見えて辛そうになっていくのが分かり、

9月の川越ではお姿が見えない日もあり・・・


そんな中、ほぼ事前告知なしに突然、9月半ばの休日の夜に正二郎様が主演をされたのがこの「親子時雨笠」でした。


この芝居はかつて正二郎様が修行された嵐劇団(現・たつみ演劇BOX)の古い芝居です。

お芝居の筋は・・

 

とある一家の代貸・文太郎(正二郎)は、親分の娘・お美代(まり)の誕生日祝いに

張り切って料亭で宴を開き、娘に言い寄るが、すげなくされて落ち込む。

そこに現れた、文太郎に惚れている芸者・千代(陽子)に口説かれ、文太郎は酒の勢いで一夜を共に。

やがて身ごもった千代が一家を訪ねてくる。千代の亡き父親の弟である親分(春道)は

文太郎に「責任取って千代と一緒になるか、それとも男修行の旅に出るか」と迫り

文太郎は男修行の道を選ぶ。

そして十年後、修行を積んで帰ってきた文太郎の目の前に、

子分にしてくれと志願する謎の小さな男の子・文吉(ゆきより)が・・・

 

かつて正研座時代に正二郎=文太郎、研二郎=千代、文吉=大空海、の配役でよく演じられていたそう。

(そういえば文太郎が千代に向かって「俺は小さい女が好きなんだ、お前みたいなでかい女は好みじゃねえよ!」みたく言う場面があって

え、陽子ちゃんってそれほど大きくないのに・・と不思議に思ったんですが

あれはおそらく研二郎さん(身長180㎝)が千代役の頃からの台詞なのかな?と)

 

正二郎様演じる文太郎は、冒頭の料亭の場面で

赤い手ぬぐいを顔にぐるりと巻き、ほろ酔い機嫌でフラフラっと軽快に登場。

その軽やかな身のこなし、高調子な切れのいいせりふで、若い文太郎の威勢の良さを客に強く印象付けます。

千代との軽妙なやりとり、戸を足でピシャッ!と閉めて悪態をつくイキりっぷりなど、見ていてほれぼれするほどの小気味良さ。

 

そして十年後、男修行を終えて戻ってきた文太郎は、前半とはガラリと一転。

低く渋いくぐもった声、見るからに貫禄と陰を感じるたたずまい・・・

すっかり海千山千の立派な侠客らしい姿に。

 

そこに現れたやんちゃな少年・文吉。(正二郎様の三男・ゆきより君が初役にて大熱演!)

しきりに子分志願してくるこの子を、うるさいガキだと追っ払おうとする文太郎だが、

そこにあの千代が現れ・・・

 

この芝居を見た事ない人も、もうこの後の展開は大体察しがつくかと思いますが・・

 

(注・ここからはラストまでの詳細が書かれてますので、読みたくない方は飛ばしてください)


一番の見せ場はこの、文太郎・千代・文吉が再会する場面。

向こうっ気が強く手前勝手な若者だった文太郎が、

文吉の存在、そして千代の言葉により

男として、そして父親としての心に少しづつ目覚めてゆくさまを

正二郎様が繊細な表情の変化(特に目の動きが本当に素晴らしい)と仕草で、じっくり、じんわりと客席に見せてゆきます。

 

ラストシーンは「冬牡丹」の曲が流れる中、

文太郎が千代を抱きしめ、文吉を抱きしめ、そして我が子にお父っつぁんだと名乗る・・・

この間、台詞は一切なし。

親子三人が寄り添って花道を去る幕切れまで、全てをしぐさだけで見せるこの場面は

普通に演じるよりも一層ドラマティックで、観客の涙を誘います。

(これは正二郎様の師匠である故・小泉のぼる先生の演出だそうで

たつみ演劇BOX・小泉たつみ座長も、ずっとこのやり方で演じておられます)

 


のぼる會の芝居の素晴らしさ、

そして役者・浅井正二郎の凄さを、改めて感じさせられた舞台でした。

これを観られた事は、関東公演での大きな、何より忘れがたい思い出の一つになるでしょう。



関東公演も残り2ヶ月弱となりました。

今月、ぜひ1人でも多くの方が立川けやき座に足を運んで、舞台を見て楽しんでいただけたら、

そして、関東ラストの篠原演芸場公演に向けて、少しでも盛り上がっていけたらと

強く願っております。


今月のけやき座、都心からは少々遠いですが、

明るく広々として綺麗で、スタッフさんもとても感じの良い、居心地のいい劇場です。初めての方にもおすすめです!


秋の休日、ぜひのんびりと楽しみにお越しください!