異質の人材を集めたチームによる特異な生産性が、注目されています。チームには、個人にはない発想や知識があります。個々人がお互いの情報を共有して、ともに生産性を高めるような合理化や効率化を推進することが可能になります。多くの企業がチームを立ち上げて、生産性の向上を図っています。その中で、生産性を上げるチームの特徴が分かってきました。有名な調査では、グーグルの報告があります。グーグルは200近いチームを分析し、成果をあげるチームとあげないチームを調べました。その内容は、チーム内に心理的安全性が確立されている場合に限り、多様性の発想や創造性が得られるという結果になったのです。良いチームは、メンバーが互いの考えを尊重する気風がありました。間違いを認めたり、リスクをとってチャレンジしたりできる安心感が、チーム内にあったのです。では、どうすれば安心して働けて、生産性の高い職場をつくることができるのでしょうか。今回は、仲間と安心して働けて生産性の高い職場について考えてみました。
仕事のできる人をただ集めても、必ずしもできるチームにはなりません。韓国では、上司が年少者で部下が年長者で構成したチームは、生産性が低くなると言われています。また、中国では、上海人とそれ以外の省の人のチーム編成では、良い成績を引き出せないとされてきました。チームをダメにする例えとして「傷んだリンゴ1つが、箱全体をだめにする」という言い方があります。たとえば、なんでも否定型といわれる人は、自分で代案は出さないタイプになります。このタイプの人は、提案に対してあらゆる欠点を見つけて執拗に指摘していきます。こんな場合、リーダーはこの傷んだリンゴの方にどうすれば、指摘した欠点が良くなるのかを聞くことが大切です。生産的な提案を促しても、出てこなければ、そこで話を打ち切る強い態度が必要になります。本当は、まわりにこのような悪影響をおよぼす人がいる場合、外れてもらうことがベストなのです。排除が無理なら、チームに残したままにするしかありません。でも、その場合でも、何よりもチームの心理的安全性を確保する役割をリーダーが持たなければなりません。生産性の高い人材への邪魔をさせないことを、徹底させるわけです。チームの編成が難しいことに、一つの課題があります。
課題があれば、その解決策を考え出す人たちがいます。ソニーの関連会社が、介護付き有料老人ホームを運営しています。ここの入居者が、ビデオゲームを楽しんで行っています。遊んでいたのは、小人を捕まえてキノコの上に置いていく簡単なゲームになります。自身の手と連動するゲーム内の「手」を操作し、画面上部から落ちてくる小人をつかむゲームです。このゲームは、体と認知機能を維持し、向上を促す作業療法の一環で導入しています。この施設に勤務する作業療法士は、小人をつかむゲームが、空間認知や注意喚起の向上に繋がっていると説明してくれました。ゲーム後は、会話の応答速度が改善する傾向があると、その効果を話していました。またゲームに興じていた90歳の女性は、「ゲームで遊ぶと体が温まり、いい運動になる」と笑顔で話されていました。前置きが長くなりましたが、このゲームは、ゲーム事業と金融事業が連携して開発した介護施設向けリハビリゲームになります。ソニーグループが新規事業の創出に向け、社内人材をマッチングする制度を始めました。人材をマッチングするノウハウの中に、チームの生産性と安心感を作り出す秘密が隠されているようです。
このゲーム開発を裏で支えたのが、「ポリネーターネットワーク」になります。ソニーは、ポリネーター(花粉媒介者)と名付けた人材の仲介者を、60人を任命しました。60人の仲介者は、花の受粉を助けるミツバチのように組織を横断した人材を結びつける役割を担っています。介護施設の事例では、家庭用ゲーム機「プレイステーション」の人材をつなげて、成果を上げています。2024年9月から運用を始め、2025年8月まで1年間で約300件のマッチング事例ができました。介護士施設の高齢者が、フレイルな状態にならないように、頭や手を使う工夫をしていました。それに応えるゲームを、プレイステーションの人材が作ったという経過があるようです。介護現場とゲームのマッチングが成功したわけです。社員は、自分なりのアイデアを持っています。60人の仲介者は、新規事業の創出や既存事業の改善を目指す社員の相談に応じています。面白いことは、ここにAIとのやり取りがあることです。アイデアを発案した相談者はまず、ソニー独自の人工知能(AI)とやりとりをします。ソニー独自の人工知能とやりとりし、相談の背景や具体性について整理します。整理の後、プラットフオームの事務局が、内容に適したポリネーターを紹介します。60人の仲介者は、グルー内の研究者や技術者をよく知る方たちです。会社側は、このポリネーターを選ぶ際に、60人の過去の職歴や所属会社に偏りが生まれないように配慮してあります。
ソニーは、多くの研究費と多くの人材を抱えています。たとえば、研究開発費は、2025年3月期で7346億円になります。日本企業では、トヨタ自動車1兆3264億円で、ホンダの1兆994億円になります。ソニーの研究開発費は、これらの企業に次ぐ規模になります。企業として、技術革新の創出に向けて研究開発を精力的に行っています。でも、面白いことに、ソニーのグループ内には、社員でもよく知らない「技術を持った人材」が多く存在するのです。この企業には、連結従業員数が約11万2300人、グループ子会社数は2025年9月時点で1582社という人材の宝庫が眠っているのです。ポリネーターは、受粉を助けるミツバチのように組織を横断し、アイデアの発案者と専門人材を結びつけます。スキルや経歴が条件を満たしていても、性格や文化的な相性が障害になります。この見極めをする部署が、求められていました。AIだけでは、社員同士の相性の見極めは困難でした。最適なチームを組む場合、言語や文化などの壁が生じます。マッチングを円滑に立ち上げ、チーム内での心理的安全や生産性の向上を見通すには、AIと人間のスキルが求められます。ソニーは、人材マッチングの最終判断をポリネーターに託して、成果を上げているようです。
余談になりますが、個人の頭の中における組み合わせでも、アイデアは出てきます。でも、最近は個人によるアイデアよりも、チームによるアイデアの量産や質の高さに注目が集まっています。チームには、個人にはない多様な情報(知識と経験)があります。個々人は、各自が得意分野の情報を持っています。その情報を出し合い、そして共有して、ともに生産性を高めるような合理化や効率化を推進する仕組みに関心が高まっているのです。アイデアは、知識と経験の総和から生まれます。課題解決に導くためには、いくつかのアイデアが必要になります。新しいアイデアを生み出すひらめきには、深く広い知識や経験が求められます。懸命に課題を考え、いろいろな知識の組み合わせをし、試行錯誤を一生懸命に繰り返します。その一生懸命の緊張を弛緩させたとき、ひらめきが生まれます。もっとも、生まれたばかりのアイデアは、そのままでは使えない場合もあります。生み出し出たアイデアを論理的に検討して、本物かどうか見極めていく過程も必要です。アイデアを見極めていく過程において、課題の解決に結びつくかという見極めも当然に求められます。これらのステップを円滑に行えるチームの育成が、これからの企業の課題になるのかもしれません。
最後になりますが、多様性が重要で、多様な価値観の人と会うことが、新しいアイデアを生むことは常識になりつつあります。自分とは違う相手も受け入れていくことが、多様性を認める前提になります。自分とは考え方や好み、やり方が違う人とも積極的に関わることを苦手とする人々がいれば、それを変えようと努力する人たちもいます。変えようとする場合、自分を鍛える場として異質の人達との交わりをポジティブに考えることも大切です。避けたい関係は、葛藤や訓練を経験する場にもります。葛藤やぎりぎりのせめぎあいを共有した仲間の間には、親密な連帯感が生まれるケースが多いのです。親密な連帯感が、社会的孤立を乗り越える誘因にさえなります。異質集団の成功は、切瑳琢磨しながら向上してきた成果ともいえます。異質集団の中でも、自分なりに工夫をすることで、抑制のある行動がとれるようになるようです。自分とは違う相手を受け入れていくことが、多様性を認める前提になります。そんな環境を個人が努力して作り出し、企業もそのような環境を準備し、さらに地域社会もそのような風土を受け入れることができれば、素晴らしい社会が形成されます。このことを実現している最もシンプルなモデルは、外国人労働者と仲良くやって、成果を上げている職場になるかもしれません。