では、ここからはマイケル・ジャクソンのミュージックビデオ監督としても知られる写真家ニック・ブラントの作品です。

ミュージックビデオの撮影のためにアフリカを訪れ、野生動物の圧倒的な美しさに魅了された彼は、それ以来、野生動物をカメラに収め始めました。

しかし時間が経つにつれてますます深刻化する気候変動と環境破壊を目の当たりにし、最終的にジンバブエ、ケニア、南米ボリビアへと続くグローバルプロジェクトを開始することになります。

今ご覧になっている写真には絶滅危惧種に指定されている北部白サイのナジンが写っていますが、長い間、サイの角は装飾品や富の象徴、あるいは薬草として誤って知られ大規模な密猟の対象となっていました。

現在地球上にはナジンとその娘ファトゥという、
たった二頭の北部白サイだけが残っています。

さあ、このように危うい生存の境界に立つ動物たちと人々の物語を収めた ニック・ブラントの作品をゆっくり鑑賞してみましょう。




ケニアで家畜と共に放浪生活を送ってきたアリとパートマ夫婦は、2010年以降続く深刻な干ばつのためすべての家畜を失い、食べる物も着る物も住む家も失いました。

実はあちらに立つ象の状況もそれほど大きくは違わず、干ばつや洪水、山火事で生息地が破壊され密猟の脅威に晒されながら現在は保護区で暮らしています。

このように人間と動物を同じフレームで撮影したのは作者の意図的な演出だとニック・ブラントは語ります。

人間と動物はこの危うい惑星、地球で同じ運命を分かち合いながら生きている存在だから、一枚の写真に共に収めるのはとても自然な選択だと言えるでしょう。




さあこれから、写真をもう少し詳しく見てみましょうか? 

まず目に入るのは、写真全体を包んでいる濃い霧です。 実はニック・ブラントの作品にはこの霧が非常に重要な視覚的象徴として登場します。

この写真のように、サイや象、キリンといった大型動物が霧の中でかすかに見えるのは、かつて私たちが知っていた自然の世界が徐々に視界から消えつつあることを示し、つまり、この霧は破壊されつつある環境を象徴しているのです。

写真家はこの霧がとても魔法のような存在で、霧が画面に映り込む瞬間、イメージがまるで完璧なトーンの絵画のように見えると語っています。

では上部から降りてくる一本の光は一体どんな意味を持つのでしょうか。皆さんも一度考えてみて、私達後で少し一緒に話し合ってみませんか?




ひとつのフレームの中に居ても、人と動物の視線は決して交わらない。皆さんも感じましたよね? これもニック・ブラントの演出です。

視線は切り離されていても同じ空間に存在していることは、すでに互いに繋がっていることを示すからです。

あ、そしてどの人物とどの動物を一緒に配置するかも事前に決めていないそうです。

さまざまな組み合わせで位置を合わせていくと、自然に調和する瞬間のシーンが見つかるそうです。その調和の感覚はもしかすると喪失という感情なのではないでしょうか?

気候危機で生息地を失った人間と、再び野生に戻れない動物たちだからです。

彼らの間でひとつの照明を置いて撮影する理由は、人々が証明写真を撮るように、動物も人間と同様に一つの存在として見せるための演出です。
 
濃い霧の中に差し込むひとつの光。空間は徐々に消え去り、生存の境界に立つ存在だけが残っています。








これから危機に瀕した生息地の境界でマルコ・ガイオッティの作業が始まります。

ノルウェーの北極圏に位置するこのスヴァールバルの風景はとても美しくまるで別世界のように感じられますが、しかし、夕暮れの中を歩くこの地の上位捕食者である北極熊は生存を掛けて闘っています。

もともと北極熊は主にアザラシを狩りますが、アザラシは氷の下に巣穴を作って熊から身を守ります。

けれど温暖化の影響で夏になると氷が溶けて消えてしまい 、冬に再び凍っても氷の表面は薄く滑らかでアザラシが隠れられる巣穴が徐々に減ってきており、そのため北極熊は餌を求めて陸に向かい、より遠く、より長く泳ぎ回りますが、狩りに失敗して飢えることが頻繁おこります。

人間がもたらした気候危機はこのように野生動物が生きる美しい生息地に、絶滅という言葉を着々と植え付けています。




美しいと表現するにはあまりにも神秘的なこの場所はケニアにある有名な自然保護区、ナクル湖国立公園。嵐のもとに立っているこの子はロスチャイルド・キリンです。

キリンは、主に暖かく乾燥した気候に生息する動物ですが、このように嵐が襲うと特定の環境に適応して生きてきたキリンの一日はどのように変わるのでしょうか? 

まず、葉や草が水に浸かったり落ちたりして食べられるものが減り、また、餌を探して移動しようとしても地面がぬかるんでいて移動は簡単ではありません。

特にこのような状況では、赤ちゃんキリンはさらに大きな危険にさらされます。毛が薄く体が大きいため、雨に濡れるとすぐ体が冷えてしまい体温調節も容易ではないのです。

以前よりも強い嵐が頻繁に襲っているそうで、現在世界中で約千頭ほどしか残っておらず、最も危うい種とされるロスチャイルド・キリンの一日が本当に心配になります。







濃い霧が立ち込める森、可愛らしいパンダが木に腰掛けています。

野生のパンダは、四川、陝西、甘粛まで、中国南西部の広大な森林地域に主に生息していましたが、かつてはこれらの森が互いに連なり、パンダが山を自由に移動出来る大きな生態系になっていました。

しかし、伐採や道路建設、都市開発が進むにつれ森林は次第に減少し、生息地も細かく分断されてしまいます。

そのため、現在のパンダは小さな島のように分かれた森の中で暮らしています。

生態学ではこの現象を生息地の断片化と呼びますが、単体で生活するパンダは広い領域を移動しなければ餌も見つけられず繁殖も出来ないため、この変化はかなり致命的です。
 
こう考えると、パンダの顔がなんだか少し寂しそうに見えませんか? 可愛いパンダの生息地。危うい境界は一体どこまで広がるのでしょうか?




黄金色のたてがみが印象的な ゼラダモンキーはエチオピアの高原、特にこのシミアン山脈と周辺の高地にのみ生息しています。

背景から見てみましょうか?

猿の背後に嵐のような雲が広がっているのは間もなく雨が降る雨季であることを示しています。

しかし、近年の気候変動により降雨時期や降水量が次第に不安定になっていると言われています。 
もともとこの仲間たちは草食性で草や種子を食べて生きていますが、このような変化により餌や生息地さえも徐々に減少していきます。

この子たちの表情を一度見てみてください。 
まだ大丈夫だけれどこれからが少し心配だと言っているように思いませんか? 

現在、地球は第六の大量絶滅の時代に直面しています。

過去約100年間で地球上の脊椎動物は約200種が絶滅したと言われていますが、これ程の変化は本来何千年にもわたって起こるべきことだと言われています。

そこでガイオッティは、動物の肖像を描いたこの作品では、動物よりも背景。彼らが生きる生息地をもっと見てほしいと訴えます。




金井文化会館企画展『地球の前に立つ_危うい境界で』 
では、皆さんとお別れの挨拶をする時間です。
 
今日は、太古の時間を宿す北極の風景から始まり、
海底に沈んだ見知らぬ未来の光景を通り過ぎ、自然の静かな美しさと大量消費が生み出した衝撃的な数字に直面し、消えつつある生息地と危うい動物たちの生活を経て、ついに人間と動物が同じ空間に立つこの場所まで共に歩んできました。

危うい境界に置かれた地球の前で私たちが出来る最も重要なスタートは何か。今回の展示を通じて皆さんが自分だけの答えを見つけられることを願っています。

以上。金井文化会館 企画展示「地球の前に立つ_危うい境界で」スペシャルオーディオガイド、CNBLUEイ・ジョンシンでした。ありがとうございました。