「M穂ちゃん、亀の子タワシない?」

 

「あるよ。ほい。」「さんきう。」「でも何故に亀の子タワシ?」「え、鮑を磨くんだけど。」「そんなに手間かけるの!?」「そんな適当に処理して、不味くなかった?」「いや、Hくんの趣味でそんな鮑なんか食べるところ行ったこと無いし。」「寿司屋とかは?」「……。(←首を横に振っている。)」「は~(←大きなため息。)まあ、これから覚えればいいや。鮑はまず亀の子タワシとかステンレスタワシとかで海にいた時に付いた藻とか汚れをガシガシ取るの。」「うん。」「で、これがちょっと大変なんだけど、丈夫な木べらかでしゃもじか何か出してきて。」「了解。これでいい?」「OKOK。したらこの、身と殻の間に少し隙間が見えるじゃん?ここに木べらの先を身が傷つかない程度にゆっくり差し込んで行って、ある程度の隙間が出来たら、ここに木べらを鮑の身が傷つかない程度に殻と身を剥がしていくの。」「ほ~う、意外と簡単に剥けるのねぇ。」「ちょっとやってみる?」「うん。」「此処に指を入れて…」「ほほほ!鮑を剥がすなんて初めてだから、笑えちゃうね!」「ウケるでしょ。」「うん。」「ていうか、このアサリ、元気良すぎだよ。こんなにデロンデロンに動いて砂吐くアサリ、見たこと無いよ。一旦シンクの中に退避するね。」「ひえ~、アサリってこんなに活発なの初めて見た!」

 

こんな感じで、M穂にはレクチャーしつつ作業を確実にこなしていく。

鮑は長目の串を5本ほど刺して、火で炙る。「あ、それくらいなら私、やれるよ!」「ダメ。」「なんでぇ!?」「HくんはM穂ちゃんに手伝わせるなって言ってたでしょ。どうせレクチャーなんかしてるところを見られたら『やっぱりM穂が作ったんじゃないかwww』とか言われるの想像できるでしょ。」「む~。」「まあまあ、この辺で座って見学してなさいよ(笑)」「って、アレ?○○、鮑買い過ぎじゃないの?あとふたつもあるよ。」「それも後で調理するよ。新鮮さ第一だし。冷蔵庫に入れておいて、あ、チルドに。」「鮑っていうとお刺身とステーキくらいしか思い当たる料理がないんですけど。」「まあ、私は大学受験もしてないし、専門学校も行かなかったからね。働く時間と学ぶ時間だけはたっぷりあったよ。」「なんかすんません。」「H君の性格は誤算だけど、こうやって違う地方に住めたのは色々勉強になるし。いいってコトよ。」「ん~。」

 

こうやってM穂にレクチャーしながらどんどん形を変えていく食材たち。

「ねぇ、鮑は?」「ん~そろそろいいかな?」「何するの?」「途中までは同じなんだけど、余計なところは取って。」「て?」「で、冷たくて身が締まった鮑を適宜、刻みます。」「はあ。」「で、此処でバーミッ〇スの容器に入れて…え~っと、ミンチにするのはどれだっけ。」「これこれ。」「バーミック〇って便利なんだけどややこしいんだよね~。」と言いつつバー〇ックスのスイッチを入れると、あっという間にミンチ状態になっていく鮑の身。「そんなことして美味しいの?」「ん~、ある料亭では角切りにした鮑の身を氷水に漬けて出してたよ。」「へぇ~。」「で、これをすり鉢に入れて、太い山椒のスリコギでゴリゴリやってその間に昨日作っといた昆布だしと酒の吸い地も混ぜて、柚子で香りづけ。」「はあ。」「味見する?」「うん…ていうか、美味しいしか言えない!」私とM穂で( ´д)人(´д`)人(д` ) イエー。

 

…と、やっているとHくん帰宅。

結構なご馳走がちゃぶ台に並んでいたのに少々びっくりしているようだったが、M穂が「お仕事お疲れ様~。」と、ビールを出すと、「随分と豪華だね。」と少し面食らった様子。

「全部○○が作ったんだよ。」

「○○が?コレを?全部?」

「私が手伝ったのは鮑を洗うことだけだったよ。」

「ふ~ん。」面白くなさそうな表情。

「どれも味見したけど、Hくんには分かってもらえると思うよ。」

「そっか。」と言いつつ、迷い箸をするHくん。

おもむろに、目の前にさっき作った鮑の摺り流しを竹筒に入れて供する。

「まずこれをどうぞ。」ニコリともしないでオススメする。

「なにこれ?」「まあ、飲めばわかるよ☆」「……!!!」一心不乱に摺り流しを飲み込むHくん。「え、美味しいけどコレ何?」「鮑の摺り流しで~す☆ビールに合うでしょ?」「おかわり。」

「へ?」「一杯で終わり?もうちょっと無いとビールだけになっちゃうんだけど。」「ああ、そのことならご心配なく。次のがちゃんとあるから。」「次?何品作ったんだ?」「まあ、細かい事は置いておいて今夜は楽しまない?折角○○が作ってくれたんだから。」「あ、ああ…。」「じゃあ、次は鮑のステーキです☆肝のソース付きだよ!」鮑の身を焼く時についでに焼いた肝を裏ごしして赤みそと出汁を入れたソースを一緒に出す。「こういうのって苦いんじゃないの?」「苦いけどそこがいいっていうか。まあ、一口食べて気に入らなかったら私とM穂ちゃんで食べるからいいよ。」「まあ、味見はさせてもらうよ。」「どうぞどうぞ。」「…苦いけど美味い。ステーキに付けて食べるとビールに合う。」「お褒めの言葉をどうも。」「○○も一杯やったらどうだ。」「では、お言葉に甘えて。」

 

…というワケで家事が一切できない女というレッテルは剥がされたようだ。

他の食材?まあ、ブログを続けていたらいつか「良薬は口に苦し。其の四。を書こうかな、と。

話が全然終わってないし。

とりあえず、今日の日記はおやすみなさい。