何の格だ。今の世の中、多少の貧富の違いなんて。

 

「○○ちゃん。あなたはタダの研究生。16年学んでもバプテスマも受けられない研究生。かたや、あちら様は、お父様は元調整者で未だに長老…。ご本人は長老。みんなに愛されて、頼りにされる人気者。いくら話が合うと言ってもこれが愛とか恋とか、そういう話になってくると、ちょっと事情が違うのよ。それにあんたみたいなデブスが結婚するなんて許されるわけないじゃない。もしご本人がYESと言っても周りから猛反対されるわよ!」

逆に周りからYESって言われても、本人からNOって言われれば諦めるよ。

「ちょっとさっきから目が泳いでるじゃないの。何を見てるの?…ってだからねぇ、格違いなの!いくら見詰めてもダメなものはダメ。諦めなさい!」

いや、今日は長話もしてないし、お疲れ様でした言うくらい許されるでしょ?

「だから、そういうコトを積み上げていくと未練が残るでしょ。挨拶も避けなさい!」

そんな、挨拶くらいいいじゃん!

「だ~か~ら!塵も積もれば山となるって言うでしょ。友達程度の執着でも、積もれば恐ろしい結果になるかもしれないでしょ?今から控えて!止めときなさい!」

恐ろしいって…兄弟が喜んでくれるならいいじゃん。そりゃあ、向こうが100%義務感でやってるなら、思い切ってあっさり引き下がるけど。

「あんたみたいなデブス、いくら霊的な立場が重くなってもゴメンじゃないかな…。」

じゃあ、テルミさんは、小野姉妹と同じで、兄弟との接触は控えろって言うの?

釣り合わないって本気で言ってるの?

「当り前じゃない!」

やけにハッキリ言うね。

「もしかして、あんたが伝道者になれないのも、兄弟が一番強くNO!って言ってるのかもよ?」

…その可能性はあるけど、でも本人に訊かなきゃわからないじゃん。

「聞かなくても判るって。」

それこそ決め付けでしょ?

「どこからそんな自信が湧いてくるのか、そっちの方が疑問だけど?ちょっと霊的な事に積極的だからって、自分を過大評価し過ぎじゃない?」

過大評価なんてしてない!会衆を盛り上げようと思って兄弟たちに協力してるだけじゃない!

「そういうの、『でしゃばり』って言うのよ。今後控えなさい。」

止めない!控えない!やっとエホバに仕える楽しさが分かってきたところだもん!

「おかあさんも、○○ちゃんが霊的に進歩してくれるのは嬉しい。でも、あの兄弟はやめて…そう、いっその事、マコちゃんのお嫁さんになって世話してあげたら?」

その比較級、兄弟にもマコちゃんにも失礼だと思うんだけど。

「寺田姉妹なら、喜んでくれると思うわよ?」

いや、私、マコちゃんはタイプじゃないから。

「それで兄弟?それこそ図々しいんじゃない?」

だから、兄弟とマコちゃんを並列にしないでよ。

「とにかく、兄弟と親しく話すのは金輪際止めておきなさい。」

……。

 

 

「ちょっと!○○ちゃん!何してるの?」

見ての通り自殺だけど。

「血がたくさん!血を止めなきゃ!○○ちゃん!自殺は殺人よ!分ってる?」

別にお節介しなくていいよ。好きな人と話も許されない宗教ならエホバとイエスの贖いの価値なんてもう要らない!私は塵になって何処かに吹いて行けばいい。血は聖なる物でエホバ以外の人が触れたり注ぎ出されたりするのが許されてないんじゃないの?テルミさん、楽園組でしょ?避けたら?血だよ?

「何言ってるの!娘が自殺するのをおめおめ見てられるわけ無いでしょ?止血!止血!」

もう無理だって(笑)

「無理じゃない!無理じゃない!○○ちゃんはおかあさんと一緒に楽園に行くの!」

嗚呼、最後に兄弟に会いたかったな。

「○○ちゃん!お願いだから出血してるところを出して!」

やだね。最後に兄弟を呼んでくれるって言うなら話は違うけど?

「だから、あの兄弟のコトは忘れて!後生だから!」

じゃ、私も止血拒否するもんね。

「わかった!○○ちゃんが本気で兄弟の事を好きなのはわかったから!」

じゃあ、これからも兄弟と好きにおしゃべりしても良いの?

「う…そ、それは…。」

ダメなら止血拒否だ~!なんなら絞り出してやる~!

「止めて!暴れないで!○○ちゃん!血は有限なのよ!」

そんなこと、当の本人が一番よく知ってま~す!なんか寒いし、失血死できそう!

「○○ちゃん!」

『格』とか訳の分からない差別用語使うの止めるって誓うなら、止血処理させてあげま~す!

「もう、生きててくれればなんでも良いわ!さあ!止血させて!」

エホバのみ名に誓う?

「誓う!誓うから!そんな真っ青な唇で暴れないで!」

あ~あ。もうちょっとで死ねたのにな~。

「そっちの腕を出して!」

はいはい。

「こんな傷!全部塞いでやるから!コレでダメなら救急車だからね!」

はいは~い、無駄な止血処理、オツカレ~。もう助からないと思うけど♪

「そんなこと言わないで!大腸ポリープの治療も待ってるのに!そんなこと…。」

なんか眠いし。

「寝ちゃ駄目!○○ちゃん!気をしっかり持って!」

来週の集会も、兄弟とお話しても許してくれるなら気もしっかり持つけど?

「もう、なんでもいいから!生きてて!」

 

 

……ん。

「○○ちゃん、起きた?起きたの?」

救急車じゃなかったの?

「止血が早かったし、○○ちゃんの傷の出血が早く止まったから、呼ぶの止めたのよ。」

そう。まあ、病院沙汰になったなら輸血の問題もあるし、呼ばなくて正解かな。

「迷ったけど、やっぱり○○ちゃんと楽園に行く希望が捨てられなくて、呼ばなかったのよ。」

まあ、もうちょっとしたら兄弟と一生会えなかったと思うとゾッとするなあ。

テルミさんでも止血処理なんてスキル持ってたんだね。ちょっと尊敬。

「○○ちゃん、おどけないで。本当は怖かったでしょ。もう、こんな事、二度と止めようね。」

まあ、テルミさんの態度次第かな。

「もう兄弟と引き離すなんて言わないから、エホバのおきては守ってね。」

ああ、うん、それは反省してる。軽率だった。

でも、兄弟と二度と親しく話せないなんて耐えられなかったからさ。

まあ、この事を小野姉妹に話したら、また怒られるどころか排斥かもね。

「そうでしょ。くれぐれもこの事はおかあさんと○○ちゃんの秘密ね。」

日記には書くよ。

「どうして!?姉妹に伝えたら長老団からまた何か厳しい事を命じられたらどうするの?」

厳しい事…人格を統合した時の事?

「そう。あの時、○○ちゃんが自分の力でやってやる!って言ってからの苦しみ様を見てるから、どんどん変わっていく○○ちゃんを見ていて辛かったわ。」

私は嬉しかったよ?

「あんな辛そうなのに?」

だって長老団からのミッションをひとつこなしていく度にクリスチャンになれる希望が出てくる訳でしょ。確かに苦しいけど、羊になりたいから、苦楽を共にした人格たちを取り込んだの。あれほど大きな命令でもこなせる自分だから、自信にも繋がったし、可能性に賭けたいの。

これでまた長老団の目が厳しくなるなら仕方が無いと思う。

「嗚呼、良かった。顔色が戻ってる。」

私、何時間寝てたの?

「一時間くらいかしら…。」

ふ~ん、意外と人って死なないんだね。

「縁起でもない事を言わないで!」

クリスチャンが縁起とか担いで良いの?

「ウッ…」

まあ、私が死んだら、私が注文したバウムクーヘンとか、ホットチャイとか、独りでもそもそ食べる羽目になってたね☆

「また恐ろしいことを!」

趣味が悪い人格も取り込んだからね~(笑)

 

 

私は恐れない。

人が何を成し得よう。

ただ信じよう。

エホバの右手を。

 

エホバ、あなたのくれた血を無駄にしてごめんなさい。

でも、私の気持ちも、あなたなら分かってくれますよね。