警察署を出てから、夫は言いました。



「ごめん、マノ。きてくれてありがとう」


「...うん」



警察官には90度の角度で謝罪をしていたのに
私には随分と軽い言葉でした。


というか、
正直ここの部分の記憶が少し曖昧で
私にちゃんとした謝罪がないとずっとモヤモヤしていたことは覚えているので
この軽い「ごめん」でさえ、あったか定かではありません。


ただ驚いたのが次に繰り出された会話。



「ここまでどうやって来た?」

「タクシーで。自分で運転するのは怖かったから」



ただでさえ妊娠中で
運転はあまり推奨されたことでないのに
気が動転してる中、万一のことがないとも限りません。



「じゃあ帰りもタクシーだね、悪いけど○○駅まで一緒に乗せてくれる」



○○駅?
それは家の最寄り駅ではなく、新幹線の止まる駅でした。


「え、なんで」

「出張。今から急いでなんとか行かないと」

「は?今から?愛知まで?」



その時既に13時近い時間でした。
新幹線で愛知へ着いてからも工場までは
更にかかります。
3時間以上はかかるはずです。
しかもその日は日帰り出張の予定でした。



「会社へも、すぐ連絡入れなきゃだし携帯貸して」

「連絡はしたらいいけど、今日はもう休んでちゃんと話を聞かせて」

「そんなわけにいかない。ただでさえ無断遅刻で、なんて説明したらいいか...!」



夫は自分の犯した罪の大きさや
臨月間近の妻より
会社の方が余程気になる様子でした。



「会社へは、妊娠中の妻が朝急に具合が悪くなって病院に付き添っていたので連絡出来ませんでした、って謝りなよ。そりゃ怒られはするだろうけど責められ続けたりはしないでしょ」

「あぁ、じゃあそうする」



「それはいいけど、今日はもう休んでちゃんと話そう」

「無理」

「どうして。もう今から行っても着くのも遅いし、あなたも疲れてるでしょ」

「行かないわけにはいかない」



結局タクシーを呼んで待つ間も、
休む休まないの平行線の会話に終始し、
夫はやってきたタクシーに
○○駅と行き先を伝え、
そのまま出張先へ向かって行きました。