まず始まりから原作ファンとして一気に引き込まれた。原作では『背中にある』としか書かれていない鶴の刺青がドーンと画面いっぱいに写し出される。しかも大雨に打たれてワイシャツが背中に貼り付きハッキリは見えず浮かび上がっている。めっちゃかっこいい。細身に見える綾野さんだけどやっぱり鍛えてるんだろうな…色っぽくて広い背中に紋紋が良く映えていた。まだ顔が見えていないのに完全にヤのつく職業の人と、奥に見える合唱コンクールの会場や傘をさしながら楽しそうに歩く中学生達との対比がすごかった。傘がカラフルなのも対比を狙ったものだろうか。その後、狂児はコンクール会場に入り、天使(聡実くん達)の歌声を聴くことになるのだけど映画では特に描かれていなかったが、ずぶ濡れヤクザがホールに入ってきた時点で私が警備員なら止めている。いや、マジで怖すぎるが、それが仕事であれば止めているだろう。まぁフィクションなのでそういうところは考えなくても良い。それくらい迫力のある狂児だったと言うことだ。
映画ならではの演出である大雨と雷鳴のシーン。この映画を通して感じることではあるが、基本的に聡実くんの感情が軸になっている。最初は「全く知らん怖いヤクザ」として狂児が描かれているように感じた。文字にすると原作だってその通りなのだが原作より聡実くんの怖れを増幅して表現している印象を受けた。

いよいよカラオケで事情を話され助けを求められる聡実くん。最初は縮こまって距離を取る。かわいい。すごくかわいい。撮影当時リアル中学生であった齋藤くんの華奢な体と先にも書いたしっかりした大人の体格の綾野さん。これが…聡実くんと狂児だ…!!正直、私の原作から持つイメージはお二人とも違うのだけど、うるせぇこれが公式だ!!!!と殴られたようでした。気持ちいいです。すぐそこにあの二人がいて、話をして、紅を歌って、飽きた聡実くんがチャーハンを食う。はわわ…あの二人が動いてるワ…!!という感動。齋藤くんの死んだ目、最高でした。

そしてまた映画のみの脚本で傘のお話があるのだけど、こちらも原作のファンを喜ばせてくれる演出が。カラオケ屋に忘れて帰った傘を聡実くんの学校まで狂児が届けてくるシーン。原作のカバー絵を映画に落し込んでくれてありがとうございます。快晴の下、亀のトロピカルな傘をさす狂児は異質以外の何物でもなく、ここでもまた聡実くんの日常と、完全に住む世界が違う狂児との対比が良い。学校は白くて緑もあって部活着の生徒もカラフル。そこに黒塗りの高級車と黒スーツの男が黙って似合わないトロピカルな傘をさして立っている。絵として非常に美しかった。あと傘から見える綾野さんの脚が長い。それはそれは長い。美しい。
その後、カラオケに誘ったら「大人が子供を誘いますか普通」と聡実くんに怒られちゃう狂児もかわいい。
そして帰ってから両親に亀の傘は嫌だ、といったら鶴の傘に変えられちゃう聡実くん…。狂児の紋紋とオソロやないかい…遠隔で惚気られた気分だったありがとうございます。

ここで原作にはいない(または細かく書かれていない)映画ならではのキャラ達のこと。

【合唱部の生徒達】
まさに和山ワールドの女子達だった。中学女子ならではのキャッキャッもありつつ個性があってみんな自然体で魅力的。こういったところは監督の技なのかな、と思う。「中学生日記」は学生の頃楽しく拝見しておりました。
副部長の中川さんはもう、まさに!といった感じで後輩の和田くんがビデオデッキを壊して落ち込んでいる時、話を聞いているようで全然聞いてなくて相槌がズレているところすごく笑った。和山先生の漫画を読んで笑っている時の感覚に一番近かったと個人的に思います。和田くんは原作とはかなり違ったキャラになっていたけど、違うベクトルで面白い子だった。あの顔…あの目付き(笑)めちゃめちゃめんどくさい後輩だったが、中学生特有のめんどくささや思春期感が全面に出ていて非常に笑いました。部長のこと慕ってるんだよね。がんばれ。
【ももちゃん先生】
こちらは完全オリジナルキャラ。ももちゃん先生の、先生としては未熟だが生徒に人気のあるかわいらしさが映画にリアルさを足していた。居たよな~あんな感じの先生。そして和田くんの様なタイプには合わない、というのもわかる。私もそっち側だったからね。
【映画を見る部】
こちらも完全オリジナルキャラ栗山くん。栗山くんがいたからこそ聡実くんが心の安寧を保てたのでは?と思うほど重要な人物であった。変声期の悩みを部員には相談出来ない。家も思春期真っ盛りの中学生には鬱陶しい時もあるし、その上、変なヤクザにちょいちょいカラオケに誘われている。聡実くんは栗山くんに相談してるわけではないけど、どのしがらみからも遠いからこそ何も言わずにほっと出来る居場所だったのではないかと思う。

ここから脚本の話に戻るが、個人的に映画化に当たって絶対に観たいと思っていたシーンが3つある。
まず1つ目、部屋にすし詰めのヤクザに怯えて聡実くんが狂児にしがみつくシーン。原作でも思ったことだがこのシーンは狂児の狡さが見えると思っている。
狙っているのかいないのか、聡実くんにとって狂児の立ち位置が『よく分からんカラオケヤクザ』から『知らんヤクザよりは頼れる大人(ヤクザ)』にランクアップしてしまった。齢14の少年に「裏声が終始気持ち悪い」と言われても怒らない狂児に安心するのは自然の摂理というものです。です、が、まんまと術中に嵌まった気もするよ聡実くん…。映画でもしっかりしがみついていてとっても可愛かった。それを当然の様に受け入れて無茶苦茶言う狂児…顔も近いが心の距離が近い。綾野さんも和山先生のファンということで原作にある「(聡実くんが思う)狂児の嫌いなところ:キョリが近い」を忠実に再現しているのでしょうね。天才。かっこいい。脚が長い。
そして2つ目に観たかったのは、ダッシュボードから出てくる指。原作では二人の反応の違いから、やっぱり違う世界で生きてるんだ、と聡実くんと読者を一気に突き放してくるところ。映画では細かいところが原作と異なっていたが「記憶から消しといて~」のセリフが聴けて大満足でした。流れ的にもこのシーンがないと破綻しますもんね。嬉しかったです。
そして3つ目、これは誰もが観たかったシーンだと思うが、宇宙人から聡実くんを守ってくれるシーン。宇宙人から遠ざけるあのスマートな動き…聡実くんがポカンとしている間に全てがサクサクと進んで行く。非常に手慣れていて無駄がない。
原作では「めっちゃごめん😫💦」というセリフと共にアタッシュケースで殴り、いや全く悪いと思ってないだろと笑ったシーンだったのだが、映画では無言。めっちゃ真顔…ひぇ…怖ぁ…『聡実くんを絶対守るマン』の爆誕であった。
個人的には原作の狂児とイメージが一番異なるシーンだった。批判ではなく、映画の中の狂児は『こう』なんだな(ニッコリ)と思った。
その後の屋上シーンはとにかく仲良し(笑)助けてもらったし心の距離がもっと近くなって聡実くんの笑顔が輝いていた。かわいい。いや聡実くんも脚長いな。腰の位置そんな上にあるの?
余談だが、このシーンかなりイチャイチャしてる…と思ったのだが、もしや私が腐女子だからか?と思い、同行した夫に視聴後聞いてみると「いやあれはイチャイチャしてた…てか狂児(聡実くんに)常に近すぎん?」とのことだったので一安心(?)原作に逆輸入して欲しいほどかわいいシーンであった。原作の狂児にもその笑顔見せてあげてよぉ。
ここからげんきおまもり投げつけシーンまでずっと本当に素晴らしい流れだった。映画オリジナルなのに原作を綺麗に混ぜ込んでセリフ破綻もなく、激ギレの聡実くんもたっぷり観れた。上手くいかないもどかしさや、こっちは真剣なのに三角関係か~?とニヤニヤされたらそれはそれは腹が立つでしょう。あの場面は誰一人噛み合ってなくてすごく面白かった。欲を言えばげんきおまもりを原作通り、あの良すぎる顔面に叩きつけて欲しかった。
さて、ついに一番の山場へ。
原作とは違い、バス通学の聡実くんがゆっくりと事故現場を横切る。見覚えのある黒塗りの高級車と担架からはみ出る血だらけの手。落ちている虎柄の音叉…続きを知っている私でも心配になるほどの事故。あれでほぼ無傷な狂児って何?別の意味で怖い。
まぁそれは置いといて。
聡実くんが狂児に電話をかけるシーンは胸が張り裂けそうになった。緊張している聡実くんのために『出ろ…!狂児…!』と心の中で応援していた。コール音とは何故こんなに悲しい音に聴こえるのか。あんなライン電話の陽気な音でも、だ。出ないと分かっているからこそ泣きそうになった。

いよいよ狂児のために『紅』を歌うシーン。すごく魂の籠った歌声だった。しかもめちゃくちゃ上手い。ちょうど齋藤くんも声変わりの時期だったと言うことでもともとの美声にかすれが入り雑じりとても美しい。ファンです。歌の途中に入る思い出の狂児が聡実くん目線だったのもグッと来たし、傷を負った狂児が聡実くんを見つめているカットもすごく良かった。観ましたかあの優しい眼差し…歌ってもらえて良かったネ…
その後、ネタバラシ!となった時、ぺちん!と良い音で狂児の頬を打つシーンは二人の距離感、会話の全てが可愛すぎてそこそこデカめの「あ(喜)」が一音だけ出てしまった。すみません。

そしてエンディング①。原作にはない聡実くんの中学卒業の様子が観れて嬉しかった。和田くん泣きすぎ…おもしれー男だ。栗山くんとの会話で「狂児は幻だったのかも」と寂しくなって紅の英訳(関西弁)を呟きながらミナミ銀座を歩く聡実くんが切ない。最初は見ることすら怖かった道をいくら片付け始めているとは言え、この数週間で普通に歩ける様になっている。宇宙人との出会いはかなり怖かったと思うのだがトラウマにならなかったのは狂児のおかげなのか。共に笑いあった思い出の屋上で思い出したように名刺を取り出し「おったやん」のセリフ。青い空と引きの微笑んだ聡実くんの画が青春そのものだった。そうだ、そういえば青春映画でした。
エンドロールに続いてエンディング②
建設中のビルの前で電話をする狂児。で、出た…!腕には『聡実』の刺青。原作のように聡実くんのドン引きが観れなかったのは残念だが、齋藤くんがいきなり18歳にはなれないのでしょうがない。続きを期待してしまう爽やかな(?)終わり方だったと思う。

ザザーっと好き勝手に感想を述べたが総括として本当に原作をリスペクトして作られた映画だと思う。誰一人配慮を欠くことないまま、映画ならではの個性も爆発していた。本当に本当にありがとうございます。感謝しかない…!
主演お二人のインタビューで「また共演したいね。それこそ『ファミレス行こ。』もあるし…」と仰っていたので是非とも三年後、成長した聡実くんとほぼ歳を取らない狂児としてお姿を拝みたいです。ただ齋藤くんはすごく背が伸びそうな気がする(笑)それでもキャストや関わったスタッフさんなど一人も変わらずにお願いしたいほど素晴らしい映画でした。思い出せば思い出すほど良いシーンばかりなのだけど、セリフひとつひとつに感想を言いたくなるのでここで止めておく。
長々と読んでいただきありがとうございました。三年後にまた、映画『ファミレス行こ。』の感想が書けますように…