梶原一騎の遺作となった『男の星座』に、こんなシーンがある。
芝商業高校柔道部の合宿で、暴力おでん屋と大立ち回りをした、暴力事件を起こした梶原一騎こと梶一太は、高校を放校になり、銀座の店『スエヒロ』で働き始める。
ビフテキの切れっぱし位には
ありつけようと夢みて
梶一太は銀座にある
「ビフテキのスエヒロ」の
コック見習いになったものの・・・・・・。
とんだ期待はずれ
くる日もくる日も
タクアンとコブの佃煮ばかり
ジュ――― ジュ――― と、(おそらく)ミディアム・レアに焼かれるステーキ肉。
しかし
コック見習いとは名のみ
皿洗い 掃除
使い走りに
コキ使われる毎日だった
――― 中略 ―――
皿を割ってしまう一太。
コック長『このドアホが まーた やりやがった!』
コック長『ドタマを カチ割られ てえか?』
一太の頭を、ポカッと叩くコック長。
一太『そっちの ドタマが 先だぜ!』
コック長を背負い投げで投げ飛ばす一太。
コック長『ブギヤッ・・・』
失神するコック長。
コック達『アワワワワワッ・・・』
支配人『な・・・・・・なッ なんたることを 梶クン・・・・・・ キミ・・・・・・いや・・・・・・ あーたは・・・・・・・・・』
一太『支配人 やめさせて もらいまっさ』
一太『先に手をだしたのは コック長のほうだだから いわば正当防衛だし 親にも叩かれたことの ねえ頭をド突かれたら 許せねえもんね』
一太『オット』
一太『まだ一度も 給料もらって ねえぶん この フィレの上肉5枚 もらってくぜ』
一太『ヒイ フー ミー・・・・・・・・・』
――― 中略 ―――
ジュ――、ジュー―と、自宅のフライパンで、ステーキを焼く一太。
一太『ホレッ 真二から いくぞ!』
一太『腕は天下の スエヒロで 門前の小僧 モノは 上等フィレの シャトー・ブリアン 真二も久三も 生まれて はじめてだろ!?』
久三『たまらねえ 匂いだなあ』
真二『しかし あいにく わが家には ナイフと フォークなんて 洒落たモン ないぜ』
真二『包丁 とってよ かあさん』
一太『ちょうど 家族ぶん 5枚ブン捕って きたからな おつぎは オヤジと オフクロ!』
一太『たまにゃ 栄養つけて くだされ~~』
母 『おとうさんと 一太で お上がりなさい』
母 『かあさんのぶんは 明日にとっておいて 皆でシチューに でもしましょう』
父 『ワシは要らんよ』
父 『肉は酒に 合わん』
そう言って、グイッと杯の日本酒を飲み干す父・東輔。
一太『チェッ またかよ!』
一太『つねに 周囲のムードに 逆らうん だからね オヤジの ヘソ曲がりと きたら・・・・・・』
真二『まあ まあ まッ兄貴!』
真二『替りにオレが カンゲキする からさ』
皿の上のステーキを、菜切り包丁で切り、箸で食べる真二。
真二『うまいッ 天国の 美味!!』
その夜、真二は、『兄貴、スエヒロ、やめたんだろ?』と言い当て、兄に、『少年画報』の懸賞小説に応募することを進める。
そしてこれに応募して出した熱血感動ボクシング小説『勝利のかげに』(筆名・梶原一騎)が、見事に入選し掲載されたことで、彼は、人気作家・人気劇画原作者の道を歩き始める・・・・・・。
この作中、銀座のスエヒロの厨房で、ステーキを焼くシーンがあるが、掲載誌の『週刊 漫画ゴラク』では、カラーページとなっており、この時の肉の焼き加減、霜降り状態の描き方の見事さといったらもう・・・・・・。
筆者は、『包丁人味平』、『美味しんぼ』から現在のそれまで、さまざまなグルメ漫画を読んできたが、そのイラストを見て生唾を呑み込んだのは、この時だけである。
おそらく、作画担当の原田久仁信にとっても、会心の出来だったのではないだろうか?
残念ながら、その後に出版された単行本では、いずれも普通のモノクロ・ページになっており、掲載時の見事さとは無縁になっている。
もし、この時の『週刊 漫画ゴラク』を持っている方がいたならば、ぜひ再読をお勧めしたいと思う。
このシーン以外にも、『男の星座』の中には焼肉のシーンや、『夕やけ番長』の中のすき焼きのシーンがあるが、やはり、牛肉を描いたシーンの中では、この『スエヒロ』のそれが出色、白眉であると思う。