T+K@創作列車
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鉄道のこと書いていきたいと思っています。
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「創作列車」 目次 (2022/10/28更新)

 こんにちは。

 いつもご覧いただき、ありがとうございます。

 

 先日、「老人ホームライナー」の第3話を公開させていただきました。

 「創作列車」の目次にも追加しました。

 

 

「老人ホームライナー」

電車なのに「老人ホーム」、ご乗車になっているのは、お爺さんやお婆さんばかりです。

お爺さんやお婆さんにとって、所縁のある場所、思い出の場所、もう一度行ってみたい場所、そんな場所を巡っていく、そんな列車です。

 

(1) 第1話 外房線 行川アイランド

(2) 第2話 尾久車両センター 

(3) 第3話 神竜電鉄 神竜峡駅 (架空の路線と駅です) ← 今ココ!

(4) 第4話 ~作成中~

(5) 第5話 ~作成中~

 

 

 

「白馬で降りた王子」

新宿から松本経由で大糸線へ向かう夜行列車の話です。(1)は昭和39年ごろの急行「白馬」、(2)は昭和61年ごろの急行「アルプス」、(3)は1回とんで、(4)で平成30年ごろの臨時快速「ムーンライト信州」へと続き、そして(5)で少し未来の話になります。

 

(1) 第1話 急行「第2白馬」 編 ~昭和39年ごろ~

(2) 第2話 急行「アルプス9号」 編 ~昭和61年ごろ~

(3) 第3話 塩の道 編

(4) 第4話 臨時快速「ムーンライト信州81号」 編 ~平成30年ごろ~

(5) 第5話 臨時快速「××××号」 編 ~少し未来~

 


 

「武蔵野線のメルヘン」

武蔵野線で活躍していた205系の話です。武蔵野線で活躍していた205系には、山手線から転属した車両もあれば、武蔵野線オリジナルの車両もありました。そんな車両たちが、日々、わいわい語りあいながらがんばっています。そして、さらに山手線に新型車両が投入されることになり・・、という話です。

 

(1) 第1話 先輩(山手線からの転属組) 編

(2) 第2話 後輩(武蔵野線オリジナルの205系) 編

(3) 第3話 年に一度の終夜運転 編

(4) 第4話 深夜の車両基地 編

(5) 第5話 南の国 編 ~少し未来~

 

 

「マイホームは12号車」 ~電車とともに歩み、電車とともに旅にでる~

山手線の一番後ろにもう1両連結されていて、それが家で住んでいる人がいる、という話です。

 

(1) 第1話

(2) 第2話

(3) 第3話

(4) 第4話

(5) 第5話

 

 

「ウルトラスーパーひたち」

常磐線が全線で復旧する日、新しく登場する特急列車の1番列車に乗車する話です。

 

(1) 第1話

(2) 第2話

(3) 第3話

(4) 第4話

(5) ~時刻表~

(6) ~竜田駅と移設先で建設が進む坂元駅の現在の様子~

 

 

寝台特急「山手線」

山手線を一晩中、ぐるぐる回っている寝台特急の話です。

 

(1) 第1話

(2) 第2話

(3) 第3話

(4) 第4話

(5) ~時刻表~

(6) ~あとがき~

 

 

● 創作列車について ● (2022/05/04 一部修正しました)

 私も鉄道ファンですので、自慢できるほどではありませんが、少しはいろんな路線やいろんな列車に乗ってきました。

 はじめのころは、「あれも乗った、これも乗った」と、乗った路線の数を数えたり、乗った距離を計算したり、はたまたその様子をこのブログに写真をまじえてアップしたり、といったことが楽しくて仕方ありませんでした。

 ですが、そんなことを繰り返していくうちに、私の中に疑問が芽生えてきました。疑問といっても自分でもよくわかりません。ただ漠然と、それが何なんだろう?みたいな感じです。それでも、最初のうちは無視することができました。あの路線にも乗りたい、あの列車にも乗りたい、と思う気持ちの方が強く、小さな疑問なんて無視することができたのです。

 私は今から10年以上前、40歳の時に当時のJR全線をやっとことさで完乗しました。「よ~し!JR線全部乗るぞ!」というのが、当時の私には大きな目標でした。JR線を完乗したあと、私は「よ~し! これからはJR以外にも全部乗るぞ!」と、私鉄や地下鉄、モノレールやケーブルカーなどにも、範囲を拡げて乗ることにしました。

 でも、そうやって範囲を拡げても、私の中の疑問は解決しませんでした。というよりも、なおさら大きなものになっていきました。「全部ってなんだろう?」「そんなに価値があることをやっているのだろうか?」、そんな感じです。全部と言っても、自分でその範囲を決めているわけですし、「結局、乗れるものにしか乗っていなんじゃないか?」、「自分以外の誰かが走らせくれる列車に乗せてもらっているだけなんじゃないか?」、いろんな路線や列車に乗れば乗るほどその疑問が大きくなっていき、いつのころからか真剣に向き合わざるをえなくなってしまったのです。

 ただ、私の中で1つたどり着いたことがあります。「俺が走らせるところからやれば、俺はどんな列車にでも乗れるんじゃないか」、それがこの「創作列車」の出発点です。もちろん、それは私にとってとても大変なことです。とてもハードルが高いです。でも、ここからここまでの範囲で全部なんてもうありません。誰かが走らせてくれるかどうかなんて関係ありません。そこにたどり着いたとき、「ああ、ここから先が俺の世界なんだ」と、生まれて初めて感じました。

 よく「やればできる」って言いますが、そもそも、やればできることしかやらなければ、やればできるにきまっているのではないでしょうか。本当に価値のあることは、やってもできないことにあるのではないでしょうか。目の前に拡がる大きな世界を、素敵な景色を、追いかけ、追い求め続けていきたい、そう思いながら、この「創作列車」に取り組んでいます。

 

 

 

T+K@創作列車

 

 

「老人ホームライナー」(3)

 こんばんは。

 「老人ホームライナー」の第3話です。

 お時間のある時に、お読みになっていただければ幸いです。

 

 「老人ホームライナー」

 (1) 第1話 外房線 行川アイランド

 (2) 第2話 尾久車両センター

 (3) 第3話  ← 今ココ!

 (4) 第4話

 (5) 第5話

 

 「創作列車」の目次です。

 「創作列車」 目次


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《 登場列車 》
 「老人ホームライナー」

《 物語の時代 》
 少し未来
 

《 登場人物 》
 男1 ・・ 「老人ホームライナー」の乗客(俺)(あの人)
 男2 ・・ 「老人ホームライナー」の乗客(オレ)(アイツ)
      *  *  *
 男3 ・・ 「老人ホームライナー」の乗客(松爺)(ワタシ)
      *  *  *
 男4 ・・ 「老人ホームライナー」の乗客(オーナー)

《 登場する路線・駅 》
 神竜電鉄 神竜峡駅 ※ 神竜電鉄、神竜峡駅、南遠駅は、架空の路線と駅です。

(三)

 列車は、東海道を西へ向かっている。
外は雨だ。ずっと降り続いている。人影のない街や誰もいない駅が、窓ガラスに滲んでいる。雨が叩きつける景色は暗い。

 松爺の容体が急変した。
 いつかこういう時がくるということは、おぼろげに知っていた。でもそれは未来のことであって、たぶん、今ではないだろうと、なんとなくそう思っていた。
 しかし、それは都合のいい幻想だった。現実の世界は確実に時を刻み続け、未来だと思っていた景色は、いつの間にかすぐ目の前に迫っていた。
 たしかに松爺は衰えた。少し前までは、顔つきも話し方も普通だった。もちろん、いい歳をしたお爺さんだ。だが、しっかりしていた。
 でも今は違う。もう立ち上がることもできない。視線は彷徨い、息は荒く、絞り出す声は言葉にならない。きっとオレたちの声も、届いていないだろう。時折、錯乱したかのように叫び声をあげる。まるで何かを訴えるかのように。
 松爺は誰よりも長く生きた。だから仕方がないんだ。そういうものなんだ。オレは、自分にそう言い聞かせ、折り合いをつけようとしている。

 「安倍川だね」

 ふいに声がした。振り返るとオーナーが立っていた。
 列車は、大きな川を渡っている。降り続いている雨のせいか、その水は濁っている。
 そうだ、静岡を出たばかりだった。ずっと松爺のことを考えていた。進行方向の右側に国道、左側に新幹線の橋梁が並び、列車はその真ん中を進んでいる。

 「今日はずっと雨だね」

 オーナーもこの天気を憂いている。

 「台風並みの低気圧が近づいているらしい」

 オーナーは、今時めずらしく、チョビ髭をはやし、いつも蝶ネクタイをしている。見た目は変わっているが、よく物を知っている。そういう点は、みんなからよくあてにされる。
 でも、なぜ「オーナー」なのかは知らない。オレがこの列車に来た時から、みんながそう呼んでいた。だからオレもそう呼んでいる。
 松爺だってそうだ。みんながそう呼んでいるから「松爺」だ。なぜ「松爺」なのか、考えたこともない。この列車では、そういうことを気にする人はいない。

 松爺は優しい。
 この列車で、最初に声をかけてくれたのは松爺だった。
 知っている人なんていないし、ルールもわからない。しかも、まわりは明らかにオレよりも年上の爺さんや婆さんばかりだ。
 最初のころは、世話好きの爺さんだな、って思っていた。でもだんだん、ありがたい、と思うようになった。自分をよく見せようとか、自己顕示欲とか、マウントとか、そういうのじゃなくて、松爺のは本当の優しさだった。しかも、その優しさは、誰に対しても変わらなかった。こんな歳になって言うのは変かもしれないけど、オレも、そういう人になりたい、と思う。

 列車は、どこかへ向かっている。これから、松爺をそのどこかへ連れていく。
 以前から、オーナーに話していたらしい。自分が人生の最後に訪れたい場所を。自分に最後の時が近づいたら、そこへ連れて行ってほしいと。
 列車は、松爺が人生の最後に訪れたい場所へ向かっている。近くの駅に着いたら、オーナーとあの人とオレの三人で、松爺をその場所へ連れていく。

 あの人・・、あの人は苦手だ。
 どうしてだろう。自分でも分からない。あの人とはどうしても合わない。

 雨が強くなった。窓ガラスを叩く雨が、真横に流れていく。
 また大きな川を渡り始めた。これは大井川だ。さっきの安倍川より流れる水が多い。上流の方はもっと降っているのだろうか。

 13時××分、南遠駅に到着した。
 列車は、ここから神竜電鉄という私鉄に乗り入れていく。
 だが、なかなか発車しない。

 「雨が基準を超えたらしい」

 オーナーとあの人が話しているのが聴こえてきた。 どうやら、神竜電鉄の沿線で雨量が規制値を超えてしまったために、運転を見合わせているようだ。
 雨は降り続いている。むしろ強くなるばかりだ。あともう少しなのに。この時間がもどかしい。はやく松爺を連れて行ってあげたい。


 ◇◇◇


 雨が少し弱くなった。俺たちはこれを待っていた。
 15時××分、南遠駅を発車した。ここからは、神竜電鉄に乗り入れていく。

 雑多な街の中を抜けると、平らな景色が拡がった。
 遠くの方が霞んでいる。その遠くの方のおぼろげな景色に、少しずつ近づいている。なんとなく曖昧だった景色がはっきりとした形になっていく。

 濃い緑色の樹木に囲まれながら、緩やかな勾配を上っている。右へ左へ小さな弧を描きながら進んでいる。そして、トンネルに入った。暗闇の中、窓ガラスに俺の顔が映っている。

 景色というものは不思議だ。例えば、山や谷、丘陵や渓谷といった、大地を刻み込みことによって創り出された造形の上に成りたち、川が流れ、木が育ち、花が咲く。そこに、季節や天候といったアレンジを加えると、ときに息をのむほど美しいものになる。しかし、そこに、人それぞれの人生のエピソードが加わると、不思議なことに、見る人によっては歪みが生じ、感情を握りつぶされるほど苦しいものにもなる。

 前方から光が現れ、トンネルを出だ。ほんの少しの平らな土地と小さな集落が現れる。ゆっくりと駅を通過し、またトンネルに入った。

 松爺は優しい人だ。
 誰にでも分け隔てなく声をかけ、話しを聞いてあげる。相手の立場になって考えてあげる。そういう人だ。
 松爺が誰かのことを悪く言っているのは聞いたことがないし、他の誰かが松爺のことを悪く言っているのも聞いたことがない。
 できることなら、俺もそうありたいと思う。でも難しい。今さらなのかもしれない。もっと若いうちに気が付いていれば、違っていたのだろうか。

 俺たちは、今、松爺の行きたい場所へ向かっている。
 松爺にとって、これが最後の旅になるだろう。声には出さないが、みな同じことを思っている。
 今日は、急遽予定を変更した。本当はアイツの番だった。頼まれたわけでもないのに、アイツが松爺に順番を譲ってやったらしい

 何度目かのトンネルを抜けた。すると、目の前に大きな湖が現れた。列車は、その湖の上に架かった橋梁を走り抜けていく。

 「これが神竜川か・・」

 オーナーが言う。

 「昔は『暴れ神竜』なんて呼ばれていたらしい。ダムが出来てからは、そこまでじゃないらしいけどね」

 『神竜』と書いて、『じんりゅう』と読む。

 「この川は長野県の諏訪湖から流れ出て、伊那谷を通って、北遠地方、つまりこのあたりに流れてきているんだね。我が国有数の大河川だ」

 たしかに大きな川だ。上流の方は、靄がかかっている。

 

 列車は、神竜川に寄り添うように、その下流から内陸の上流側へ向かって進んでいる。勾配を上っていく。山深く分け入っていく。
 俺たちは何かへ向かっている。少しずつ、その何かに近づいている。それはきっと、松爺にとって大事なものなのだろう。あともう少しだ。
 俺たちはすでに先頭の車両に移動し、運転室のすぐ後ろのドアの前で待機している。松爺を車椅子に乗せ、オーナーと俺とアイツの三人で連れていく。外は雨だ。みんな大きなゴミ袋に穴をあけて、それを合羽の代わりにかぶっている。

 またトンネルに入った。
 松爺は苦しそうだ。息が荒い。もう、時間はそんなにないだろう。思いのほか長いトンネルだ。この時間がもどかしい。松爺がもう一度行きたい場所へ、早く連れて行ってやりたい。


 ◇◇◇


 16時××分、神竜峡という名の駅に着いた。
 小さな駅だ。ホームは短く、先頭の車両だけがそのホームにかかっている。
 オレは「非常用ドアコック」の蓋を開け、コックをひねった。そして、ドアを開けた。よしっ! 雨は思ったほどじゃない。

 「行こう」

 あの人が言う。オレも心の中で同じことを呟いた。オレたちは、雨で濡れたホームに降り立った。
 あの人が松爺の車椅子を押す。オーナーが道案内役だ。オレは松爺にビニールの傘を差す。ボロい傘だが、ないよりはましだ。
 ここは山の中だ。背の高い木々に囲まれている。他には何もない。この駅のために木を倒し山肌を削りほんの少しだけできた平地にかろうじて一両分だけホームを作った、そんな感じの駅だ。駅なのに人の気配もない。
 ホームの端に小さな階段がある。あの人とオーナーが松爺を車椅子ごとかかえる。オレは松爺に傘を差しながら先に下っていく。
 階段を下った先に道が繋がっている。生い茂った木々の中に細い道が1本、下り坂だ。駅前だというのに、広場はおろか、商店も自販機も観光案内もない。この道があるだけだ。
 たった今降った雨が、水たまりになる暇もなく川のように流れ下っていく。オレたちは、その流れの中に足を踏み入れていく。あの人とオーナーが何か言う。その声が、雨が音にかきけされる。松爺だけは濡れないように、傘を差す。
 あれはなんだ? オレたちが進んでいくその先に、赤い何かがある。あの人もオーナーも気が付いているはずだ。進めば進むほど、少しずつ赤い何かの姿がはっきりしていく。あれは赤い塔のような何かだ。緑色の木々の中で、あの赤色の塔は明らかに異様だ。近づけば近づくほど、その存在が大きくなっていく。
 大きい。赤色の鉄の骨組みでできた大きな塔だ。思わず見上げる。まるで何かの入り口であるかのように、オレたちの目の前に聳え立っている。巨大で威圧的だ。

 「こっちだ。この吊り橋を渡るんだ」

 オーナーが大きな声で言う。
 すぐそこに神竜川が流れている。巨大な構造物は、吊り橋の主塔だった。この吊り橋で神竜川の対岸に渡るんだ。そうか、きっと川の向こう側に集落があるんだ。あの駅もそのための駅なんだ。松爺の故郷なのかもしれないし、会いたい人がいるのかもしれない。もうすぐだ。あと少しだよ。オレは松爺に声をかけた。

 

 吊り橋に足を踏み入れる。オーナーが先頭を行く。オレは松爺に傘を差す。あの人が車椅子を押す。床は板張りだ。雨が板の上を跳ねている。
 足が滑った。板張りの床を苔が覆っている。その苔がヌメヌメする。足の裏から伝わってくる。

 「あっ!」

 オーナーが叫び声を上げた。オーナーの髪に蜘蛛の巣が貼りついている。泣きそうな顔をして、両手で払いのけようとしている。ひどい姿だ。オーナーのこんな姿は見たことがない。
 ふいに下を見た。吊り橋のちょうど真ん中だった。何十メートルか下に神竜川が流れている。オレは急に怖くなった。落ちていく。その重力を感じる。引き込まれ、飲み込まれる。もう這い上がることはできない。その感覚が怖い。
 あっ! 今度はオレが叫んだ。ふいに風が吹き、傘を飛ばされてしまった。そして、まるでそれが合図であったかのように、急に雨が強くなった。しかも今度はどしゃぶりだ。なんて間が悪いんだ。ずぶ濡れだ。額を頬を雨が叩き、そしてシャツの中に流れていく。合羽代わりのゴミ袋なんて、何の役にも立たない。
 ビニールの傘は、雨と風の中を舞いながら落ち、神竜川の流れに飲み込まれた。その流れは怒りのように激しく、ちっぽけな傘は迫り出した大きな岩に叩きつけられた。その少しの間、時間の流れがゆっくりになったような気がした。

 「何やってんだ!」

 あの人が怒鳴った。その通りだ。オレは何をやっているんだ。傘はあの一つしかない。傘を飛ばされてしまったオレは、ただの役立たずだ。
 オレは引き返したくなった。ずぶ濡れで、靴の中も水浸しだ。何よりも松爺に差す傘もない。オーナーとあの人も顔を見合わせている。でも、ここまで来て今さら引き返すのか? 何のためにここまで来たのか?

 「行こう! あと少しなんだろ!」
 「そうだね、この橋を渡ったらすぐだよ」

 あの人とオーナーが叫んだ。オレたちは、さらに進むことにした。

 吊り橋を渡り切った。
 目の前は行き止まりだ。木々の覆われた斜面が壁のように迫っている。右に行く道と、左に行く道がある。右なら神竜川の下流側へ、左なら神竜川の上流側へ向かう。どちらへ進んでも広い道ではない。

 「こっちだ」

 オーナーが指す。左だ。
 眼下には神竜川が流れている。列車の中から見たのと全然違う。このあたりでは水量は決して多くはないが、流れが速い。
 
 先頭を歩いていたオーナーが振り返った。

 「あれだね」

 オーナーが指す。その先には・・、大きな石碑あった。
 その何かの石碑が、神竜川の流れを見下ろすように立っている。

 「松爺、着いたぜ」

 あの人が言った。その声は、松爺に届いたのだろうか?

 「おおーーっ、おおーーっ」

 突然、松爺がうなり声を上げ、車椅子から転げ落ちた。どうしたんだ? 何が起きたんだ? 松爺が地べたを這いつくばっている。石碑の方へ手を伸ばし、ほんの何センチかでも何ミリかでも、石碑の方へ向かおうとしている。まるで最後の力を振り絞っているかのようだ。

 「もう・・し・・わ・・け・・、あ・・り・・ま・・せん・・でした」

 松爺が叫びを絞り出した。
 どうしたんだ? 何がなんだか訳が分からない。 

 「やっ・・と・・、みな・・さん・・の・・とこ・・ろ・・へ・・ま・・いり・・ま・・す」

 * * *

 今から50年前の、あの日も雨が降り続いていました。しかもただの雨ではありませんでした。何十年に一度あるかないかの大変な嵐でした。
 その日、神竜電鉄は運行を見合わせ、その代わりに系列のバス会社が代行バスを出すことになりました。バスといっても、このあたりは道も狭く小型のバスでした。
 あまりの雨でしたので、代行バスも運行を見合わせる、という話も出ました。ですが、ちょうどその時、雨が少し弱まったのです。

 * * *

 あの人が松爺のそばに膝間づき、何か話しかけている。

 「ここ・・に・・、おいて・・いって・・くれ・・」
 
 『供養之碑』、石碑の表面にその4つの文字が刻まれている。

 * * *

 時刻はちょうど今と同じくらいでした。ワタシは、雨の中、代行バスを運転していました。小型のバスでしたので、二台で運行しました。私が一台目に乗車し、二台目のバスは、私の同僚が運転していました。
 駅で列車からのお客様を乗せて出発すると、雨がまた強くなってきました。しかも進めば進むほど、その勢いは増すばかりで、それはワタシが人生の中で経験したことがないほどでした。
 そして、神竜峡駅へ渡る吊り橋を通り過ぎ、さらにもう少し進んだところでした。大きな木が倒れ、道を塞いでいたのです。大雨で地盤が緩んでいたのでした。

 

 もともと幅の広い道ではありません。倒れた木を避け、前に進むことはできませんでした。ワタシは、二台目のバスを運転していた同僚と協議し、後進することにしました。いや、そうするしかなかったのです。二台目のバスが先にバックし、ワタシが運転するバスがそれに続きました。

 * * *

 いつの間にか、オーナーが石碑の裏にまわっていた。
 オレも石碑の裏にまわり、オーナーの横に並んだ。そして刻まれている文字を読んだ。

 (昭和××年7月××日)

 (神竜電鉄代行バス 転落事故 遭難者 ・・)

 そこには、一人一人の名前と年齢が刻まれていた。

 「松爺から、昔、バスの運転手をしていたようなことを聞いたことがあるよ。詳しいことは知らないけどね・・」

 オーナーがそう呟いた。

 * * *

 吊り橋まであと少しのところでした。
 今度は、大量の土砂が道を塞いでいました。つい先ほど通過したばかりなのに、わずかな間に大規模な土砂崩れが起きていたのです。
 ワタシたちは、大木と土砂に前後を塞がれてしまいました。先へ進むことも引き返すこともできなくなってしまったのです。
 ワタシは焦りました。もう一度、同僚と協議をするためにバスを降り、もう一台のバスへ向かいました。

 その時でした。
 大きな地鳴りがしました。一瞬何が起きたのかわかりませんでした。でもすぐにわかりました。凄まじい轟音とともに、土石流がワタシのバスを襲ったのです。ガードレールがほんの一時だけバスを支えました。でもそれは本当に一瞬でしかありませんでした。ワタシのバスは、ガードレールを突き破り、神竜川の流れの中に落ちていったのです。しかも、いつもの流れではありませんでした。豪雨によって増水し、水深は日頃の何倍にもなり、川幅いっぱいに水が流れていました。その中に落ちていったのです。

 「アアーーッ!」

 落ちていくバスの中から叫び声が聴こえました。その声が忘れられません。
 あとでわかったことですが、ワタシがバスを停めた場所には小さな沢がありました。その沢の上の方で岩盤が崩落し、巨大な岩と土砂が土石流となって急斜面を流れ落ちてきたのでした。
 もし、ほんの少しでもバスを停めた位置が違っていたら・・、ワタシがあんな場所にバスを停めていなければ・・。

 * * *

 「ここ・・で、死・・なせて・・くれ・・」

 「ずっ・・と・・まえ・・から・・、そう・・き・・め・・て・・い・・た・・」

 それは、松爺の魂の叫びだった。長い間、苦しみ続けてきた人の叫びだ。今、その苦しみから解放されようとしているのか。

 その時、汽笛が聴こえた。いや、聴こえたような気がした。こんな大雨の中で聴こえるはずがない。

 「帰るぞ!」

 えっ?

 「駅に! 列車に戻るぞ!」

 あの人が叫んだ。松爺を抱え上げ、車椅子に乗せようとしている。

 ちょっと待ってくれ! 松爺はここに置いていってくれって、言っているじゃないか。それが松爺の願いなんじゃないの。

 「何言ってんだ。ここで野垂れ死にするのがわかっていて、置いていくのか?」

 きっと松爺は決めていたんだよ。最後はここでって。細かいことは知らないけど、長い間、ずっと苦しんできたんじゃないの。せめて最後はここでって決めていたんだよ。

 「今、目の前で苦しんでいる人を置いていくのか」

 でも、松爺がそうしてくれって・・・

 「オーナー、あんたはどうだ?」

 「うん、もちろん一緒に帰るよ。つき合い、長いしね」

 松爺がそれでうれしいの?

 「俺は、松爺にいてほしい」

 松爺の思うようにしてあげればいいじゃないか! そのためにここまで来たんじゃないのか!

 「一人でやってろ」

 雨がオレたちを叩き続けている。これでもか! これでもか! と、雨がオレたちを叩き続ける。そんなオレたちの姿はみすぼらしい。
 オーナーとあの人が松爺を車椅子に乗せ、そして行ってしまった。今日、ここに来てどんな意味があったのだろうか? 松爺のためになったのだろうか?

 オレは今、何十年も昔の大きな事故の慰霊碑の前にいる。この事故でたくさんの人たちが亡くなった。
 もう一度、慰霊碑に刻まれた文字をなぞった。ある日突然、人生を途中で終えなければならなかった人たちの無念さを思う。
 できることなら、何十年も昔に戻ってなかったことにしたい。それが無理なら、せめて、ちょっと前に戻って関係ないことにしたい。でも、そんなのはあり得ない。たとえほんのちょっとであっても、前に戻ってもう一回なんてないんだ。松爺もずっと同じことを感じながら生きてきたのかな・・。
 もう・・、ここにいても仕方がない。オレにできることは何もないじゃないか。オレも戻ろう。三人の後を追いかけよう。
 オレは走り出した。がむしゃらに走った。さっきの吊り橋だ。この吊り橋を渡って戻るんだ。降り続く雨が床板の上を跳ねている。その水浸しの床板がすべる。はやく通り抜けてしまいたい。

 

 足元には神竜川が流れている。でも下を見ることはできない。その勇気がない。ただ前だけを見てもがいている。吊り橋の向こう側だけを見てあがいている。オーナーもあの人も、そして松爺も、きっといるはずだ。はやくみんなに追いつきたい。みんなのところへ戻りたい。


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(4)へ続きます。


《補足》

 ① 神竜川 と 天竜川

 本文中の「神竜川」は架空の川ですが、「天竜川」(特に静岡県内の流域)をモチーフにしています。
 天竜川は、長野県の諏訪湖を水源とし、伊那谷、そして静岡県の北遠地方を南進し、浜名平野で遠州灘に注ぐ、我が国有数の大河です。
 今でこそダムもあり、そこまでではないかもしれませんが、昔は「暴れ天竜」と呼ばれるほどの激流だったそうです。

 【地図1】天竜川(南部)
  ※国土地理院発行20万分の1地形図「豊橋」「伊良湖岬」を使用

 

 東海道本線を西へ向かうと、浜松の手前、豊田町駅と天竜川駅の間でこの天竜川を渡ります。

 

 (【地図1】A地点 天竜川 東海道本線 豊田町-天竜川 間)

 浜松側から天竜川に沿うように内陸に向かうと、天竜浜名湖鉄道の天竜二俣駅の近くを通り、船明(「ふなぎら」と読みます)、相津と進んでいきます。
 この↓↓写真のあたりは、船明ダムのダム湖ですので、水量がとても多く、川というよりもまさに湖です。

 

 (【地図1】B地点 天竜川 船明ダムから相津へ向かう途中)

 さらに北上すると、横山、西渡と経由し、飯田線の佐久間駅の近くに出ます。そして、一つ隣の中部天竜駅との間でその飯田線と交差します。
 こちら↓↓の写真は、その飯田線の天竜川橋梁です。この橋梁は、なんと線路の横に歩道もあり、歩いて渡ることもできます。そういう私も、この時はわざわざ歩いて渡ってみました。最初は、写真を撮りながら楽しく渡っていたのですが、途中でふと下を見てしまい、恥ずかしながら、ちょっと怖くなってしまいました。

 

 (【地図1】C地点 飯田線 天竜川橋梁 中部天竜-佐久間 間)

 この先には佐久間ダムがあり、静岡県と愛知県と県境付近から長野県へと続いていきます。



 ② 神竜電鉄 と 光明電気鉄道、佐久間線

 本文中の「神竜電鉄」は架空の路線ですが、「光明電気鉄道」と「佐久間線」をモチーフにしています。
 光明電気鉄道は、かつて中泉駅(現・磐田駅)に隣接した新中泉駅から二俣町駅までを結んでいた路線です。1928年(昭和3年)に開業したものの、その5年後には会社が破産するという、とても短命な路線でした。
 佐久間線は、かつて二俣線(現・天竜浜名湖鉄道)の遠江二俣駅(現・天竜二俣駅)から、飯田線の中部天竜駅との間を結ぶことを目的として計画された路線です。 実際、昭和40年代には途中の横山付近まで着工し、工事が進められていましたが、その後、国鉄改革のあおりを受け工事は中止されてしまいました。
 よって、光明電気鉄道も佐久間線も現存しない路線なのですが、大雑把に言えば、その2つの路線を足し合わせれば、天竜川に寄り添いながら北上していく路線になるわけです。神竜電鉄は、ろんな路線をイメージしています。

 【地図2ー1】光明電気鉄道、佐久間線
   ※国土地理院発行20万分の1地形図「豊橋」「伊良湖岬」を使用

 

 光明電気鉄道は廃止になったのが昭和初期ですので、はっきりと痕跡と言えるようなものはあまりないようです。その点、佐久間線の方は、着工された区間に限って言えば、トンネルや橋脚など、はっきり痕跡と言えるものもまだ残っています。ここでは、その佐久間線の痕跡を一部ですが、紹介したいと思います。

 【地図2ー2】佐久間線(着工区間)
  ※国土地理院発行5万分の1地形図「天竜」を使用

 

 

 (【地図2ー2】A地点 天竜浜名湖鉄道 天竜二俣駅)

 いわゆる未成線で終わったしまったことはとても残念ではありますが、一部、盛土やトンネル、橋梁の跡などが残っています。一部ですが、こちら↓↓の写真がそうです。

 

 (【地図2ー2】B地点 佐久間線 天竜二俣-山東 間の軌道跡)

 

 (【地図2ー2】C地点 佐久間線 船明トンネル 入口)

 こちら↓↓の橋は、佐久間線の第二天竜川橋梁の橋脚を利用して作られた「夢のかけ橋」という遊歩道です。橋脚を利用しただけで、上に載っている橋そのものは鉄道の橋梁ではありませんが、佐久間線の痕跡を有効に活用していただき、とてもありがたいです。この時は、私も実際に歩いて渡りました。

 

 (【地図2ー2】D地点 夢のかけ橋(佐久間線 第二天竜川橋梁))

 なお、佐久間線は非電化で予定されていました。本文中の神竜電鉄はその名の通り電化路線ですので、その点はあくまで創作です。他にも、本文中の神竜電鉄は南遠駅で東海道本線と接続していることになっていますが、佐久間線は二俣線の遠江二俣駅からでしたので、その点もあくまで創作です。また、神竜峡駅も架空です。特にモデルの駅があるわけではありません。

 本文中の吊り橋の写真は、天竜川にかかる秋葉橋(【地図2ー2】E地点)です。私が訪れたときは、もともと雨ではありましたが、私が吊り橋を渡っている最中に急にどしゃ降りになりました。ビニールの合羽を着て、折り畳みの傘も差してはいましたが、びしょ濡れになってしまいました。ですが、私の中のイメージとぴったりだったので、とても嬉しかったです。



 ③ 天竜川国鉄バス転落事故供養之碑

 1950年(昭和25)7月、大雨で不通になってしまった飯田線に代わり運行された代行バスが、天竜川に転落し、27名もの尊い命が犠牲になるという、痛ましい事故がありました。
 その犠牲者を悼む「天竜川国鉄バス落事故供養之碑」が、天竜川にかかる原田橋のすぐ近くにあります。
 本文中に出てくるバスの事故は、あくまで架空の出来事です。ですが、同じ天竜川で起きた事故ということもあり、この代行バスの事故は避けては通れないと思いました。

 【地図3】天竜川国鉄バス転落事故供養之碑
  ※国土地理院発行2万5千分の1地形図「佐久間」「中部」を使用

 
 
 

 (【地図3】A地点 飯田線 中部天竜駅)

 飯田線の中部天竜駅から街中を通り抜け、原田橋を渡ります。こちら↓↓の写真は、その原田橋から上流側を望んでいますが、当時の原田橋は現在よりももう少し上流側にあったそうです。この写真の中央左に山肌が崩れているように見える箇所がありますが、そのあたりがもともと原田橋があったあたりだと思います。

 

 (【地図3】B地点 原田橋より佐久間ダムの方角を望む)

 その現在の原田橋を渡り、右に折れるとすぐに慰霊碑があります。
 私はただの鉄道ファンでしかありませんが、慰霊碑を前にすると厳かな気持ちになりました。また、慰霊碑の裏側には、犠牲になった方々のお名前とご年齢が刻まれています。事故で人生を終えなければならなかった人たちの無念さを感じました。

 

 (【地図3】C地点 天竜川国鉄バス転落事故供養之碑)

 なお、私が訪れた時は、原田橋を渡って右に進もうとすると通行止めのようになっていましたが、徒歩で慰霊碑まで行くことは可能でした。

 

 

 

 T+K@創作列車

 

無題

こんばんは。


「老人ホームライナー」の第3話を少しずつ書き進めています。


そして、やっと、ほぼできた、と思えるところまできました。


ただ、読み返すたびに、イケテイナイところがみつかり、それを直す、という繰り返しになっています。


結局、自信がないというか、迷いがあるのだと思います。


これから一週間以内に出します。


この一週間で、迷いのないものにします。


これは、私自身に対して言っています。


T+K@創作列車




大雨

 おはようございます。


 昨夜、窓がちゃんと閉まっていなかったのでしょうか。


 窓の下の座席と、その周辺の床が、びしょ濡れになっている車両がありました。





 T+K


素敵な人と通勤電車

 こんばんは。

 

 今日は、毎朝の通勤電車でのお話です。

 

 私は、毎朝の通勤に電車を利用しています。

 その途中、某駅で某線に乗り換えます。

 某線はその某駅が始発駅ですので、私は余裕で座ることができますが、

 私が乗車した電車がその某駅を出発するころには、座席は埋まり、立っている人が少しいるか、ぐらいになります。

 そして、すぐに一つ隣の駅に到着します。

 すると、かなりの確率で、私と同じ車両にとても素敵な女性が乗ってくるのです。

 しかも、信じていただけないかもしれませんが、

 どうやら私は、その女性の方にとても気に入れられてしまったようなのです。

 バッカじゃないの! そんなのお前の勘違いでしょ!!

 と思われたとしても無理はありません。

 私も、もし同じ話を他の方から聞いたとしたら、同じように思うことでしょう。

 でも、これは本当のことなのです。

 その証拠に、その女性の方は、私のことを見つけると、

 よかった。あの人、今日も乗ってる。はあと

 というオーラを出しながら、さりげなく、私から少し離れたところに立つのです。

 お恥ずかしながら、私だって素敵な方に気に入っていただいて悪い気はしません。

 いや、悪い気はしないどころか、正直に言わせていただけば、

 このままずっと乗っていたい、そう思ってしまいます。

 しかし、そうはいきません。

 と言うのも、

 私は、すぐに、もう一つ隣の駅で降りなければならないのです。
 
 せっかく、素敵な方に気に入っていただけたのに・・

 

 私が乗車している車両から、その駅で下車するのは、いつも私しかいません。

 

 もっと、違う出会い方をしたかったです。



 T+K
 

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