2024.2.29、私は二日前から入院しています。

 

会社の定期健診で見つかった大腸ポリープは思ったよりも深刻で、合計で11個もあり、中には大きいものもあり、10ミリ、8ミリ、5ミリの3つのものが即座に切除すべきと判断されました。

10ミリを超えると悪性になる可能性が高くなるからという事でした。

 

名医といわれる外科での手術は順調に進み、3つのポリープを無事に切除しました。

 

鎮痛剤を投与された後、横になった状態でお尻から内視鏡を入れてポリープを切除するのですが、目の前のモニターには自分の腸の中が映し出され、ピンク色の洞窟をうねうねと進み、時折バキュームをしたり水を噴射する様子は未知の世界を探検しているようで見ていて飽きないものでした。

 

素直にああ奇麗だな~と思えたのです。

 

洞窟の壁面に小豆玉や大豆のような形で飛び出したポリープは、カウボーイが投げ縄を投げて牛を捕まえるように一瞬で糸の輪の中に絞られ、ギューッと閉められると電流をジュっと流されて焼き切られました。

切られた口は灰色の火傷のようで、その傷口は洗濯ばさみのようなクリップでぱちんと止められて放置されました。

 

医師の先生方は声を掛け合いながら確認してテキパキと作業を進めていきます。

約15分ほどの手術時間でした。

 

手術されたとはいえ、お腹の中に何らかの違和感はあるものの、私は腸の中に残された洗濯ばさみのような6つのクリップの行方が気になって仕方ありません。

 

先生は画像を見ながら淡々と説明をすると、「何か質問は?」と言われました。

 

「あのう、あの残されたクリップはどうなるのでしょうか?」

 

「ああ、あれはそのうちウンコと一緒に出てきますよ。あれが出てくるときにカランコロンと音を立てたという話も聞いたことはありませんから心配いりません。」

 

とさらりと言うと、これでもう質問はないですよねと念を押すように私を見つめ、PCの画面に顔を向けながらお大事にと言われました。

 

すんなりと手術を終え、支払いを済ませると送迎役で来ていた娘の車に乗りこみ、10分ほど離れた入院先の病院へと向かいます。手術した外科は名医ですが、入院設備がないため大きな病院に転院しなければならないのです。

 

入院先の病院は小高い丘の上にあり、初めていく場所でした。

入院手続きを進めていくと、私が希望したのは個室であったため、その病棟はホスピス病棟になりますと。

よってこれらのアンケートに答えてくださいと言われて書き出しました。

 

1 延命治療を希望されますか?

2 お知らせしたい親族や知人はいますか?

3 なるべく苦しまないような薬品の投与を希望しますか?

4 ご自宅で最後の時間を過ごしたいですか?

5 最後までそばで手を握って看取って欲しいですか?

 

などなど10項目以上が並んでいます。

これらに該当するものがあれば丸を付けてくださいとありますが、そんなつもりでもないので特にありませんと書きました。

まあ、そのような特殊な病棟ですので仕方ないのですが、ポリープ取っただけなんだけどな~としか思えません。

そして最後に聞かれました。

 

「カトリックの方ですか?」

 

「いいえ、仏教徒です。すみません。」

 

そうです。ここはミッション系の病院なのです。

 

そそくさと入院手続きを進め、病院の中を歩きます。

エレベーターの近くにマリア像があります。

病院で見ると教会のものとは何だか違った感じがします。

 

その先には「聖堂」と書かれていました。

なるほどホスピスですからね。

 



部屋へと案内された私は入った瞬間にその部屋が気に入りました。

 

大きな窓の外には駐車場と大きな木々、その先にはバス通り。

広い部屋で開放的、日差しも明るい。

 

すごく快適に感じました。

 

さらに快適な空間にするため柏手を打ち、アロマオイルを数滴たらしました。

ここに3日間、何の邪魔もなしで過ごせると思うと嬉しくなりました。

 

そしてこの空間での不思議な神秘体験が始まったのです。

 

                     了