「古事記には大国主命という神様が出てきて大活躍をする話がありますが、そのあたりの話はどうなのですか?」

 

「大国主命は古事記ではスサノヲの六代孫が大国主命であるとされ、彼が大活躍する物語をたくさん加え古事記を盛り上げています。ただ、六代間があるわけですが、その間の子孫の話はほとんど無視され何も出てこないわけです。これも非常に無理がある話です。因幡の白兎の話、兄弟の八十の神々からのいじめの話、大やけどしたり木の又に挟まれて何度も死んで生き返る話、スサノヲからの試練の話、様々な恋愛話など面白く語られています。」

 

「この話は真実なのですか。」

 

「古事記にはこのように書かれていますが、日本書紀には出てきませんし、ホツマツタエにも同様に触れられていません。この部分は古事記を編纂するにあたり、出雲地方のさまざまな言い伝えを大国主命が主人公の話として意図的にかき集められたのです。」

 

「なるほど。どうしても違和感がある部分でした。」

 

「スサノヲとクシナダヒメの間にはオオナムチ、オオトシクラムスビ、カツラギヒトコヌシ、スセリヒメが産まれます。出雲、松江にて育った子供たちは非常に恵まれた環境で育ちます。出雲の自然に囲まれ、松江の海に恵まれ、~八雲立つ出雲八重垣妻籠めに八重垣作るその八重垣を~と有名な歌にあるように、スサノヲは夫婦仲良く周りの人々とも協力して素晴らしい集落を形成していきます。やがてこの歌に歌われた心境もその毎日の活動もアマテラスに認められ、この八重垣の宮を中心としての出雲地方の治世を任され、人民の信頼も得てスサノヲは別人のような立派な出雲の王へとなっていくのです。」

 

「では、あの八重垣の和歌はただ妻や家族を愛するというものではなく、アマテラスへの忠誠心も込められているのですね。」

 

「そうです。和歌の部分だけが切り取られて、夫婦愛の鏡のあるかのように伝えられているとこが多いのですが、その前後のアマテラスとの確執や、宮中の大混乱の問題、そのやり取りの流れから、政治的なメッセージも込められて歴史的な転換のきっかけになった歌でもあるのです。」

 

「そうなんですね。そのようにスサノヲも落ち着いたころに産まれてきたのがオオナムチなんですね。そこではやはり父であるスサノヲからの厳しい教育もされたのですか?」

 

「そのあたりはどの文献にもないところですが、間違いなくスサノヲからの厳しい教育はされています。もともとは荒々しく狼藉も働いてきたスサノヲですから、武芸という面はもちろん戦としての実戦にもかなり長けていました。つまり本当に個人としても最強だったのです。ですから、政を行っていくにあたり、人々の平和を守るにあたり、実戦としてのスキルの高さは絶対に必要と考えていたのです。子供達には幼少時より武芸と兵法などに関してはかなりの英才教育が施されることになっていきます。そこに自分はできなかった人徳によって人々から敬われるだけの人間性の形成、さらにクシナダヒメをはじめとして行われた、音楽、唄、などの情操教育がありました。ですから、オオナムチは優しく、強く、人間性も兼ね備えた素晴らしい若者になっていくのです。」

 

「それでは古事記に出てくる大国主命と須佐之男命の試練を与える~のあたりの話とも関係しますか?」

 

「まず、古事記では、大国主命が須佐之男命の娘を嫁に欲しいと言い出して、それに面白くない須佐之男命が試練を与えられるという記述になってますが、違和感を感じざるを得ませんよね。大国主命は六代孫の子孫のはずなのに、須佐之男命の娘との出会いとなれば全然時代が合いません。ですから古事記に出てくる、大国主命への試練として蛇のたくさんいる部屋に寝せるとか、ムカデや蜂のいる部屋に寝せるとか、それはかなり厳しい教育をされたということの比喩での表現であるのです。」

 

「なるほど。古事記では大国主命は、優しくて立派だけど、結構間抜けな部分も多く描かれています。何度も騙されて殺されたり、こういう試練を受けた時も姫たちに助けてもらったり、これには何らかの意図があるのですか?」

 

「つまり、古事記としては出雲の国をアマテラスの国に譲ったことを正当化する流れをつくる必要があったのです。スサノヲの子孫が立派に国を創っていたのだが、大国主命が結構頼りない王であったので問題も起こしていたと、それを治めるためにアマテラスが国を治めるように譲るしかなかったのだ。みたいな感じです。時代がずれているのでそもそも無理があるんですが、いろんな面白いお話を入れて印象と記憶をそちらに移すことによって巧妙に後世の読み手が混乱するように作られています。優しい王様だったけど仕方ないよね。アマテラスの国が治めたほうがいいよね~という流れにしたかったのです。」

 

「では実際のオオナムチは優秀だったのですね?」

 

「もちろんです。兄弟で父であるスサノヲを助け、出雲の国を建国し、立派に治世していきます。一番の働きをしたと言ってもよいでしょう。その頃にはスサノヲとアマテラスの関係も良くなっていましたので、オオナムチの能力を認めたアマテラスによってオオナムチは武人を統括する最高位であるオオモノヌシ(大物主)という地位を与えられるのです。そしてアマテラス政権を支えていくことになります。オオナムチも必死だったのです。スサノヲの汚名を晴らし、一族と出雲の繁栄を確立すること。そのことを心から願っていたのです。」

 

「では、古事記で語られる大国主命とオオナムチは別人と考えてよいのですね?」

 

「別人と言えばそうなのですが、一部引用している部分もありますので、古事記に出てくる大国主命という存在が、出雲一族の複数の先祖をつぎはぎした想像上の存在で設定されていると言ってよいでしょう。」

 

 

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