「アマテラスの子供たちの話がありますよね。宗像三女伸などはそう言われていますが、アマテラスが女神ならば本当は誰の子かとなりますよね。古事記ではそこを誤魔化すために神話的な語りになってるんでしょうけど。」

 

「そうですね。古事記での表現では、アマテラスとスサノヲの誓約で、アマテラスに3人、スサノヲに5人、合計8人の子が産まれます。アマテラスはスサノヲの十拳の剣を三つに打ち折って三姉妹を産みます。それがタキリヒメ、イチキシマヒメ、タギッヒメ、後の宗像三女伸です。次にスサノヲはアマテラスが身につけていた珠を受けて五柱の男神を産みます。そこでアマテラスが三姉妹はスサノヲのモノザネから生まれたのでスサノヲの子。五柱の男の子は自分のモノザネから生まれたので自分の子といいます。ここにも少し嫌みがあるのがわかりますね。するとスサノヲは自分の心が清明なので自分の剣から女の子が生まれたのだ。だから自分の勝ちだと勝ち誇って悪行を続けたとありますが、よく意味が分かりません。」

 

「そうなんですよ。特に最後のとこでなぜススノヲは勝ち誇るのですか?」

 

「これはホツマツタエで語られていたヒルコヒメとスサノヲの会話がアマテラスとスサノヲとのやり取りとごちゃ混ぜになっているのです。」

 

「ということはどういうことですか?」

 

「高天原を追放になったスサノヲは、まず姉のヒルコヒメのところに報告に向かいます。そして自らの更生を誓います。しかし、そのことを信頼できないと語ったヒルコヒメに対し、スサノヲは必ず自分は追放されて地方に行っても立派に立ち直り、嫁をめとって子を産みます。その時にまだ私の心が穢れていれば女の子が生まれるでしょうし、心が清らかであれば男の子が生まれるでしょうと応えるのです。このやり取りがアマテラスの子とスサノヲの子の話とごっちゃになっているのです。そして実際にスサノヲは後ほど男子をもうけますので、私が勝ったといったとなるのですが、そのような表現はしていません。」

 

「そうですよね。これで意味が通じました。」

 

「では、話をアマテラスの子に戻しましょう。彼は正室、側室の后たちとの間に五男、三女の八人の子をもうけます。まずは正室のセオリツヒメが後継ぎとなるオシホミミ、他の側室たちが長男のタナヒト、三男タダキネ、四男バラキネ、五男ヌカタダ、長女タケコ、次女タキコ、三女タナコ、と続きます。正室の他に四人の側室がいましたが、様々な事件も起こる中で側室も左遷されたりと結構波乱に満ちた皇族としての人生になっていきます。そのあたりはまた後程話します。」

 

「主にセオリツヒメの子であるオシホミミが中心となって活躍していくのですか?」

 

「そうです。セオリツヒメが容姿も端麗で徳も高い方だったので、正室としてアマテラスを完璧に補佐していきます。当然他の側室からの嫉妬なども起こりますがそこも見事にさばいていきます。オシホミミは生まれつき身体が弱い子でした。母乳を飲ませても多くを吐いてしまうので成長も遅く病気がちでした。アマテラスとセオリツヒメが多忙な日々を送り、全国を行脚することも多かったので、祖父のイザナギやヒルコヒメに預けられて英才教育も受け、後継ぎとして愛情たっぷりに育てられました。成人してからも治世を行ったり、地方での乱を鎮めたりと活躍するのですが、身体が強いほうではないので無理は効きません。そこで多くの部下になるべく仕事を任せ、自分は見守るという方法を多用することになります。そこで人の持つ特性を見抜き、人心を掌握し、人を動かし政を行っていく手法を自然と身につけることになります。アマテラスが始めた日ノ本の国づくりは、このオシホミミが行った徳のある政治によって大きく発展していったと言っても過言ではありません。そして、他の兄弟たちもオシホミミの人柄に惚れ、協力を惜しまず活躍していくのでした。オシホミミはその後、長男ホノヒカリと次男二ニギをもうけます。この二ニギが高千穂地方で大活躍し、後の神武天皇への系列とつながっていくのです。」

 

「オシホミミとはあまり聞かない神様ですが。」

 

「古事記にはオシホミミはほんの少ししか出てきません。しかし、彼が行った仕事はとてつもなく大きいものであり、他の人では変わりはできなかったであろうと思われます。まず、アマテラスから正式に実権がオシホミミに移るころ、出雲の国譲りの問題が起こります。この戦いに勝利し実際に国譲りのところまでもっていくのがこのオシホミミなのです。先ほども述べましたようにこのオシホミミは、部下に仕事を任せる天才でした。部下が自分で動き、手柄を立てたように導いてあげるような指導にたけていたのです。ですから部下たちの実力はどんどん伸び、多くの人が大活躍するようになったのです。出雲の国譲りの成功により、オシホミミはイザナミ、アマテラスの念願でもあった東北から九州までを平定することができました。」

 

「そんなに素晴らしいリーダーシップを発揮できた方なんですね。古事記や日本書紀には触れられていないのが残戦です。」

 

「往々にして人徳ある方が治世を行っていく姿というのは地味なものです。ですから神話や言い伝えとしても残りにくいのです。オシホミミの性格からして、後世の人たちからは自分はあまり知られたくないということを望んだかもしれません。オシホミミはやがて神上がりしてこの世を去るときに二人の息子に語ります。二人して仲良く国民を治めていくように。その際に常に八咫鏡にて自らの姿を眺め、心を正し、天の神々に心を向けて民を愛でる自己でありなさい。そこに我欲があってはならないのです。父は土に埋まった箱の中でお前たちの姿をいつも見ておるぞ。このように語り、箱根の山奥の祠に穴を掘り、神事をもって崩御されるのです。箱根神社の本当の御祭神はオシホミミなのです。」

 

 

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