バージイからの指導は続いていく。

主に私の健康のことや最近の生活態度などについてがメインだったが、とうとう仕事への指導が始まった。

 

「おい、つるぴかよ!」

 

「はい、なんでしょう。」(つるぴか~慣れないなあ)

 

「お前さ、か~な~り、手抜きしてるよな。」

 

「え??何をですか?」

 

「何をですと??まあ、シャーシャーと!一番いま力を入れないといけないことに決まっておるじゃろうが!!」

 

「と、いいますと??」

 

「仕事じゃ、仕事!!!手を抜き放題抜いておる!もう抜きすぎて抜きすぎて空腹でヒョナヒョナと倒れてしまう老いぼれ犬みたいになっとるわ!!」

 

「いえ、ちゃんとやってますよ。」

 

「はあ~~??ちゃんとじゃと?何をもってちゃんとと言う?お前は水戸黄門の前でしらを切りとおす越後屋か!!悪代官か!!ちりめん問屋の格好をしていても、水戸黄門の目をごまかすことはできぬように、わしの目は絶対に誤魔化せんゾ!!!もう白州の上に出されたも同然じゃ、観念して白状せい!!」(時代劇、どこで見たんだろ~)

 

「わかりましたよ、わかりました!だいたい、半分くらいの力しか出してないかもしれませんね。すみません。」

 

「なに?なんて言った?半分??そんなことはない。お前が注いでるエネルギーは1割がいいところじゃ!!!それ以上は、絶対に出しておらん!どう高く見積もっても1割!そうだと思わんか?正直に言ってみい!」

 

「そこまでとは思いませんが~。厳しくみるとそうなのかもしれません。」

 

「そうじゃろう?お前は1割程度のエネルギーを注いで、テキトーに仕事を流しておる。それも、ちょう~適当にじゃ!どう思う?それ。そんなんでいいんか?おかしいと思わんか??」

 

「それは、そうです。その通りです。ちゃんとするようにします。」

 

「ほう~~~~。言ったな。やると言いったな?その言葉、もう刻まれたぞ。お前自身の記憶にきざまれたぞ!聖者バージイの前で言ったんじゃ。そこに嘘は許されん。ところで、お前、今まで仕事頑張ったこととかある??今までの人生で頑張ったと思ったことある?」

 

「それはありますよ~。」

 

「それはいつじゃ?」

 

「それは、仕事始めた最初のころの営業とか。証券会社の営業とか~。他にも・・。」

 

「ふむふむ、確かにね~新人の頃は結構頑張っていたのかもな~。要領悪いながらもボチボチやっておる。表向きはな。だからうだつも上がっとらん。でも証券会社~。この時は~もう結構横着してサボっておる。でも成績は上がっておる。で、その違いが分かるか??」

 

「確かにおっしゃる通りですが、違いまでは判りません。」

 

「そうじゃろうな~。まず、新入社員のころの会社では、成績が上がらなくともコツコツと地味に頑張っておった。でも要領も悪くうだつも上がらなかった。でもな、ここでは一生懸命汗かいて努力したわな。キツイ思いもしたわな。朝から晩まで飛び込んで怒鳴られて。で、結果はイマイチ。でもな、そんな時は、見えないところでちゃんと努力は認められとんじゃ。徳が積まれとるんじゃ。陰徳として、見えないところで善なる気が蓄積して貯金されとるんじゃ。だから、次のところで適当なことをしても、そんなに頑張らんでもその陰徳が形となって出とる。だからよい成績になる。それと、証券会社では、努力しとらんように見えても、善なる思いが行動の根底にあったわな。お客さんをしっかり儲けさせてやろうとか、豊かにしてやろうとか、その思いは真剣でかなり勉強もしたわな。それも形になったんじゃ。だから大した努力もしてないように見えて、成績は日本一に何度もなったりしたんじゃ。

 

「なるほど~そうかもしれません」

 

「でもな、その時はそれなりにやってるようでもな、お前の全力からすると、その時でも平均で5割じゃ。瞬間的には8割出した時期もあるが、僅かじゃ。そこをどう思う?」

 

「そうかもしれません。それでも5割か~」

 

「間違いない。お前は、今まで、仕事をしとらん!!全くしとらん!全然しとらん!全体でいうと3割じゃ!」

 

「そこまで言わなくても~」

 

いいや!!誰も言わんようやから、わしが言うてやる!ただでさえ容量も悪く、仕事も遅く、怠け者のぐうたらのコンコンチキのお前が、年を取ってきて横着さまで出てくると、こりゃまたトンデモナイ怠惰なモンスターになりおった。このままでは本当にどうしようもない!!1割やぞ!1割の力でしか仕事しとらんとかどういうこと?お前は団子ばっかり食べて何もしない八兵衛よりも役立たずじゃ!入浴シーンで視聴率稼ぐ由美かおるみたいに一瞬でもスーパーな仕事がこなせるならまだ有り難がる者もおるが、どうにもこうにも人様や社会の役立つ仕事をしとらん。何よりも自分自身のためになっとらんと思わんか?お前、なんのためにこの不自由な世界に生まれてきたんじゃ?死んでこの世を離れるときに何を持って帰るんじゃ?テキトーに誤魔化すことが相当にやばい事じゃとそろそろ気づかんかい!!

 

「確かにそうかもしれませんが、私は仕事だけをしに来たんじゃないと思うんですが~」

 

「あ~の~な~!!この屁理屈こねるぐうたらのび太め!まず、今の目の前にあることを全力で取り組んで突き抜けるんじゃ!もう、誰も文句の言いようがないくらいに突き抜けて突き抜けて、勘弁してくださいと言われるくらいまでやりきると、その仕事は卒業なんじゃ。すると、自ずと次の仕事が出てくる。次これどうぞ~大好物のうなぎとウニどうぞ~とな。そういうもんなんじゃ。だから、本気でぶっ倒れるまでやってみるぐらいの気概がないと大きくつき抜けることもできんのじゃ!」

 

「でも、本当にやりたいことはなんとなく見えていて~それに近づくことも必要なんじゃないかと~」

 

「でもでもでも!!でもはいらんわい!デモ行進でもするつもりか!この不自由な世界。筋トレしとるような、水中を歩いとるような、この何とも重っ苦しい人間の世界で、さらに負荷がかかりまくりの油圧式ポンプを押すような作業として、いまの営業という仕事をしとるわけじゃ。これ、自分で選んでやりよるんぞ!面倒とか、しんどいとか、苦しいとか、自分で選んでやりよるんぞ。嫌なら手放せばええ。でも離すことはせん。このショベルカーの油圧システムを両手で動かすような負荷がかかる仕事は、この世界でしか経験できんからお前は自分で選んでしよるんじゃ。わざと苦手なことをしよるんじゃ。今までの転生で逃げてきた苦手な苦手な人間臭いことをしよるんじゃ。そのことがまだわからんのか。」

 

「そうだったんですね。」

 

「そうじゃ。そういうこと。では、お前は何をする?」

 

「はい?何を?ですか?」

 

「そう、何を~~今からするんじゃ?」

 

「それは、その~とりあえず、お客様にアポをとって。」

 

「そうじゃろ?そうに決まっとる!じゃあ、今すぐ電話じゃ!連絡じゃ!!」

 

「え?でも、もう夜だし、電話できませんよ。」

 

「アホか!!電話できんなら、何がある?メールも、手紙も、提案書作るのも。何でもあるじゃろう!無限にあるんじゃ!寝る間もなくやることはあるんじゃ!!馬車馬のごとく働け!!馬じゃないぞ!自由に走る馬なんぞ1000年早い。馬車馬じゃ!!馬車馬が嫌なら農耕馬じゃ!!とにかく動け!そして走れ!!誰かのために走りまくってぶっ倒れるように眠るような状況になった時に初めて見えるものがあるのじゃ。突き抜けて初めて見渡す景色があるのじゃ。そのことは間違いがないこと。いいか、今すぐやれ!今すぐじゃ!

 

バージイが姿を消すと、私はまずお客様にLINEを二件入れて一件のアポが取れた。

さらに手紙を2通書き投函の準備をした。

スケジュール表を見直し、今までの活動を見直し、今月の活動予定を埋めていった。

お客様のリストを見直すと、チラホラと皆様のお顔が浮かんでくる。

たしかにご無沙汰ばかりだな~。

訪問のアポをとりお顔を見に行こう。

遠方の方にはお手紙を書こう。

昔はコツコツとやっていた当たり前のことをやろう。

バージイが言ったわけのわからない例え話と雑な言葉の中にある珠玉の言葉を大切にしよう。

そう思って万年筆のブルーブラックのインクを取り換えた。

馬車馬だ!!