ときドキ時計SS.03 出雲風美 『会えない時間は交換トリックで』
みなさんコンバンハ!
担当Pの「sakura'萌え'zx」です。
クリスマスはいかがお過ごしでしたでしょうか~
そして!仕事納め!でしたかー?
早速第三弾行きます!
ときドキ時計 CV.07 出雲風美(クーデレ・幼馴染)CV:斎藤千和
SS.03 出雲風美『会えない時間は交換トリックで』
シナリオ:関根聡子
貴重な昼食の時間は一時間――。
クラスが違う彼と一緒にいられる学校での時間は、それ以下でも、それ以上でもない。
――それなのに。
『ねえ、食事中になに読んでるのよ』
私は彼に話しかけた。
せっかく幼馴染みが早起きして作ってきた弁当を前にしてもなお、小説を読みふけるような男の子ってどうなのだろう。時代が時代なら、島流しや絞首刑、さらには異端審問会で逆さ張り付けの刑が下ってもおかしくないのではあるまいか。
ミートボールを口に運びながら、「これは謎解き小説だよ」と、彼が言った。
『それは私の手作り弁当より大事なもの?』
もぐもぐと口を動かしたまま、彼は答えない。本の中の謎解きに夢中なのだ。
まったく――小説なんてすぐ読めちゃうじゃない、あなたなら古典だって速読可能でしょう? 先生も驚いていたわよ、本校始まって以来の神童だって。その後あなたが白紙のテストを提出して、先生方はぬか喜びしたって勝手に残念がってたけど。
テストなんかであなたの素晴らしさがわかるわけないのに――。
『――で、なに読んでいるの?』
だから新本格推理小説だよ、と彼は答えた。
新本格? 本格とどう違うのだろうか。新がつくというからには、きっと新しい本格ミステリーなのだろう。
彼は「あぁ、でも中盤からはメタミステリかも」と付け加えた。メタミステリ? それは造語だろうか。そしてそれは彼女のとの食事中もすることなの?
私が眉間に皺を寄せて彼の読書姿を睨んでいると、「読み飛ばせなくてさ」と爽やかに笑った。私は彼のこの顔に弱いのだ。
『……本格と新本格とメタミステリはどう違うの?』
「色々違うよ」と、返すには返すが、結局視線は小説に向けられたまま。
……私が本に負けてしまうとは――。
その後も必死に話しかけてみるが、彼の視線は一向に弁当に向かない。
『それ……そんなに面白いの?』
彼はうなずいた。どうやらもうすぐトリックが解けるらしい。
彼曰く、「推理小説というのは、いわゆるパズル小説のこと」、だそうだ。
そして、「君のほうが得意だと思うけど――」、と彼は付け加えた。
確かに、理数系で私の成績に敵う者はこの学校にはいない。だが、それは知識の度合いとは違うのだ。彼の方が知識を大量に所有している分、IQを競えば私よりも数段高いのではないだろうか――。
『で、どんなトリックなの? まだ解からないの?』
私は彼に、お弁当に集中して欲しかった。この私が朝早く起きて、がんばって作ったのだ。
――なのに。
「面白い推理小説は1ページも飛ばせないんだ」、ですって。
『……そんなに面白いなら貸してよ』
私は彼から小説を引き離そうとした。
彼はまた爽やかに笑い、「読み終えてからな」と言った。
私は字が書いてあるだけの紙の束に、完全に敗北したのである。
× × ×
放課後――机に向かい、私は小説を読んでいた。
彼は生徒会の活動で会うことはできない。
――やはり、昼食の時間は大事だと再確認した。
ページをめくる。読み進めれば、確かに犯人よりもトリックに惹かれていく――。
もう夕刻だ、早く帰らなければ――とさらにページをめくる――。
珍しく居残りしている私に、友人の能代千尋が話しかけてきた。
でも、今は――。
千尋の「なに読んでんだ?」という問いかけに、言葉を返す。
『――謎解き小説よ、一言で言えば』
私はさらに推理小説についての自分なりの見解を付け加えようとしたが、言葉をつぐんでしまった。
次のページの衝撃的な展開に、思わず夢中になってしまったのだ。
確かに、この小説は面白い。彼が夢中になるのもうなずける。
私は知った――。
どんな大切な人でも、無下にしてしまうほどの小説はあるものなのだ、と。
彼が私と私の弁当を無下にしたのも――まぁ、わからなくもない。
でも、私とあなたとは、推理小説を読む動機が違う。
私が本に夢中になっているのは、あなたとの時間を共有したいから――。
あなたが読んだ本を私も読むことで――あなたがめくったページをめくることで――あなたは何を考えていたんだろうと考える。あなたと一緒にいられない時間も、これで素敵なものに変わる。
あなたと一緒にいられない時間も、あなたを感じられるように――。
× × ×
昼食の時間――。
あなたが新しい本を持ってやってきた。読み終えたばかりの推理小説らしい。
『今日は西洋館と密室トリックか――』
なかなか面白そうだ。最近の彼の趣味は、論理的なものが多い。彼が好きなものなら、ますます興味をそそられる。
そして私たちは交換する――私は彼にお弁当を――彼は私に小説を――。
//END
担当Pの「sakura'萌え'zx」です。
クリスマスはいかがお過ごしでしたでしょうか~
そして!仕事納め!でしたかー?
早速第三弾行きます!
ときドキ時計 CV.07 出雲風美(クーデレ・幼馴染)CV:斎藤千和
SS.03 出雲風美『会えない時間は交換トリックで』
シナリオ:関根聡子
貴重な昼食の時間は一時間――。
クラスが違う彼と一緒にいられる学校での時間は、それ以下でも、それ以上でもない。
――それなのに。
『ねえ、食事中になに読んでるのよ』
私は彼に話しかけた。
せっかく幼馴染みが早起きして作ってきた弁当を前にしてもなお、小説を読みふけるような男の子ってどうなのだろう。時代が時代なら、島流しや絞首刑、さらには異端審問会で逆さ張り付けの刑が下ってもおかしくないのではあるまいか。
ミートボールを口に運びながら、「これは謎解き小説だよ」と、彼が言った。
『それは私の手作り弁当より大事なもの?』
もぐもぐと口を動かしたまま、彼は答えない。本の中の謎解きに夢中なのだ。
まったく――小説なんてすぐ読めちゃうじゃない、あなたなら古典だって速読可能でしょう? 先生も驚いていたわよ、本校始まって以来の神童だって。その後あなたが白紙のテストを提出して、先生方はぬか喜びしたって勝手に残念がってたけど。
テストなんかであなたの素晴らしさがわかるわけないのに――。
『――で、なに読んでいるの?』
だから新本格推理小説だよ、と彼は答えた。
新本格? 本格とどう違うのだろうか。新がつくというからには、きっと新しい本格ミステリーなのだろう。
彼は「あぁ、でも中盤からはメタミステリかも」と付け加えた。メタミステリ? それは造語だろうか。そしてそれは彼女のとの食事中もすることなの?
私が眉間に皺を寄せて彼の読書姿を睨んでいると、「読み飛ばせなくてさ」と爽やかに笑った。私は彼のこの顔に弱いのだ。
『……本格と新本格とメタミステリはどう違うの?』
「色々違うよ」と、返すには返すが、結局視線は小説に向けられたまま。
……私が本に負けてしまうとは――。
その後も必死に話しかけてみるが、彼の視線は一向に弁当に向かない。
『それ……そんなに面白いの?』
彼はうなずいた。どうやらもうすぐトリックが解けるらしい。
彼曰く、「推理小説というのは、いわゆるパズル小説のこと」、だそうだ。
そして、「君のほうが得意だと思うけど――」、と彼は付け加えた。
確かに、理数系で私の成績に敵う者はこの学校にはいない。だが、それは知識の度合いとは違うのだ。彼の方が知識を大量に所有している分、IQを競えば私よりも数段高いのではないだろうか――。
『で、どんなトリックなの? まだ解からないの?』
私は彼に、お弁当に集中して欲しかった。この私が朝早く起きて、がんばって作ったのだ。
――なのに。
「面白い推理小説は1ページも飛ばせないんだ」、ですって。
『……そんなに面白いなら貸してよ』
私は彼から小説を引き離そうとした。
彼はまた爽やかに笑い、「読み終えてからな」と言った。
私は字が書いてあるだけの紙の束に、完全に敗北したのである。
× × ×
放課後――机に向かい、私は小説を読んでいた。
彼は生徒会の活動で会うことはできない。
――やはり、昼食の時間は大事だと再確認した。
ページをめくる。読み進めれば、確かに犯人よりもトリックに惹かれていく――。
もう夕刻だ、早く帰らなければ――とさらにページをめくる――。
珍しく居残りしている私に、友人の能代千尋が話しかけてきた。
でも、今は――。
千尋の「なに読んでんだ?」という問いかけに、言葉を返す。
『――謎解き小説よ、一言で言えば』
私はさらに推理小説についての自分なりの見解を付け加えようとしたが、言葉をつぐんでしまった。
次のページの衝撃的な展開に、思わず夢中になってしまったのだ。
確かに、この小説は面白い。彼が夢中になるのもうなずける。
私は知った――。
どんな大切な人でも、無下にしてしまうほどの小説はあるものなのだ、と。
彼が私と私の弁当を無下にしたのも――まぁ、わからなくもない。
でも、私とあなたとは、推理小説を読む動機が違う。
私が本に夢中になっているのは、あなたとの時間を共有したいから――。
あなたが読んだ本を私も読むことで――あなたがめくったページをめくることで――あなたは何を考えていたんだろうと考える。あなたと一緒にいられない時間も、これで素敵なものに変わる。
あなたと一緒にいられない時間も、あなたを感じられるように――。
× × ×
昼食の時間――。
あなたが新しい本を持ってやってきた。読み終えたばかりの推理小説らしい。
『今日は西洋館と密室トリックか――』
なかなか面白そうだ。最近の彼の趣味は、論理的なものが多い。彼が好きなものなら、ますます興味をそそられる。
そして私たちは交換する――私は彼にお弁当を――彼は私に小説を――。
//END